神呂木会長は激しめで抱かれたい | ナノ

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 勘十はいつも気を回す。だからこそ俺はその気遣いを台無しにしたくなくて、ストレートにこうしようという具体的な提案が出来なかった。
 
 俺の願望が浅ましいものであるのは分かりきっていた。
 AVを撮る監督のような目線で、カメラ配置ここ、男優はこの角度を維持してと指示を飛ばしているのだ。
 勘十がいくら優しくても気持ち悪がられるに決まっている。そう思って遠回しに訴えていこうとした。結果的に俺の淫らな気持ちは一旦おさえて、心機一転でちゃんとした恋人同士としてやっていこうと思った。
 
 とりあえず回数が増えれば満足するだろうと、そんな気持ちで規則的なセックスを否定した。
 
 
 それなのに。
 それなのに、だ。
 
 俺は勘十に後ろから伸し掛かられている。ベッドにうつぶせで倒れ込んだ俺の手を背中側にまとめる勘十。風紀委員長は確保が上手だ。
 ベルトを外してスラックスをずらして下半身全体ではなく尻だけを露出させる。なにか緊急事態があってもいいように準備していたローションを乱暴に尻にぶちまけられる。制服が容赦なく汚されているだろうことに体が熱を持って落ち着かない。
 
 汚されていることに興奮しているのか、勘十が乱暴な仕草を見せることに興奮しているのか分からない。
 
「ずっと、がまんしてた」
「勘十?」
「全一は男とセックスするなんて考えたこともなかっただろ」
「そりゃあ……普通は」
「俺は考えてた。全一に会った時から、全一がどんな風に人と触れ合うのかって考えてた」
 
 意外にもエッチな勘十の告白に俺は勃起していた。
 真面目な顔で頭の中ではエロい妄想ばかりというのは大変いい。勘十がそれに対して罪悪感を覚えているようなところも含めて、とてもいい。
 
「全一の相手は女性だろうって思って、考えないようにしていたけど……でも、だから、俺を選んでくれて嬉しかったのに、上手くできない」
 
 最高に勘十は上手い。挿入されることもなく今にも射精してしまいそうなぐらいにたかぶっている。
 
「全一がひとりで、うしろでエッチしてたなんて知らなかった」
「俺が、言わなかったし……言うもんなのか、それ」
 
 そもそもオナニー事情なんて他人に発表しない自分のプライベートな話だ。
 
「全一に負担をかけないように……と、セーブしてたんだ」
「痔になったら困るもんな。でも、俺の尻は丈夫だったんだ」
 
 勘十がちゃんと慣らしてくれていたおかげかもしれない。切れたりすることもなく元気だ。翌日に疲れが残って気だるいということもない。気を回されている。気遣われている。それは大切にされているのと同時に遠慮されている、そんな気にもなる。
 
「丈夫だからって雑に扱っていいわけじゃない。全一は自分のここが見えないから乱暴に触れただろ」
 
 まさかのツッコミ。オナニーのやり方についてのお叱り。想像だにしていない事態だ。真面目だ。想像以上に勘十は真面目だ。この体勢も無理やりレイプなんていう漫画的な流れではなく、検査として俺が楽な姿勢なのかもしれない。
 
 これで萎えるどころか勘十らしさに胸が熱くなるあたり、俺はダメな人間だ。
 
 指が挿入されるかされないかという微妙な力加減で焦らす勘十に、真面目系ドSの称号を贈るしかない。
 勘十はすこし怒っている。それは俺のオナニーの仕方に対する文句だ。欲求不満を隠していたことでも、BL漫画を見て悶々としていたことでもない。
 
「今日はこのまま、全一を抱く。嫌なら言ってくれ」
「い、や……じゃないけど、このままだと、俺の手が痛くなるかも?」
 
 後ろ側に手があることで若干、背中を反る形になっている。
 今は苦しくないが、行為の途中でしびれそうだ。
 間抜けな気がするので改善するなら今の内がいい気がした。
 
「そういうことは言えるのにもっと犯してくださいって全一は言わないんだな」
 
 急な言葉攻めに驚いていると「さっきの漫画にあった」と勘十が白状する。
 顔を真っ赤にしながら言っている気配がして振り向こうとしたら頭を押さえこまれた。
 この体勢を夢見ていたが、勘十の表情が見えないのは惜しい。もったいない。
 恥ずかしいと感じながら俺が読んでいた漫画イコール俺が好きなものだと思ってなぞってくれたんだ。勘十のそういうところが、たまらなく好きで思わず足をジタバタと動かしてしまう。
 
「苦しかったか?」
 
 申し訳なさそうに聞いてくる勘十に最高の気分だ。
 こういう時に使う言葉でもないだろうが、事実は小説よりも奇なりと叫びたくなる。
 やっぱり勘十が一番いい。
 今回借りた肉体関係が破天荒なBL漫画に惹かれない理由は、勘十成分が登場人物の誰にもなく、作中の空気からも感じないからだ。
 
 ちいさい、聞き取れなくても構わないという遠慮がちな気持ちが滲んだ「好きなんだ」というかすれた声。
 喜びに暴れ出しそうな思いをおさえて「俺も」と返せば安心したような吐息が聞こえる。
 
 優しく背中を撫でる指先とは逆に激しく動かす腰という、そのギャップも含めて勘十は最高だった。
 
 
2018/03/25

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