やさしさをあげよう | ナノ

  ハロウィン一 あれでいいぞ


※2017年ハロウィンアンケートで読みたい話としてあげてくださった方がいるので掲載します。

時系列順にするためにあとで掲載位置を変更するかもしれません。
ご了承ください。
 
 
 
 テレビにアニメを見る以外の使用が許された。
 それは俺に対する自由度が上がったということなのかもしれない。
 田山さん的な情報の解禁の仕方。
 
 それまではテレビがあってもアニメを見る機械でしかなかった。
 外の情報を手に入れるためのものではない。
 俺もそれに不都合を感じなかったので問題だと思わなかった。

 ある日、田山さんが俺の尻を枕にしながら雑誌ではなくテレビを見た。
 バラエティ番組だった。
 それが解禁の合図だった。
 
 田山さんの気まぐれだと思っていたそのテレビの使用はその後もたびたびあった。
 俺に向かって見たい番組を聞くこともある。
 どうやら田山さんの中で段階が一段進んだらしい。
 俺に温泉地に行きたいかなんて聞いてくる。
 お腹の肉を引っ張りながら「部屋に露天風呂ついてるってよ」という田山さん。
 
 旅行に行ったことがない俺は困ってしまうが田山さんが行きたいのなら行きたいと答えた。満足のいく答えだったのか胸を揉まれた。人に裸を見せる公衆浴場は恥ずかしい。けれど温泉には少し興味があるし、部屋にお風呂があるなら行きたいかもしれない。テレビで出ている旅館のお料理もおいしそうに見える。
 
 田山さんが番組の内容を気にしている中で俺はCMから感じられる季節にすこし驚いた。いつの間にか秋になるらしい。ハロウィン、ハロウィンと盛り上がっているCMに思い起こすのは中学の記憶。桐谷に近くのファミレスから遠くのケーキ屋さんやレストランまで連れまわされた。各店舗のハロウィン限定のお菓子や料理を食べ歩いた。
 
 最初の一店目は嬉しかった。今日の桐谷は優しいのだと安心した。奢ってもらっていることに悪いと思いながら喜んでいた。俺は馬鹿だった。出されたものをおいしく食べた。二十店目にもなれば食べ物も飲み物も喉を通らない。俺の手の進みが遅いと店が出している商品が悪いのかと桐谷はたずねる。そうではないと証明するために完食してしまい次の店に向かうことになる。
 
 自分の流されやすく自己主張できない性格を恨みながら最終的に結構な量を十月三十一日に食べることになった。
 無理に食べ物を口に詰めるのは空腹感をそのままにするのと同じぐらいに苦しい。
 
 そういうことがあったのでカボチャ料理は苦手だ。桐谷ににらまれながら口の中にカボチャ料理を詰め込み続けた記憶がある。中学だけではなく店で働きだしてからも調理前の硬いカボチャをぶつけられてあざを作った。投げつけられたカボチャはその後、調理して食べさせられたりした。カボチャにまつわる記憶がよくないものばかりでハロウィンのCMが怖くなった。
 
 俺の反応に気づいたのか田山さんがどうしたのか聞いてくれた。ゆっくりと根気よく俺の言葉を待ってくれる田山さん。俺はだいぶ言葉を探しながら過去の出来事と苦手意識を打ち明けた。
 
 俺の言動を哀れんで「苦労してるよなあ」と言いながらお尻や太ももの肉をつまんで遊ぶ田山さん。いつも通りで俺の気持ちを否定したり、俺の置かれた状況を肯定したりしない。
 
 正しさがどこにあるのか分からない世界でも田山さんは田山さんなんだろう。
 俺にカボチャをぶつけて来ないし、俺に無理やり食べさせようともしない。
 
「正直、エロい格好してるユメが気になった」
「え、えぅろぅ?」
「ユメの仮装って言ったらカボチャ姿とかだろうけどな」
 
 たしかに去年、オレンジ色のかぶりものをさせられてカボチャのお化けとして殴ったり蹴られたり転がされた気がする。
 忘れていた過去が甦りうつむく俺の頭を田山さんが撫でる。
 その手はいつも通りに少しの乱暴さもない。
 
「ユメの代わりに俺が血まみれになってハロウィンやろうか」
「……うぁ、ホラーは」

 震える俺に「冗談だ」と口にする田山さん。
 ハロウィンを否定する俺を責めることもない田山さん。
 言っていいのか悪いのかと心の中にあるぐるぐるとした気持ちを口に出したくなった。
 失言にならないのか怯えながら田山さんの優しさに甘える形でどもりながら田山さんに俺なりのハロウィンを伝えようとする。ハロウィンであるのかもよくわからないので言い難いが田山さんは辛抱強い。

「小豆と一緒ならカボチャも食べれそう、で」
「田舎のばあちゃんとかが作りそうなメニューだな」
「食パンに入れたら美味しくなりそうだと思って」
「あぁ、それで……最近パンにいろいろ入れていいのか聞いてきたのか」
 
 粉を入れてセットしたら食パンを作ってくれる機械を田山さんが買ってくれた。
 すごく美味しくて俺が感動していたら俺たちの朝はいつもパンになった。
 ときに田山さんのお弁当として持って行かれるパン。
 パン生地自体に味をつけると出来立てに何もつけなくても美味しい。
 
 小豆とカボチャと抹茶と練乳という菓子パンをテレビで取り上げていたのでパンにする組み合わせとして小豆とカボチャの相性は悪くないはずだ。
 
「バレンタインデーはショコラブレッド? あれでいいぞ」
 
 来年のことを当たり前に言ってくれる田山さんに嬉しくて抱きつくと「返事はちゃんとしろ」と言いながらお尻を揉まれた。
 
 十月三十一日、俺の作った小豆とカボチャの食パンは全部、田山さんのお腹の中に入った。
 田山さんはとても優しい。
 
 
2017/10/06

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