雑草の名を持つ彼はこの世界で一番美しい | ナノ

  俺と一般生徒


 俺がチガヤくんに出来ることとはなんだろう。
 なんだってしてあげたい。
 なんだって出来るに決まっている。
 
 でも、だからこそ何もしてあげるべきではないのかもしれない。
 
 
 「会計様ぁ〜、今夜いいですか?」
 
 
 甘ったるい声を出して近寄ってくる初めて見る後輩。
 チガヤくんのことを考えていなければ無視して通り過ぎていた。
 チガヤくんのことを考えるという幸せな時間を邪魔したのだから、相応の報いは受けさせたくなる。
 
 かわいらしい容姿は次期生徒会役員になりそうだけれど、頭が弱いのはいただけない。
 俺が誰だかまるで分っていない。
 
「今夜って?」
 
 微笑んで聞いてあげると頬を赤く染めて上目遣い。
 あざとい仕草に肩を竦めたくなる。
 
 この学園は頭がおかしい人間と心の弱い人間と真面目に勉強を頑張っている人間の差が激しい。
 ずっと閉鎖された学園内で過ごしているから常識が抜け落ちてビックリするようなことを平気でするし、逆に守られすぎていて少しの打撃で心が壊れる。
 男子校である学園内で同性間での恋愛が流行するのはきっと安心がほしいから。
 ひと肌はとても心地よく優しい。俺も他人を貪っているのでわかる。
 
「お部屋にお邪魔させていただけません?」
 
 聞いているくせに何処か決定事項を告げるような高飛車な気配。
 気の強さがツボにハマる人はクセになるかもしれない。
 そんな趣味はないので、俺は口元を釣り上げて「きみ、俺の親衛隊の子じゃないよね」とたずねる。
 
 彼は目を見開いて少し考えるような間の後に「親衛隊に入らないとダメですか?」と聞いてくる。
 瞳はうるうると潤んでいるが釣り目なので生意気そうな印象は消えない。
 こういう男を泣かしたいという気持ちがあればセックスは気持ちがいいのかもしれない。ただ俺は一途で従順に盲目なまでに俺だけに尽くす相手とのセックスが好きだ。
 
 激しくしても甘やかしても冷たくしても何もしなくても俺のことだけを一方的に思い続けるそんな関係。
 俺にとっての親衛隊はセックスフレンドじゃない。心と生活の支えだ。だから、ささやかなものだけれど大切にして裏切らないでいる。
 
「きみさぁ、自分の容姿と家柄なら役員に取り入るのも恋人になるのも簡単とか思ってるでしょ」

「そんなことは……」

 媚びてた姿が嘘のように目を泳がせてる姿がおかしかった。腹を抱えて笑ってやりたいが、今後のことを考えて、心を鬼にして笑いを引っ込める。
 自分の容姿を俺はよく分かってる。
 この学園で生徒会会計なんかしていて無自覚ではいられない。
 優れている容姿の使い方をこの学園は教えてくれる。

「俺は会長サマと違ってビッチに興味ないのぉ」
 
 発音が舌足らずでも笑わなくなるだけで真実味でも増すのか大体の人間が身体を固まらせる。
 さっきまでの愛らしい顔はどこに行ったのか引きつった表情で弁解でもしたいのか口を開閉した。
 パクパクと動く唇は保護欲を誘うかわいらしさもあったかもしれない。
 そんなもの俺には伝わらないから無駄な努力だ。
 
 不快な言葉が飛び出す前に「会長サマとヤれたから俺は簡単に落ちると思ったぁ? 残念でしたあ。俺、きみみたいなの、大っ嫌い」と会話を切り捨てる。追いすがる気力は湧いてこないはずだ。
 
 根拠のない自信をへし折られたことで立ち尽くしているビッチちゃんを放置して食堂へと足を進める。
 
 曲がり角に立っている親衛隊隊長に「ああいうウザいの、近寄らせないでっていってるだろ。役立たず」と罵っておく。
 副隊長は土下座してきたが隊長は「どの程度にしましょうか?」と中性的な顔を少女のように甘くして尋ねてくる。
 余裕なく震える副隊長と冷静でありながら熱を孕んだ視線を向けてくる隊長。
 対照的な二人が面白くて気に入っている。
 
「とりあえず俺の視界に入らないようにさせて。当然だけど生徒会入りとかありえないから。補佐も永久に無理ね。会長には話しとくから立場を弁えさせといて」
 
 出る杭は打たれる、とはちょっと違う。
 自分の立ち位置を見誤ってる人間は教えてやらないとならない。
 社会に出たらもっと厳しいんだからと笑う。
 この学園で味わえるだけの人生経験を積むといい。
 
「あのビッチちゃん、自分が誰に話しかけたのか分かってないみたいだから」
 
 家柄だけで言うのなら目の前の隊長の方が俺よりも上だし、ビジュアルも悪くない。
 けれど、違う。
 俺は生徒会会計であって、さっき声をかけてきたのは一般生徒。
 親衛隊でもないのに俺と寝ようとしてくる恥知らず。
 
「会長は上下関係とか緩いってか泳がすのが好きな悪趣味なドSだから俺がしっかりしなくちゃねぇ」
 
 副隊長に顔を上げるように告げれば隊長から「お優しいですね」と微笑まれた。
 嫌味だろう。
 
「まだ、土下座が足りませんでした?」
「そっちじゃない」

 副隊長が起き上がった自分に対しての言葉だと勘違いしたのを隊長がピシッと返す。
 俺との会話を邪魔されたから怒っちゃった感じかな。この二人の噛み合わなさは面白いけれど、今は見つめ続ける気はない。

「え〜? 優しいって会長に? まあ、長い付き合いだし、会長だって俺に甘いじゃん?」

 おあいこだよねと笑えば副隊長は不思議そうな顔をして、隊長は笑みを深くする。
 隊長との付き合いのほうが副隊長よりも長いというよりも性格的な違いが俺への理解度の違いになるのだろう。
 俺と会長の関係を隊長はよく分かってる。
 生徒会の同僚というよりは俺と会長は悪友とか共犯者。
 同じ種類の人間だけど奇跡的に同族嫌悪を起こさないから似た者同士として仲良くしていられる。
 
「食堂に役員様方、揃っていらっしゃるようです。オマケも含めて」
 
 後半は目を細めてつけたされた。
 オマケというのは数日前にやってきた編入生のことだろう。
 理事長の甥らしいけれど、それはここで何の権力にもならない。
 ぼさぼさ頭と瓶底メガネ。誰から隠れたい変装なのかツッコミ待ちのボケなのかよく分からない姿。
 イジメられたいドMなのかも。それならドSな会長と相性がいいのも頷ける。

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