王道転校生はアナニスト | ナノ

  01 転校生ってみんなこんな事になるのか?


王道設定なのでどこかで見たような〜と思ってもパクリというよりはわざと王道(よくあるテンプレ)にしているとご理解ください。




 母さんの再婚を反対する気持ちはなかった。
 祝福していたけれどこんな事になるなら大人しく「はいはい」言うことを聞いていなければ良かった。
 俺の高校生活は無茶苦茶だ。
 
 青春を返してくれ。
 
 俺に起こったこと全部を母さんのせいにするのは言い訳だって分かってる。
 事前のチョウサとかが足りなかったのかもしれない。
 いや、どうやって内情を知ってろいうんだ。
 無理があるだろ。
 名門のお坊ちゃん学校に知り合いなんかいないしネットに情報は落ちてない。
 都市伝説みたいなのしか知ることが出来ない俺に万全の心構えや対策なんて無理。

 転校してから俺はずっと死ぬほど悩んで悔やんで苦しんで眠れない夜を過ごした。
 
 男子校での寮生活が地獄に等しいなんて思っても見なかった。
 転校生が肩身が狭いのは当然のことだとしても俺は根拠もなく信じていた。
 自分は大丈夫だって思ってた。
 
 最初は珍しがられても、そのうち学校に馴染むって楽観視してた。
 本当に根拠がなかったふわふわした自信のせいで俺は追いつめられることになる。
 
 始まりはやっぱりミオだ。

 中学からの彼女と同じ学校に行きたくて勉強を頑張った俺はそこそこの成績だった。
 それが母さんの再婚相手からすると自分の出身校に入れる学力だと判断されて勧められた。
 高学歴であることは悪いことじゃないと母さんに言われるままに俺は転校した。
 彼女と別れることになるなんてその時は考えもしない。
 
 転校は六月という一学期の途中。
 噂されるのは覚悟していた。

 寮生活に対する気構えはあったし男子校という空間が俺にとって未知のものだったから怖かった。
 友達は多い方だと言っても小学校からの知り合いがずっと繋がっていた中学と高校は違う。
 
 ドキドキしながら初日に出会った案内役の副会長は良い奴だった。
 あっちも緊張していたらしいので少しからかうと肩の力を抜いて綺麗な微笑みを向けてくれた。
 自分とは違う人種だと感じたけれど知り合いがいない淋しさから友達になって欲しいと告げると二つ返事で了承を貰えた。
 
 落ち着いているから先輩かと思ったら意外にも同い年。
 もうそれだけで俺にとっては親密度が上がった気分になってタメ口で話しかける。
 
 一年生でも副会長になれるのかと笑っていたらまたぎこちない笑みになったので背中をトンっと叩いた。
 緊張したり身体がこわばった時の魔法。
 誰かに背中を叩いてもらうと、ふっと身体は楽になる。
 自分一人じゃない、誰かが後ろにいて力を貸してくれる気持ちになれる。
 
 副会長は綺麗な顔をしているけれど息苦しそうでかわいそうだった。
 俺でいいならいくらでも愚痴を聞くと伝えると嬉しそうな顔をしくれた。
 初日にすぐ出来た友達に俺はちょっと浮かれて得意になった。お手軽だ。
 
 理事長に会って母さんの再婚相手の話題を聞き流しながら学校の特色を語られる。

 新しく俺の父親になった人と理事長は親しいらしい。
 俺のことを気にかけてくれて、何かあったら頼って欲しいと言われた。
 優しい人だ。
 単純な俺は理事長が味方でいてくれることに安心して肩から力が抜ける。

 この時点で俺の中での不安の大部分は吹き飛んでいた。
 
 寮の同室は今時珍しい不良。
 見たまま不良以外の何物でもないのが分かるレベルの不良。
 俺の周りで見たことがない。漫画や昔のドラマから出てきたような姿。
 これは天然記念物かもしれない。
 
 ちょっとビビったものの俺は怯えを抑え込む。
 不良はきっとビビった俺をパシリにしてくると思って強気で攻めた。
 
 見かけ倒しの不良だったソイツは俺と普通に友達になってくれた。
 ただ単純に先輩に憧れて髪の毛をモヒカンに似た髪型にしてピアスをつけまくっただけでケンカは弱いらしい不良。
 下っ端気質を感じる不良に俺はすぐ気を許した。
 ずっと緊張したり探ったりするなんて疲れる。
 
 縦にも横にもデカいから勘違いされる気の弱い臆病者は俺とでこぼこコンビになる予感がした。
 
 食堂に行くと視線が俺に集まって煩わしい。
 転校生ってそういうもんだと思ったけど、俺を見てすぐに転校生と気づくのはおかしい。
 内心、首を傾げながら周りを見る。
 みんな目をそらす。
 
 夕食の時間だったから大体の生徒が私服だ。
 
 スエットだったりジャージだったり気の抜けた格好が大半で一部だけがキッチリ着ていた。
 お坊ちゃま学校だと思っていたけれど男子校だからこんなものだと思っていたら同室になった不良に注意された。
 
