幸せになるための一番の条件は、どんな状況でも「幸せを感じられるようになる」ことだという。
昔は疑問に思うことなく受け入れていたことだが、今はとても歪《いびつ》に感じる。
自己暗示で逃げているだけ、そう思えてならない。
オレの依存は幸せを感じるための思い込みに過ぎない。
愛や好意というものとは色合いが違う。
そう確信できたのは、誰かがオレを持ち上げたことに気づいた瞬間だ。
それが誰であったとしても、人とは呼べない状況に成り下がったオレに近づいてくれただけで救われた気持ちになった。
ゴミとして捨てられたオレを無視しないでくれただけで、オレは相手がどんな存在だとしても受け入れられる気がした。
オレは他人に求めるハードルが低すぎるのかもしれない。
ふと感じる重力。自分が落下していることを認識しても受け身はとれない。金魚鉢が壊れて、首に破片が突き刺さり、いよいよ終わりを迎えるのだろう。そう覚悟をした。だが、聞こえた呼吸音に存在しない心臓が跳ねた。
「クソがっ。外に出るなって言っただろうが。脳なし。いや、脳しかねえのか……」
血の匂いがして、オレを持ち上げた誰かが声も出せずに絶命したのだと察した。
オレに気づいて近づいてくれた相手が不条理に命を落としたとしても、食人鬼の長男が殺人犯になったとしても、オレは安心していた。
オレを持ち上げたまま早足で歩く食人鬼一家の長男である、シノア。
長い名前は正確な発音がむずかしくて、最終的にシノアという呼び方でゆるしてもらえた。
今は舌が切り取られたまま回復しないので、名前を呼ぶこともできない。
「お前のせいで散々だ。やっと飛び級を認めさせて独り立ちできる資格を得たのに皆殺しにしちまったから、親父が家を継げって大喜びだよ」
舌打ちをするシノアの言い分はよくわからない。
留守にしていた原因が飛び級試験だということだけ伝わった。
「円満に家を出る予定だってのに」
食人鬼の家のルールはよくわからない。
ともかく、オレのせいらしい。
「お前がこの状況で生きてるってことは、クソ忌々しいことに吸血鬼と婚姻してんだろ」
コンインという単語が脳内で漢字変換できなかった。
永遠に自分の共に歩む生餌を吸血鬼は花嫁と呼ぶのだとシノアは教えてくれた。
どうやらオレは知らない間に吸血鬼の花嫁になることで、自分の体質以上の不死性を持ち合わせたらしい。
簡単に捨てられるような意味のない命だとばかり思っていた。
けれど、知らないところでオレの命は手綱を握られていたのだ。
吸血鬼が誰であれ、オレのこの状況を放置している時点で愛などないだろう。
エサであることは今更悲しくない。
シノアにだって、散々食べられていた。
悔しいのは自分の生き死にが、他人にゆだねられていることだ。
自分のことなのに自分が一番知らない。
「とりあえず、適当に逃亡生活を始めるから静かにしてろよ。手足があっても静かだったから言うまでもねえか」
シノアがオレの頭を撫でる。触れかたが優しくて悲しくなる。どんな表情をしているのか知りたくなった。
瞳がないことがもったいないと思っていたら急に視界があらわれた。
時間は夜らしく、街灯が逆光状態になりシノアの表情はわからない。驚いているのだけは空気でわかる。
「なんで急に目玉が出てきたんだよ」
不満そうな口調を裏切って泣き笑いのシノアは、オレのことをとても心配してくれていた。
血まみれの姿が物騒だというのに怖くない。
気づくとシノアの姿が滲んで見える。急に目が悪くなってしまった。
混乱しているオレの頬を撫でながら「泣くな。食う場所がねえのに腹が減る」と言われた。
涙をぬぐう自分の指先がないのが不便だと思っていたら耳を甘噛みされた。
「ちゃんと栄養をとって落ち着けば身体は元通りになるはずだ」
その囁きを信じるしか、オレに出来ることはない。
オレの涙を舐めながら腹を鳴らす食人鬼は、今後どうやって食料を調達するのだろう。
逃亡生活と言っていたので、オレの体が治ったら食べるのだろうか。
2018/08/28
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◆あなたの選択が物語の流れを決める!(オチは決められません)
投票数が多いものをチョイスして、書いていきます。
話の流れは出番のある人物によって変わります。
攻めが決定するのは投票ではありません。
投票で決定するのは「出番」だけです。
どういうラストになるのかは、こちらにお任せです。
攻めはそれぞれ種類の違うヤンデレまたは純愛になります。
攻め毎にルートやエンドが用意されているわけではありません。
ちなみに最初、単語リクエストとして書いていたものなので、最終的に単語企画あつかいにするかもしれません。
▼この後に受けはどうなる?
送信後のフォームに今回の話について、こういう傾向だと嬉しいといった、リクエストおよび感想コメントいただけるとうれしいです。参考にします。
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