王道転校生はアナニスト | ナノ

  03 勘違いしないでいただきたい!


 
 転校してから俺はずっと死ぬほど悩んで悔やんで苦しんで眠れない夜を過ごした。
 
 全寮制男子校はオナニーが出来ない。
 
 思ってもない、まさかの問題点。
 世界は俺を見離したのか?
 悶々としたこの欲求は味わわないと分からない。
 
 俺は恥ずかしい話、結構喘ぐタイプだ。
 喘いだ方が気持ちがいいと教え込まされ、オナニー時もわりと声を上げてしまう。
 電話で元彼女であるミオに「声を聞かせて」なんて言われていたこともあって、自分で色々触りながら喘いで気分を盛り上げる俺だ。
 寮だと言っても個室があるからちょっと対策をすれば平気だと思っていた。
 それは甘かった。
 入寮初日、生徒会長である倶頻仏泰吏、皿とキス事件について風紀委員長に叱られた日のことだ。
 消灯時間前である十一時前に帰ってきた俺に同室者である不良、弓腰直彦はお怒りだった。
 どうやら消灯時間をすぎるとメインの電気がつかないので風呂に入るのも一苦労らしい。
 懐中電灯を渡されながら手早くシャワーを済ませた俺はなぜか直彦と一緒のベッドで眠った。
 部屋はすでに暗くなっていて疲れて眠かったから間違えたんだろう。
 そして、以降たびたび生徒会役員に絡まれる関係で消灯時間前後に帰宅すると俺は直彦と寝ている。
 直彦の身体は大きいがベッドも大きいものを自腹で購入して置いているらしい。
 
 寮の設備としておいてあるベッドよりも寝心地がいいとはいっても人の部屋で寝る趣味はない。
 夜中に目覚めた時ちゃんと自分の部屋に戻ろうと俺は動くのだが直彦が俺を抱き枕よろしく抱えていたり、部屋を移動しても朝起きるとやっぱり直彦の部屋にいるという不思議現象が発生していたりする。
 
 普通に考えれば直彦が夜中に俺を自分の部屋に拉致っているっていう推論が成り立つ。
 理由はともかくとして寮の個別の部屋には鍵がある、にもかかわらずこんな事になるなんて異常だ。
 どういうことなんだ。
 秘密の抜け道があるのか?
 俺は寮の作りをきちんと把握していないのかもしれない。
 本棚とか最初から置いてあった家具をずらして確認してみたが隠し扉は見当たらなかった。
 
 この話を同じクラスのクラス委員長である田之上良和とバスケ部のエースである堀江寧にしたところ部屋を変更するか聞かれた。
 寮長に相談すれば部屋替えなどは出来るらしい。
 その時は数少ない味方を失いたくないし平気だと答えていたがいつの間にか毎日一緒に寝るようになり、自分の部屋に居ても直彦が隣にいたりする。
 風呂も一緒だったりするかと思えば副会長を除いた生徒会役員が部屋にやってきて帰って行かない。
 俺が避けているにもかかわらず生徒会権限で部屋に侵入してきては風紀委員に連れて行かれるかリビングで寝ている。
 ときどき最初から寝袋を持参して泊まる気満々だったりする奴らは見方を変えると友達がいなくてかわいそうなのかもしれない。
 こんな事するのは初めてだと楽しそうな顔をする泰吏なんか邪険に出来ない。
 朝ご飯に目玉焼きを二つ作ってやったりした。
 それで大喜びする安い男だ。友達だったら、なんの問題なく仲良くなれると切なくなったりする。
 
 みんなでワイワイやる分には賑やかで楽しい。
 濃いキャラしてる生徒会役員とはいえ悪い奴らじゃないのは分かってる。
 友達ならいい。最初は悪印象しかなかった泰吏だって友達なら別にちょっと面倒ぐらいで普通に付き合える。
 恋愛関係になるとかはどう考えたところで無理だ。
 
 元彼女に未練があるとかそう言うことじゃない。
 男を好きになる自分が想像できない。
 部屋には普通にエロ本があるし普通の漫画でヒロインがピンチになるちょっとエッチなシーンとかドキドキして読んだりするのが俺だ。
 間違ってもヒロイン側の視点に立って助けてもらって胸がときめくとかありえない。
 