 俺が目立っていると言うのだ。
 
 とくに大声で話したわけでもなくオムライスを食べていただけの俺に対して目立つとは何だ。
 馬鹿にされているのかとムッとしていたら食堂の入り口あたりから絶叫が聞こえた。
 誰かが倒れたのかと思ったら生徒会役員が来たのだと教えられる。
 意味が分からなかったが生徒会なら友達になった副会長がいるかもしれないと視線を向ける。
 不良は性格的に俺とは正反対でそこがいいのかもしれないけれど、初日から相手をするには疲れるので副会長が来てくれるなら夕飯は楽だろうと思った。
 
 優しくて愛想がよくてちょっと自信がないタイプなので俺から話を振る必要はあるかもしれないけれど、話が途切れてしまうわけじゃない。副会長は良い奴だ。顔は綺麗系で暑苦しくないのはポイントが高いかもしれない。
 
 そう思っていたら副会長の隣にいた奴が俺に声をかけてきた。
 知らない相手なので無視していたら執拗に絡んでくる。
 これが変人か転校生イジメか。
 
 気持ちが悪いと思って思わず毒づくと面白いと言われて抱き寄せられて顔が近づいてきた。変態だ。
 
 理事長が言っていた学校の特色を思い出して俺は食べ終わっていたオムライスの皿を顔の前に出す。
 ガードは完璧だったようで俺に顔を近づけてきた奴は皿に残ったケチャップを顔面につけることになった。思わず笑えばそいつは怒り狂って俺を殴ろうとしてくる。短気すぎるだろ。
 
 ケンカを売って来たのは自分だと俺はちゃんと言ってやったが頭に血が上った馬鹿は暴れるばかりだ。
 見かけ倒しの不良は役に立たないし、俺は逃げるのが専門でケンカが強いとはお世辞にも言えないしょぼい筋肉。
 
 会計を名乗る奴が俺にキスしようとして顔をケチャップまみれにした男を止める、
 コイツもまた常識人で良い奴だ。
 
 ケチャップ男は生徒会長らしい。
 生徒会長が率先して変な行動をとるから学園がおかしくなるのだと俺は初日にして悟った。
 理事長はまず学園のトップである生徒会長を変更したり教育し直すべきだ。
 
 風紀委員長を名乗る先輩に生徒会役員ともども引っ張られて事情を聞かれると既に時間は消灯前。
 初日から散々な目に合されている。
 
 消灯後は廊下などの電気が消されてエレベーターも一部使用不可能になる。
 冗談じゃないと思いながら帰りがけに生徒会長含めて生徒会役員と話をすると何故か気に入られた。
 副会長が事前に俺について話をしていてくれたらしいからそのおかげもあるかもしれない。
 なんだか照れ臭い。
 
 友達は欲しかったから好かれるのは構わないと思って「そっか」とだけ返した。
 生徒会長が何か言っていたが俺は眠かったのでよく考えず「またな」と手を振って別れた。

 生徒会役員は寮の部屋が特殊らしい。
 
 そして俺は翌日、新しい自分のクラスでお決まりの自己紹介。
 
 緊張したけれどクラスには不良がいたし担任の教師はホストみたいな格好とは裏腹に優しかった。
 不安はあっても不満はない。

 その内、俺はクラス委員長とバスケ部のエースと仲良くなった。
 というかその二人以外からは話しかけてもらえなかった。
 自分からいくにもタイミングが難しくて断念。
 淋しかったけど転校初日ならこんなものだということにした。
 
 クラス委員長に謝られたりもしたけど俺は気にしない。
 彼女であるミオからの連絡は途切れないし、友達は出来たから、いつかはちゃんとクラスに馴染むだろう。
 
 そう思っていたのに所謂イジメが始まった。
 
 不良やクラス委員長は親衛隊による制裁だと言ったけれど俺はこれはイジメだと思う。
 制裁というのがこの学園でのイジメの通称なのかもしれない。
 
 机に落書き、鞄や体操服の持ち去り、教科書を使い物にならなくする。
 身に覚えのない批難中傷と泥水を浴びせかける行為。
 それがイジメじゃなくて何だって言うんだ。
 
 俺はすぐに理事長に抗議した。
 理事長は俺に新しい体操服や教科書を用意して生徒会役員たちに話しを持って行ったらしい。
 そして結果としてイジメはなくなった。
 
「俺様と付き合え。……そうすれば誰にも手出しさせない」
 
 イジメがなくなったことのお礼を言いに生徒会室に訪れた俺に吐き出された生徒会長の頭がおかしい言葉。
 何故かそれに触発された副会長にも告白された。
 会計も俺を好きだと言ってくる。書記も地味に反応する。

 お前たち、一体どうしたんだ。
 
 告白はマジな重さがあったとはいえ俺は男というだけで恋愛対象外。
 悪いとは思うけど無理。
 
 男は一度試せば病みつきだとか会計に言われたが試す必要はない。
 俺には彼女がいる。
 
「お前のオンナは浮気してるだろ」
 
 会長の言葉にミオに連絡をしようにも繋がらない。
 男に立て続けに告白されたと思ったら彼女に振られてるなんて黒歴史すぎる。
 遠くの女より近くの男だなんて認めてたまるか。
 
「本気なんです」
 
 友達だと思っていた分、裏切られた気持ちになって俺はそれから副会長を無視した。
 本当は無視したかったわけじゃない。
 友達のままでいたかった。
 
 ちなみに副会長以外は無視しても俺につきまとってくる。
 生徒会としての仕事をしろ。


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