049 副会長とSOSメール
食後の後片付けをしながら何やら話し込んでいる二人の先輩を俺はそっと盗み見る。
ハル先輩の提案に頭を押さえてうずくまりたいところだがそうもいかない。
『秋津が自分から言うとは思っていなかったけど……この際だから、きよらは誰かと付き合ってみるといい』
それが恋愛談義からの発展である恋愛講座になるとハル先輩は言う。
お試しというのは失礼だと思う。
恋は遊びじゃないだろう。
いや、遊びのような恋をすることもあるのかもしれない。
中学の時の浅川花火がしていたのは火遊びだ。
自分で本気じゃないと言っていた。
お互いが納得しているのなら俺は何も言えない。でも、何も思わないわけじゃない。
もしこの先、俺が本気で一人を求めた時にきっと後悔することになる。悲しくさせる人を出してしまうかもしれない。
「こんな時こそ相談窓口」
風紀の相談窓口というか一人の風紀委員の後輩にメールをする。内容はもちろん恋愛にお試しはアリかナシかだ。意外にもすぐに返信がきた。
『人を好きになったことはありますか? もし、初恋の相手にフラれたのならその人と全く逆のタイプの人を好きになる努力をしてみるといいかもしれません。それか、あみだくじで決めるといいです』
もしかしてエスパーなんだろうか。エスパーは博人の領分なのに一年生に取られた。どうしよう、博人。と、そんなことを思っていたからか博人からメールが来た。警備員さんがいる門のところにいるけれど敷地に入っていいかという内容。
ハル先輩に聞くと警備員さんに連絡をとって博人を入れてくれた。
あっちゃん先輩は真面目な顔で牛乳を飲む。コーヒーとかじゃない。牛乳だ。ギャップがある気がするけれど、いつもかもしれない。キリっとピリッとしたあっちゃん先輩には梅こぶ茶を渡したくなる。ほっと一息、みたいな感じで。
「誰かときよらの交際ですか……」
ハル先輩の言葉に博人が口元に手で隠すようにしながら何やらつぶやく。シンキングタイム。どんな結論が出るのか分からないけれどドキドキ。
「悪くない案だと思います」
先輩を立てるのか親衛隊長としての言葉なのか博人は静かに頷いた。
俺を見る博人の瞳は揺れている。誰を選ぶのかと聞きたいんだろう。
選ぶなんてとても偉そうな感じで俺には出来そうにない。
だからここはメールの案を採用させてもらう。
「あみだで!」
一拍おいてハル先輩とあっちゃん先輩に「なんでやっ!」とツッコミを入れられた。
さっき俺が披露しただけでツッコミをマスターしている。しかも声を揃えたダブルツッコミ。
一年、年上なだけだと思っていたけれど先輩ってすごい。
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