 あいつらは揃って俺が男だってことを忘れてるのか俺を犯したいというのを隠さない。
 男に興味がないからあいつらを犯したいとは思わないが男同士なのに俺が一方的に犯される側に認定されてセクハラを受け続けるのはおかしいだろう。
 副会長と書記であるろろはそういうことをしないが会長である泰吏と会計であるナリはあからさまだ。
 俺を押し倒して当然だと思ってるのは普通じゃない。
 オナニーできずに性欲を持て余し気味な俺でもわかることだ。
 この学園はおかしい。
 趣味趣向ではなく人の話を聞くべきだと主張したい。
 
 中学時代に元彼女のミオに尻での快感も乳首の気持ちよさを教えられた俺は簡単に欲求不満になる。
 今現在わりとムラムラしている。
 まあ、だから男同士でやらかしている奴らがエロいことしたい気持ちの行き着いた先だっていうのは理解できる。
 男に興味がない俺だけど人の性的嗜好を否定したいわけじゃない。
 ただ、俺は否定してないんだから周りだって俺を否定すべきじゃないだろ。
 
「勘違いしないでよね!!」
 
 美少女っぽい外見の先輩が俺の前で仁王立ち。
 
 新しいミオの彼氏、俺の後釜らしい男を思い出して苦い気持ちになる。
 ふわふわの柔らかな髪質と大きめのパッチリとした瞳。
 唇は小さいながら肉厚でぽってりしていてリップを塗っているのか艶々している。
 身長は低くフェミニンな服を着ていたら幼児体型な女子もとい中学生美少女だと思われるだろう。
 セーラー服とかが似合いそうだ。ちなみに俺はミニスカより半ズボンが似合う。
 
 俺よりも年上でかわいらしさを売りにするのってどうなんだと思っても口には出さない。
 上級生に逆らっていい事など一つもないので俺は黙って耐えているのに生意気と言われる不思議。
 
「会長さまに気に入られているとか思っていい気にならないでよ。君、全然かわいくなんてないから」
 
 下から睨みつけてくる先輩の方がかわいいのは確かなので俺は頷いた。
 それに対して馬鹿にしていると感じたのか顔に何かをぶちまけられた。
 甘いバニラビーンズの香り。
 どうやら溶けかけのアイスクリームらしい。べたべたして気持ちが悪い。
 泥水よりもマシだけどシャワーを浴びたくなる不快感はアイスの方が上だ。
 
「これに懲りたら二度と偉そうな態度を取らないで」
 
 意味が分からない。
 偉そうな態度ってどんなのだ。
 
「すみません、センパイ……お時間よろしいでしょうか」
 
 俺はアイスクリームを顔に被ったままの状態で立ち去ろうとする先輩を捕まえた。
 声をかけるだけだと逃げられそうだったのでアイスに触れて汚れた手で制服を掴んでやった。
 
「センパイのお名前をお聞きしても?」
「名乗るわけねえじゃん」
 
 鼻で笑われた。
 それもそうかもしれない。
 俺への制裁という名のイジメ行為は禁止されている。
 そして俺が自分をイジメてきた人間の顔をあまり覚えていないというのは有名らしい。
 だから、ヒットアンドアウェイ。
 制裁したらすぐ離脱。
 犯人が必要なら適当にでっち上げたりするらしい。
 
「センパイが思う俺の偉そうな態度ってなんですか?」
 
 陰口と机の落書き、私物や教科書の紛失などがメインだったのは俺が理事長に被害報告をするまでの話。
 今は生徒会役員が頑張ったおかげで目に見える被害はない。
 役員たちと一緒にいれば陰口すらされないから生徒会長である泰吏の言い分は正しくはある。
 誰かと付き合ってしまえば制裁は終わる。
 
 でも、何度も主張してるように男に興味はないんだよ。
 
「会長さまから好かれてるくせに」
「付き合えって言うんですか?」
「せめて優しく断るべきなのに偉そうに」

 出会いが出会いだったので最初から泰吏に対して扱いが適当というのは確かにある。
 初対面の男からキスされそうになって拒否反応を起こさない人間はいないだろ。
 
 勘違いしないでいただきたいが男同士で恋愛関係になるのはマイノリティだ。
 この学園の中ではともかくとして、世間的に一般的じゃないんだよ。
 俺は周囲の男同士自体の恋愛を否定しないんだから俺が女子と恋愛したい気持ちも否定するな。
 

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