番外:下鴨家の人々 「下鴨康介は○○を知っている」
下鴨康介視点。
背中に弘文の体温を感じていると落ち着く。
でも、そろそろ息苦しくなってきたと思ったら「ただいま」と声が聞こえたので外に顔を出す。
「おかえり、鈴之介」
「え!? え? コウちゃん?」
理解できないのか二度見する鈴之介はなぜかぐるっとオレたちが座るソファの周りを歩き回った。
なぜかオレの頬をなでた後に「深弘はここ?」とオレの腹を指さす。
混乱しているらしい。
毎日、学校と下鴨としての英才教育的なもので疲れているんだろう。
「深弘はソファに寄り掛かって寝てるだろ」
弘文がソファの下あたりを見ている気がしたのでオレが指さす。
床に座ってソファにもたれかかるのが深弘の最近のトレンドだ。
鈴之介は深弘を確認して安心したように息をつくが「どうしてこうなったの」と言いながら驚いた顔で動きを止める。
オレの手をしげしげと見て弘文と見比べる。
「オレだよ」
「あ、そうだよね。コウちゃんの手だよね。え? なんで?」
「弘文の手はオレの腹のあたりにベルトっぽく絡んでる」
寒くなってきたので前に顔を突き出すのはやめた。
弘文に寄り掛かっていると鈴之介から「閉じるの!?」と声が聞こえてくる。
そりゃあ、ボタンは開いているより閉じているものだろう。
今、俺と弘文は巨大な毛布にくるまれている。
正確には着る毛布というやつだ。
保温性のある温かくやわらかな生地で二人羽織をすることで暖をとるらしいが一人が完全に服の中に入っている状態はどうなんだろう。
欠陥である気がするが使うのが恋人同士や夫婦ならべったりくっつくのでいいのかもしれない。
「コウちゃん、これ、絶対に着かた違うよっ」
鈴之介の訴えは残念ながら却下だ。
オレはぬくぬくあったかい中に居たいのだ。
弘文がオレのお腹をすこし押してくる。息子の言葉に返事しろという甘やかしパパ。オレよりも鈴之介が大切なので毛布にうずくまっていることを許してくれない。
ケチだと思っていたらへそを攻撃しだした。
毛布の中の攻防を知らない鈴之介が「コウちゃん?」とオレに呼びかける。
「なに?」
毛布の外に顔を出すと新鮮な空気がおいしく感じるが寒い。
室内には軽く暖房が入っているが毛布の下のオレはタンクトップとショートパンツだ。
オレが顔を外に出したせいでオレと弘文の間に外の空気が入ってくる。毛布の中に風が入ると途端に温度が下がってしまう。寒がるオレのために弘文が前傾姿勢になってくれた。オレと弘文の密着度が上がると温かさも上がる。
「これってこんな大きな塊になるやつなの」
「そうだよ。それ以外の着方はない」
「一人がずっと顔を出せないなんておかしいよ。縦じゃなくて横並びで使うんじゃない」
「横で並んでると弘文がトイレ行ったりコーヒー取りに行こうとするからダメ」
「トイレは行かせてあげてよ……」
鈴之介が言う通り、横に座り合って着ることも出来たが弘文はすぐに毛布から出ていこうとする。
深弘が気になったりコーヒーの追加とかトイレとか、そこまで緊急じゃないけど立ち上がろうとしだす。
落ち着きがないのかオレが隣にいると嫌なのか考えているとムカムカして弘文の前、膝の間に座った。
すると後ろからギュッと抱きしめてきてときどきオレの頭の上にあごを乗せてくる。
ももの太さチェックみたいに触ってきたりするけれど、弘文の手は基本的にいつもより大人しい。
誰にも見えないからとエッチな触れ方をするかと思えば、意外とそうでもない。
近くで娘が寝ているからというよりも弘文もこの着る毛布に満足しているのだろう。
「ヒロくんが巨大な人になったかと思ったらコウちゃんが胸あたりから顔を出してきてビックリした……」
「オレは居ないものと思って、今日は布団の中の住人。弘文に吸収合併された」
オレの言葉に戸惑っている鈴之介。
弘文はオレの頭の上にあごを乗せてがくがくしてくる。
ちょっと前に弘子が好きだった動作だ。オレも嫌いじゃない。
「……ピザがあるからオーブンで焼いて夕飯にしよう。サラダは冷蔵庫に入ってるものを出して」
「スープはレトルトのやつ温めるね」
弘文の言葉を理解してすぐに動く長男は優秀だ。
オレたちはまったく動かない。
弘文は文字通り手も足も出ないのでテレビのチャンネルを変えることもオレがする。
弘子がスマホを使って弘文というかオレたちを撮影しようとして毛布タイムは終わってしまった。
見るのはよくても撮影NGというのは弘文らしい恥じらいかもしれない。
弘文は温泉に浸かって「あ〜」となっているところを見ていると怒るか、嫌がって先に上がったりする。
もちろんオレは見たいが、弘文がどこか行こうとするよりいいので、背中合わせでもいいと思っている。
弘文を感じられる方が温泉や毛布の中よりあったかい。
温泉や毛布の中ならさらにあつくなって風邪知らずだ。
2017/11/22