愛があまりに遠すぎる | ナノ

  肉便器なので浮気以前の問題です6


 幼い日に見た夢。
 
 道具になりたいという気持ちに共感してくれる人はいるだろうか。
 匠の手により創られた作品、一点ものの芸術品、そういったものに僕はとても惹かれた。
 初めは自分もそういったものを作りあげる創作者になりたいのだと思っていた。けれど違う。
 僕はいつしか自分もそういったものになりたいと思うようになった。

 愛されて重宝される最高の道具。
 人々を魅了するオブジェ。
 
 木佐木(きさぎ)冬空(とあ)になることはありえない。
 木佐木(きさぎ)冬空(とあ)の創造物になることもありえない。
 
 でも僕は愛され続け消えることのない道具になりたい。
 歴史には残さず記録だけを残した最高の芸術品。誰も見ていない作品と肩を並べることができなくても末席に座りたい。
 有用で有能で必要不可欠な道具になれれば僕は幼い日に見た夢を叶えたことになる。
 
 永遠が手に入るのだ。
 
 誰かに押される烙印じゃない。
 自分の中に広がる納得。
 
 道具として誰も太刀打ちできないぐらいの性能を得たい。
 磨き上げて積み上げて貫き通せば到達する、そう信じている。
 
「会長が僕をいらないというのなら別の人を探さないといけませんね」
 
 親衛隊長に対して告げながら考える。
 理事長あたりに進学先や就職先の相談をしておくべきだろうか。
 最悪、秘書としてそこそこの働きを僕はできるから理事長室に置いてもらおう。
 理事長室にくる人間はある程度の立場の人だから公衆便所よりも教員用トイレぐらいの扱いだろうから肉便器的にも酷いことにはならないに違いない。
 
「……会長様のこと好きじゃないの?」
 
 好きなのは告白をしてきた会長の方だと思う。どうして僕が会長のことを好きだということになるのだろう。
 不思議に思って首を傾げていると後ろから抱きしめられた。慣れ親しんだ香りに口元がほころんだ。
 
「どうかされましたか、木佐木会長」
「メチャクチャ不穏な発言が聞こえたしありえない質問の応酬があったな?」
 
 隊長を会長がにらんだのかピリッとした緊迫感のある空気が漂った。
 会長は怒りっぽいのか何なのか時々こういう状態になる。
 僕はもちろん肉便器として快適に過ごせるように気を配る。
 
「特に何もなかったと思います」
「同い年なんだから敬語はいらないと言っているだろ」
 
 不満げな会長に僕は従えない。
 彼は僕が目指す境地である至高の創作物への足掛かりになる人だ。
 木佐木(きさぎ)冬空(とあ)の縁者。
 生まれた時から木佐木(きさぎ)冬空(とあ)の創作物に囲まれて育った彼はそれだけで特別な存在だ。
 彼に欠かすことができない立場に僕がなれたならきっと幼い日の望みが叶う。
 
 壊れない終わらない永遠にあり続ける道具になる。
 それはとても心が躍る幸せの世界。

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