愛があまりに遠すぎる | ナノ

  蛇足なオマケ 木佐木会長の相談場所


本当に蛇足なので注意。
小説でチャット表現などがお嫌いでしたら読まずにいてください。

他作品読んでいる方は笑うか驚きます。


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 人に相談できないのは人間的に未熟らしい。少なくとも木佐木冬空はそういった言葉を残している。友人がいないのは淋しいことだというけれど木佐木冬空に友人などいたのだろうか。聞いた限り他者を寄せ付けない偏屈な人物だ。
 
 天才や芸術家というのは自分の世界を持っている人間だから他人を必要としないのかもしれない。
 だからこそ教訓として他人の必要性を口にしたのだろう。
 
 けれど、俺は木佐木の人間であるということで人の相談を受けることがあっても自分がすることは出来ない。相談するにも相手を見てしないといけないのだ。信用できる人間はそこら辺に転がっているわけがない。けれど、そんなとき逆転の発想ができた。
 
 俺のことを何も知らない人間にこそ相談をすればいいのではないのか、そんな普通じゃない考え。案外これが助かっている。
 
 
クイーン:こんばんわです〜

くもりよ:ばんわ

わんわん:お妃様、おひさしー

 
 ソーシャルゲームの簡易文字チャット。メインはゲームなのでチャットは過疎であることが多い。
 それにネットトラブルで聞くような人種が見られないので居心地がいい。
 適当すぎる時があることもあるけれど真面目な話をすればきちんと相談に乗ってくれる。
 顔を合わせていないからこそ相手の意見を尊重して話している気がする。
 リアル、いわゆる現実の友人たちには言えないこともこのチャットの中でなら口にできる。
 
 ちなみにクイーンは木佐木(きさぎ)から妃から女王という連想とオカマなどをクイーンと呼ぶからだ。俺はいわゆるネカマだ。女性だと明言はしていないがゆるふわじょしを想定して発言している。発言が自分自身の相談という感じにならないからこれはこれで客観的になれていい。
 
 ただ気になるのはわんわんがクイーンに対してお妃様と呼んでくるのだ。普通はクイーンは女王や女帝だ。まあそれほど気にすることはないだろうけれど一瞬バレているのかと思ってしまった。
 

ヴぁんぷ:こんばんは、クイーン
ヴぁんぷ:ログインしないから卒業かと思っちゃった

クイーン:ご無沙汰です〜リアルでいろいろあって〜
クイーン:いま、相談いいですか?
 
くもりよ:いいよ
くもりよ:新しく解放されたストーリー終わったとこだから
くもりよ:レベル上げはオートにしとくし

わんわん:相談ってもしかしてハツコイ話?

くもりよ:わんわん恋バナ好きだよな〜

わんわん:わんわんはわんわんなので野次馬根性を全力で出していきます!!

クイーン:いつもながらに潔いですね〜馬じゃないあたり和む〜わんわんお
クイーン:でも、今回はちょっと伏字になるかも 

くもりよ:えろか、**話か
くもりよ:あぁ!! カタカナでえろはダメかぁ!!
くもりよ:運営の判断がわかんねぇ

ヴぁんぷ:年齢制限入れたから低年齢からは閲覧できないよ
ヴぁんぷ:伏字もカイジョー
ヴぁんぷ:好きなだけエロをエロエロ語りなさいな
 
 
 ヴぁんぷというのが誰なのかはもちろん知らないけれど普通なら知らない機能や裏技を教えてくれたりする。ゲームを始めた頃からいるので古参というやつなんだろう。わんわんも同じだ。ゲームをしているとチャットのメッセージが発言者と冒頭部分だけ通常画面で出るのだがわんわんの名前はよく見ていた。
 
 一方的に親近感をもってわんわんに話しかけて仲良くなった頃にくもりよに出会って三人話すことは増えた。
 
 
クイーン:えっとぉ
クイーン:男性にお聞きしたいんですけど
クイーン:肉便器ってロマンなんですか?
クイーン:わたし、そういうの分からなくって

くもりよ:え?

わんわん:うーん

ヴぁんぷ:あぁ、彼氏がそんなタイプだった?
ヴぁんぷ:告白成功おめでとう

クイーン:ありがとうございます
クイーン:ずばり、肉便器どうですか?

くもりよ:エロ本のジャンルとしてはメジャーどころだけど
くもりよ:いまどきは純愛和姦メインじゃねえの
くもりよ:でもときどき凌辱ものはほしい

わんわん:彼氏が肉便器にロマンを感じてるなら肉便器になってあげるのが愛情じゃない?

くもりよ:わんわん過激派か!!

ヴぁんぷ:そういう愛情もあるよね
ヴぁんぷ:俺の知り合いにも
ヴぁんぷ:彼氏の趣味が異様だっていうので悩んでた子がいるわ

わんわん:ちなみに?
わんわん:どういったご趣味です??

くもりよ:ここでも発揮される野次馬根性!

ヴぁんぷ:ハメ撮り好きでそれを人に見せるのが好き? みたいな?

