やさしさをあげよう | ナノ

  2 また暇な時に指名してやろうか?


 言葉が少ないユメに延長に次ぐ延長で聞きだした話は悲惨としか言えない現状だった。
 そもそもふくよかというか率直にデブってるユメに需要があるのかという俺にとっては重要なことを聞いた。
 なぜ重要かといえばユメが来たのはチェンジ料を無駄に取らせるためなんじゃないのかという疑惑があるからだ。それは客の立場から言ってムカつく。クレーム入れてやりたい。

 確かに嬢の指定はしなかったが雑用のボーイを寄越すのはマナー違反だろう。

 ユメはデリヘル嬢でもなんでもないという俺の推理は外れた。どうやらユメの需要はゼロではないらしい。やはりデブ専のゲイがいるのか。それともゲイはデブ好きなのか。そのあたりの話は少し興味をそそられたがとりあえずはユメのことを聞いた。
 
 ユメがデリヘルにいるのは親の借金のせいらしい。両親が急に居なくなって高校中退してそれから五年間ずっと借金返済のためにデリヘル務め。金額は五億で毎月利子を返すので精いっぱい。

 その話を聞いて俺は気になった点を更に詳しく話してもらった。

 親の借金は子供に行くわけじゃない。死んでたら遺産相続を破棄すればいい。子供に親の借金を支払う義務はない。未成年者で五億なんていう法外なものなら尚更だ。無料の弁護士相談にでも行くべき案件だ。
 
 違法な匂いに野次馬根性でユメに根掘り葉掘り話を聞いた。口が上手い方でないユメは嘘を吐くという考えがないのか俺の聞いたことに何でも答えてくれる。素直なんだろう。
 
 話している内に気が付いたのはどもり癖があるということだ。ただそれを気にしないでいてやるとわりとスムーズに話す。

 どもって焦ってさらにどもる悪循環の中にハマってしまうらしい。学生時代にそれでだいぶイジメられたと口にするユメ。

 よくよくユメを観察していると身体に傷があることがわかる。顔に殴られたような傷跡がある。DV彼氏でもいるのかと尋ねると仕事で負った傷だという。
 
 デリヘルでのユメの仕事は性的な奉仕よりもサンドバッグがメインだという。
 
 それはおかしいと口にする俺にユメはあきらめたように笑う。普通は客が暴力をふるってきたら即ブラックリストで次はない。けれどユメの客は金払いがいい上に店のオーナーの親戚だという。その上、聞くところによるとユメの中学からの同級生でイジメていた人間だという。すべて仕組まれているんじゃないのかとポロっと口にした俺にショックを受けたようなユメ。考えもしなかったらしい。
 
 デブ専門でもないデリヘルでデブで指名のないユメ。今までサンドバッグであっても指名してくれるいじめっ子に感謝していたというのだから救えない。素直で純粋で無知すぎる。働いても働いても楽にならない借金と日々のデリヘル生活。ユメが普通に物事を考えるゆとりがあるわけもない。元々積極的な性格でもないだろう。怒鳴られれば委縮して睨まれれば心を閉ざす。
 
「また暇な時に指名してやろうか?」
 
 俺の言葉に驚くユメ。うつむきかけるユメのあごを上向かせた。やわらかい触り心地に思わず笑う。
 もちろん性的なことをするつもりはないとデリヘル嬢的にはプライドを傷つけるかもしれないことを言う。デリヘルに勤めていてもユメはあくまでもノーマルな性癖で男が好きなわけじゃない。だから俺の提案は都合がいいはずだ。

 俺の申し出に半信半疑な顔をしながらも喜ぶユメはかわいいと思った。
 第一印象の肉のかたまりが玄関で見送る時にはオレンジ色のグミだ。ユメから柑橘系の爽やかな香りがした。

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