俺と親衛隊
生徒会役員は大体にして性格が悪い。
生徒の望みに応えて歪んでる。
俺だって最初からセックスに明け暮れるサルじゃなかった。
ただ無表情だと氷のようで近寄りがたくて恐ろしいと言われ続け、笑ってみれば麗しすぎて直視できないと言われた。何を試しても他人の反応は面倒なものが多く不愉快になった。
最終的に今の緩い口調や表情とチャラい格好に落ち着くことになった。
制服をキッチリと着ないことで張りつめているような空気が緩和されるらしい。
親衛隊と肉体関係を持てば普通の人間扱いされた。
ちゃんと人に対して欲情するってことは安心するらしい。
人間の持つ三大欲求、しかも思春期に身近な性欲をきちんと持っていることが人の証明になる。
その感覚自体はわからなくもない。
俺もチガヤくんが一人で自分を慰めていたら幻滅するどころか安心する。
やり方は知らないというのもかわいいけれど、健康的で普通の男の子らしさがあるチガヤくんだから、ムラムラして寝る前に抜くぐらいするだろう。ちょっとの罪悪感と開放感を覚えながら起きたら夜にしたことなんか忘れている。
貞操観念は女性が持っていればいい。男は吐き出すための生物だ。
だから、美人で怖くて非人道的で腫れ物扱いされるよりも美人で愛想よく下半身緩い方が集団生活の中ではまとも。
下半身が緩いと言っても俺は節操なしじゃない。
自分の親衛隊以外に手を出さないと有名だし、親衛隊に入るのは本人の意思であり俺が強制することじゃない。脱退だって簡単にできる。
そして、俺の親衛隊は過激派で知られており、親衛隊内の繋がりも強固。
俺の親衛隊イコール俺のお手つきに一般生徒は気軽に手を出せない。もちろん俺の親衛隊だってことを笠に着て好き放題するようなことは規則で禁止している。だって、他の隊員に迷惑だ。
さっきのビッチちゃんみたいな勘違いな子は俺の親衛隊の中にいない。
居られなくなる、というのが正しいかもしれない。
俺は勘違いちゃんや約束が守れない子が嫌いだから、そういうタイプは排除するよう隊長も隊員たちもしっかり働いてくれてる。
「面倒事は嫌いなんだけどなぁ」
編入生なんか関わりたくない。
会長から結果だけ聞いて笑うのが俺のポジション。
だけど、今回はそうはいかない。
他の誰でもない、大切な大切なチガヤくんがアレのそばにいる。
「厄介な相手を好きになりましたね」
自覚した時にちゃんと隊長にも他の親衛隊のみんなにも伝えている。
叶わない恋、少女漫画のようなフレーズと一緒に。
彼のためならなんだってできる、そういう気持ちを薄汚い俺は大事にしたい。
俺の中にあるピュアな感情。
これだけは絶対に壊れないと確信できる強い気持ち。
不安定な足場を固定させるための恋愛感情というやつは苦くて甘くて癖になる。
だから、同性である雄しかいないこの場所で恋愛が流行るのだ。
俺は他人に気持ちがわかるようになった。
恋とは偉大なものだ。
俺とチガヤくんの人生が交わることは永遠にないけれど、卒業するまでの期間、出会えたことを大切な思い出として噛みしめたい。
愛してほしいとは思わない。
恋してほしいわけじゃない。
「想いは届かなくても自分が知ってればよくない?」
残酷なことを口にしている。
親衛隊は自分を慕ったもので形成されているのだから裏切りのような言葉だ。
暗に俺は「きみたちの気持ちを受け取るつもりはない」と告げた。
でも、みんなしてそんな俺を慕っているのだから笑える。
チガヤくんを愛してると口にした俺を責めることなく彼らは祝福したのだから、笑うしかない。
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