くもりよ:無理だわ
くもりよ:彼氏最低じゃねえ?
くもりよ:自分に置き換えて考えてみてもムリどんな美少女でもムリ
くもりよ:でも性癖以外最高な相手なら悩むーあうあうあー

わんわん:エロ系の動画サイトに投稿される恋人ハメハメがなくならないわけですー
わんわん:お妃様のお悩みは王様に肉便器にされないためにはどうしたらいいのかってこと?
わんわん:肉便器を求める男性心理そのものが知りたい?

クイーン:後者です
クイーン:肉便器の良さってなんですか?
クイーン:彼の趣味は理解してあげたいです
クイーン:ただの恋人じゃダメなんですか?
クイーン:ちゃんと愛し合ってるはずなのに
クイーン:不安になってきます

 
 文字を打ち出してから自分の中のグチャグチャな気持ちに納得がいった。
 俺は彼からは愛されていないことに傷ついたのだ。告白した時に身体だけの関係だと言われた気がして悲しくて苦しかった。
 自分の不安に気づかずに彼から逃げてでも逃げきれない。好きだから無視できない。
 
 
わんわん:で、王様の望みをお妃様は叶えられなさそう?

クイーン:望まれたことを全部叶えるのが愛ですか?
 
 
 俺の気持ちも大切だが何より考えないといけないのは彼自身のことだ。
 彼が中学の先輩たちによってたかって受けた暴行。
 それはきっと心の傷になっている。
 肉便器なんていう言葉で誤魔化しているだけなんじゃないだろうか。
 自分の傷を見ないようにしている。
 それはかえって痛ましい。


クイーン:わたしは彼と一緒にいたいと思っていて
クイーン:その場だけとか身体だけとかイヤなんです〜
クイーン:ラブラブがいいのぉ 

ほっぷすてっぷ:やっほぉ☆
ほっぷすてっぷ:このごろ落ちやすいから楽しそうな話題だけど参加しないで戦闘終了待ってた
ほっぷすてっぷ:肉便器が男のロマンか?
ほっぷすてっぷ:当然だ
ほっぷすてっぷ:ロマンもロマン、ちょーマロン!!!

くもりよ:クリかよ!

ほっぷすてっぷ:自分専用のオナホとか最高じゃねえ?
ほっぷすてっぷ:それが彼女とか一生大事にするわ
ほっぷすてっぷ:生オナホ萌え〜

クイーン:オナホってオナホールですか?
クイーン:彼女をそんな扱いするなんて最低っ
クイーン:ほてっぷサイアクぷんぷんです

ほっぷすてっぷ:もしかして
ほっぷすてっぷ:彼氏にもそう言ってケンカ?
ほっぷすてっぷ:ってかほてっぷ言うな
ほっぷすてっぷ:這いよる混沌みたいじゃん

ヴぁんぷ:無貌なる神

くもりよ:いあ いあ はすたあ!

ヴぁんぷ:とりあえず言っとけ的な?

くもりよ:いや、触手すきっすよ

クイーン:ネタが分からないです〜
クイーン:ごめんなさい
クイーン:窓が! 窓が!

ヴぁんぷ:惜しい
ヴぁんぷ:窓に! 窓に! だね

わんわん:あー
わんわん:告白するって言ってその後に姿が見えなかったのって

クイーン:その通りです
クイーン:告白したらその……肉便器の話になって
クイーン:ショックで

ヴぁんぷ:彼はセクハラ男かすごい馬鹿かメチャクチャ純粋のどれかだね

くもりよ:たぶん彼氏、友達いないだろ

わんわん:空気読めない系だー

クイーン:でも好きなんです!!

ヴぁんぷ:純愛だー
ヴぁんぷ:応援するよ

わんわん:コミュ障も生きてるんだ
わんわん:焦らせずにガンバ

ほっぷすてっぷ:ってわけで結論が出た

クイーン:出ました??

ほっぷすてっぷ:クイーンはちゃんと彼氏の希望通りに肉便器になってあげること

クイーン:え? えぇ??

ほっぷすてっぷ:恋は惚れた方が負け

わんわん:確かに確かに
わんわん:お妃様は愛する王様のために望みを叶えてあげないと

くもりよ:でも肉便器はイヤがってるのにするもんじゃないでしょ 
 
クイーン:いえ
クイーン:いやじゃないです
 
 
 書いてからそれなら何も問題ないと返信されてしまうと焦る。
 クイーンが女性なので立場を逆転させて相談しているのが何とも変に噛みあわない。
 彼の気持ちが知りたいから普通の一般的な男性がどう思うのかこの場で質問した。
 けれど、彼が本気で肉便器になりたがっているのか自分の心の傷を誤魔化しているのか判断ができない。
 彼と身体を重ねることで彼を傷つけるのではないのか、その気持ちが消えない。
 

クイーン:彼に嫌われたくないんです
クイーン:口に出していることが本音とも限らないじゃないですかっ

ほっぷすてっぷ:そんなこと言ってもなぁ
ほっぷすてっぷ:俺たちは直接彼氏のこと知らないし

クイーン:そうですよね、すみません
 
 
 あくまでも最終的な決断をするのは俺自身だ。
 俺の中にない価値観を彼らは教えてくれるけれど押し付けることはしない。
 高校に上がる前に告白する切っ掛けもこのチャットで得た。
 小学校の頃から好きだった相手が中学進学で離れてでもまた再会できたという話をしたらみんなが背中を押してくれた。
 

くもりよ:口に出していることが突飛だとしても
くもりよ:本当か嘘かはクイーンがわかるんじゃない?

