オマケ一 いいよな?
少年は予定通りなのか一週間で去って行った。
すこし淋しさがあるけれど安心したところもある。他人と話すことに俺はまだ慣れていない。教えてもらった料理はお世辞かもしれないけれど田山さんは美味しいと言ってすごく喜んでくれた。それは本当に良かった。俺が役に立てることはちゃんとあるんだと安心した。元々あまり食べない方らしい田山さんがおかわりしていたのを少年は驚いて見ていた。少し心配そうだったのは印象的だ。少食な人がいっぱい食べていると珍しいからというには心配し過ぎだ。何かあるんだろうか。
ただのチャーハンだったんだけど、また作ってくれと言われることがあるので美味しいと思ってくれたのは嘘じゃないはず。田山さんはそういった嘘や誤魔化しをしない。
「あの子はまた来ますか?」
「……あの人?」
聞くべきか聞かないべきか悩んだけれど大丈夫だと判断して田山さんにまた会うことがあるのか聞いてみた。今回のはイレギュラーだったので次の機会は分からないらしい。
「デウスは多忙だからな」
どこからどう見ても日本人に見える少年を田山さんは「デウス」と呼んだ。
もしかして日系の外人さんだったりするんだろうか。
悩んでいると「本名がないからあだ名みたいなものらしい」と教えてくれた。名前がないなんていうことが有りえるのかはともかく少年、デウスは多忙らしい。
もう日本にいないというから中学生ぐらいに見えて違うのかもしれない。
「俺の上司みたいなものだからユメのことを反対されたらヤバかった」
「あ、あの、それ、は」
「あぁ? デウスは応援してくれるって」
頭を撫でながらの田山さんに答えにホッとする。
この生活が終わることじゃなくて田山さんと一緒にいるのが相応しくないと言われるのは悲しい。
今の俺にだけ優しいような生活はおかしいけれど田山さんは満足そうにしている。それならその幸せを壊すべきじゃない。デウスは俺のその考えを「とても賢い」と褒めてくれた。普通なら年下にそんなことを言われたら馬鹿にされていると思うんだけどデウスは本当に心から俺を称賛してくれたと思う。
とっておきだというプリンを作ってくれたからかもしれない。美味しかった。あの味を再現するためにもう一度会って作り方を聞きたい。物覚えが悪いからか俺ではレシピを聞いても再現できなかった。田山さんは俺の作ったものが気に入ってくれたみたいだから怪我の功名なのかもしれない。失敗を成功にしてくれるのが田山さんの優しさだろう。
「デウスは俺の教育係をしてたから口出しの権利があるんだよなー」
少年の一言の威力は絶大という話だろう。俺はデウスの機嫌を損ねることがなくて本当に良かったと思った。ただ一緒にアニメを見たり料理を教えてもらっただけで何も特別なことはしていない。
「俺が知っている人間の中で一番強い」
「心が?」
「元からそんな気はないけど殴ろうとしても当たらない」
普通の少年に見えたけれど武道の達人なんだろうか。田山さんが人に殴りかかるなんて想像できない。そんなこと面倒だと考えてそう。色んな意味で意外に思っていたら「俺が弱いわけじゃねーからな?」と念を押された。
ちょっとかわいいと思った。
そんな前言は撤回したくなるベッドの中。
デウスが帰ってからも俺はベッドに縛られることもなく暮らしていた。
段階的に許可が出た感じだ。田山さんのいうタイミングだろう。俺は特に急かすこともなく田山さんの指示を待つことに決めていた。デウスもそれが賢いと言ってくれたので考えなしじゃない。
「運動しろって言われたんだった」
デウスの話題のせいで思い出したと浣腸をされてお腹を空っぽにされた後にエッチをすることになった。
手足の拘束はなくなってベッド以外にも歩き回れても浣腸は未だに続いている。これも田山さんが考えるタイミングでなくなるんだろう。
「熱が出るし、しばらく出歩けないけど……足に刺青入れていいか?」
俺の足にキスをしながら口にする田山さん。その仕草が格好いいけれど恥ずかしい。言葉が上手く出て来ないので首を縦に激しく振った。
「絡みついてる蔦みたいなのをふくらはぎまで……」
俺のふくらはぎを噛みながら「餅みてえ」と笑う田山さん。
田山さんはよく俺の身体をマシュマロとか大福とかいう白くて柔らかいという意味で悪口じゃない。
デウスは愛情表現だと言ってくれたし、素直に喜んでいいんだろう。
コンプレックスだった体格のことを田山さんは真っ直ぐ褒めてくるので恥ずかしい。
ローションで濡れた田山さんの指先が俺の内太ももを撫で上げる。具体的な場所に触れられていないのに反応するのが浅ましい。でも、田山さんが楽しそうだからいいのかもしれない。
「最終的にこの白いキャンバスは全部俺の色に染まるけど、いいよな?」
疑問形でありながら田山さんの中では決定事項みたいなことを口にされる。俺の裸なんて誰も見たいと思わないだろう。田山さんだけが見るのだから田山さんが決めてもいいと告げると腹の肉で遊ばれた。照れているらしい。
ベッドでは狼なんて思ったけれど田山さんはやっぱり田山さんだ。
ゆるい雰囲気で適当で投げっぱなしなところがある。だらっとして緩い感じ。
俺の胸に顔を擦りつけて「射精しなくても満足させるとかある意味プロだな」と呟かれる。
すごく喜んでくれている田山さんに俺の嬉しくなる。
きっと刺青を入れたいというのは田山さんの愛情表現。
それなら俺はそれがどんなにつらくても我慢できる。
熱が出ていたくても田山さんが身体に染み込んでいくのは嬉しい。
田山さんが刺青を好きなのは背中を見てから気兼ねせずに話題に出されたことでよく知ることになった。
だから刺青を彫りたいと言ってくれるのは田山さんからすると悪い意味じゃない。
いつも読んでいる雑誌もデザインの勉強の一部だという。
副業だといっているけれどそこそこ儲かっているらしい。
いつか田山さんがいいと思う日が来たらその仕事を俺が手伝うことがあるかもしれない。
今はまだ家事などで細々と田山さんを支えていけたらいい。
prev /
next