わんわん:お妃様は王様のことを愛しているんだよね?
わんわん:なら蜘蛛りょんが言う通り王様の気持ちわかるでしょ
わんわん:好きな相手の本気の気持ち見えないわけない
わんわん:否定の理由が常識とかなら捨ててよ
わんわん:王様じゃなくて常識が好きなら常識と結婚すればいい

くもりよ:わんわん過激!!
くもりよ:まあ結局はそうなるよねー
くもりよ:どこまで相手に許せるかって話になる

ほっぷすてっぷ:求め過ぎたら破滅

わんわん:妥協とか折り合いって必要だよねー

ヴぁんぷ:どのぐらい相手を好きかによるんじゃない
ヴぁんぷ:相手がいつでも自分の要望を押し通すタイプなのか
ヴぁんぷ:譲れないのが肉便器だけなのか

わんわん:その見極めは大切かも?

くもりよ:まあ肉便器が無理なのは普通だからクイーンは気にしなくていいと思うよ

ほっぷすてっぷ:肉便器が欲しい男なんて万と居るから
ほっぷすてっぷ:あ、クイーンが肉便器になるかどうかだったか
 
 
 ほっぷすてっぷの発言に心臓が冷えた。
 そうだ。彼を欲しがる人間は俺だけじゃない。そんな当たり前のことを忘れていた。
 彼が肉便器になりたがっているのか口だけなのかどちらであっても離さないと決めた。
 

わんわん:自分に理解できない価値観だとしても否定するより先に考えてあげて
わんわん:好きなら受け入れろ、望みを叶えろなんて言わない
わんわん:ただ否定する前に考えてあげて

ヴぁんぷ:常識は環境に左右されるからね 

くもりよ:肉便器を彼女に求めるのが普通な場所ってどこ
くもりよ:オタク界隈?
くもりよ:そんな馬鹿な……


 それからもう少しチャットで会話しながら俺は彼を本当に好きなのか、どのぐらい好きなのか考えた。
 まだ自分一人で抱えきれない。
 彼の言い分が現実だと思えない俺がいる。
 パソコンの中には彼の中学時代の暴行の記録があるのに現実感がない。
 
「……んんっ」
 
 チャットをしている間にも彼は俺の性器を舐めたり口に咥えこんだりと奉仕してくれた。
 そうしながら挿入しやすいように自分の後ろを指で解している。そういう風に教えられていたのは動画で見た。
 そんな事をしないで欲しいと彼に頼むのはエゴだろうか。
 
 男友達の愚痴としてチャットで発言したらほっぷすてっぷがスゴイ食いついてきた。
 NTRを味わえて最高のシチュエーションだとテンション高い文字列が続く。
 ネットスラングは知らないことが多いので検索をかける。NTRは寝取られという意味らしい。彼女を寝取られている状態に興奮するとほっぷすてっぷは言う。ちょっと特殊すぎる。肉便器といいある種の人間を強烈に惹きつけるのは分かったけれど俺は彼を道具扱いするのではなくかわいがりたい、愛したい。
 
「気持ちいいですか?」
 
 意識をチャットに向けているせいで勃ってはいても達しない俺。口を疲れさせてしまったかもしれない。
 ごめんと謝罪を口にしそうになってチャットの文字を拾って思わぬ言葉が出た。
 
「お前は優秀な肉便器だな。気持ちいいよ」
 
 肉便器に掛けるべき言葉なんてものを雑談するチャットメンバー。
 すでにクイーンが発言しなくても気にしていない。
 
「ありがとうございます」
 
 笑う彼の姿は純粋で穢れない昔のまま。
 小学校の頃、人間不信者が寄り集まって世界を怖がっていた。
 顔が小奇麗でも家柄がよくても誰も信じられなかった。
 その中で彼は裏表なくどこまでも純粋だった。
 
 芸術品を愛していて、木佐木冬空をキラキラと輝いた瞳で語る。
 ただただ純粋で彼だけは壊れたり歪んだり汚れたりしないと思っていた。
 理想を押し付けていたのかもしれない。
 
 わんわんが言う通り好きなら相手のことが分かるというなら俺は彼を見ずに一度逃げた。
 この嬉しそうな笑顔を俺は見ていなかった。

 
わんわん:プライドがあるなら嫌いな人間にはどんなことも許しはしないのです

くもりよ:わんわんは撫でるのにお菓子ないといけないもんなー

わんわん:安売りはしませんワン
 
 
 チャットの文面が自分に向けられている気がして笑う。
 彼との愛が遠すぎると嘆くよりも自分から近づくべきなんだろう。
 俺に彼を合わせるよりもきっとその方が早い。

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