番外:下鴨家の人々プラス「海問題 弘文による康介の感動の不始末」

下鴨弘文視点。
 
 
 康介が一度、俺が飲んでいる酒を横から奪ったことがある。
 俺が飲み食いしているものをなぜか欲しがる子供のようなところが康介にはある。
 子供が出来てからは「うちの子は違う」と否定を入れたくなるので、康介に子供のようなという形容は間違っていると感じることが増えた。だが、康介のすることは子供じみている。
 
 子供っぽい考えからやらかすことが、子供では済まないことになる。
 
 酒を飲んだときの反応なんかが特殊すぎて冗談にならない。
 一応検査したり医者に聞いたが体質と自己暗示でありアレルギーや病気などではないという。
 
 康介が酒を飲んだ時の反応というのが、今の目の前にある脱力状態。
 変なクスリでも盛られたのか疑いたくなるほど身体に力が入っていない。
 度数が高くなるほどに動かなさが増すとバニラアイスにかけるのをウォッカにしたときの反応で知った。
 声も上げられずに全身熱くさせている状態をレストランでも居酒屋でも作り上げるわけにはいかない。
 
 うにゃうにゃ、あうあう、声にならない訴えを繰り返す康介。
 頭を撫でると嬉しそうに目を細める。
 
 康介は出会った中学の頃が「小学生ほどの美少女」なら、高校は「残念な美形」だった。
 今はどうなのかというと口を開かなかったらというところは高校の時から変わらないが、美形の度合いに幅が出た。
 艶が出たというのが正しいのかもしれない。
 

「そろそろ動けるか?」
 
 
 筋肉弛緩剤でも飲んだのかというほど動けずにいた状態から康介は復帰する。
 これの状態の時に万が一「ずっと動けねえんだろうな」と言ったら康介は動かなくなる気がする。
 そのぐらいに康介の反応が劇的に変わる。一種のトランス状態なんだろう。目の焦点が合っていない。
 
「人形に何かしたいわけじゃないからな」
 
 俺に寄り掛かっていた康介が抱きついてくる。
 離れるのを嫌がるように頭を横に振る。無言だ。
 
 酔っぱらい康介にはいくつかパターンがある。脱力時の無防備さが人目に触れると危険であるのとそれ以上に今がヤバイ。
 
「で、ほら? しゃべるれるだろ。言ってみろよ」
 
 俺の肩にあごを置いてもごもごと動いたと持ったら、身体の重心を後ろにずらした。
 ちゃんと座ろうとしているのかと見守っていると俺の腹に頭から突っ込んできた。
 開いた分の距離だけ勢いがついた形なので多少ダメージがあるが、所詮は康介の力なのでなんてことない。
 
「首痛めてないか?」
 
 俺よりも康介の身体が心配になる。前は俺のことを殴ってきて手首をねん挫していた。
 酔っぱらいが物を壊したり乱暴になるのはよくあることなので気にしないが、翌日に身に覚えのない怪我を抱えることになる康介本人が哀れだ。
 
「何されたい?」
 
 以前は頭を撫でろ、キスをして、なんていう一度や二度ならかわいいことをねだられた。
 康介はかわいくないので一度や二度ではなく一晩中だ。アホみたいなことを平気で要求してくる。
 常識と人間の限界とかを考えないで欲しがるやつだ。
 
 手も唇も痛くなるのでそこそこで終わらせるために締め落とそうとしたことがあるが、意外と力強い反撃を受けた。理性が飛んでいるからか、康介の体格に見合わないパワーを出してくる。
 
 エロい方面への攻撃にすると「まあ、そっちでもいい」という感じなのか流されてくれるので、ただ単に俺に構われたいだけかもしれない。そうすると暴力的なときや幼児返りっぽく甘えてくるのも全部、いつもの状況の延長である気もしてくる。
 
「えっちなことする」
「珍しいというか、初めてだな」

 酒が入っても自発的にエロいことを提案したりしない康介。
 
「参りましたって言わせる」
「まいりました」
「ちがうっ」
 
 俺の胸板を結構な強さで叩きながら「俺のエロテクにひれふれれ」と言い出した。
 ひれ伏せとかそういうことを言いたかったんだろう。
 動き回っているので酔いがさめたと思うと痛い目を見る。
 康介は完全に酔っぱらっているので常識は通用しない。
 
「久道兄の前でエッチしてこよう」
「いじめんなよ」
「だって! 車のルートぉ」
 
 放置されたpadを指さして康介はお怒りだ。
 俺が日中にどう動いているのかもpadの中に記録として残している。
 社長になったからといって俺の業務を康介に任せるつもりはないが、段取りなどは知っておくべきだろう。
 
「ほんと、なら、お昼に、うちに帰ってこれる」
「お前が帰ってくるなって言っただろ」
「いってない。いうわけない」
 
 なぜか俺の手を取って噛みついてくる。
 今日の野生児成分が強めなのは俺が「人形に何かしたいわけじゃない」と言ったからかもしれない。
 康介のどうでもいいところでどうしようもなく俺の言葉に合わせてくるところがバカだと呆れながら放っておけなくなる。
 
「なんか昼間に公園でママさん集会するんだろ」
「一日だけだし! 毎日ランチとかどこの国の人だ」
「弁当持ち寄ったり」
「しないし」

 どうも俺たちは小さな食い違いがあったらしい。
 康介の言葉を受けて昼休憩を自宅でとらないで外回りし続ける形に車のルートを変更したのは俺だ。
 それで久道の兄貴を責めるのはかわいそうだ。
 
「弘文が久道兄といちゃいちゃお昼を過ごしている間にオレはつまんないワイドショー見ながら深弘とご飯食べて胸くそ悪くなって、公園の鯉に癒されるんだ」
「ワイドショー見んのやめろよ」
「だって弘文いると見るじゃん」
「流行がどうのとか食い物特集とかするからな」
「おひる食べてるのに地方の名産の話されても?」
 
 康介はテレビを見ていると手が止まるタイプなのでそこまで面白くなかったらテレビは消す。でも、トレンドがどうとか言っているのはとりあえず知識として入れておきたいので見るようにしていた。
 流行していなくても今熱いとテレビで特集を組むと多少は追い風になる。SNSの口コミが強いとはいえ、テレビでSNSのネタをとりあつかうので一段階遅れた形の流行が何かもわかる。
 
「お前が会社に来るなら会社で一緒に食べるか」
「逆に何で食べないと思った? なんのために社長になったと!?」
 
 康介が俺の手首を噛んでくる。翌日に記憶がないせいで俺が浮気をしたと主張しだすパターンだ。
 あごの下を撫でると俺の手首を開放してくれた。自分が噛んだ場所をぺろぺろ舐める。動物っぽい。
 
「社長は昼のためだったのか」
 
 昼を一緒に食べなかったのがそこまで康介に響いていたとは思いもしない。
 康介のツボが分からない。
 
「定期的に吐かせとかないと見知らぬ場所に全力疾走するな」
「吐いてない!!」
「たしかに無茶な体勢になっても物理的に吐いたりはしない」
 
 えらいと康介の背中を撫でると「もっと」と言い出した。
 いらないスイッチを押してしまった。撫でてやると機嫌がいいが手を止めると殴ってくるので面倒くさい。
 
「でも、弘文はもっと早く帰ってこれる。今のは非効率」
「はいはい、効率重視してスケジュール組んでみろよ。あとで俺が修正入れるから」
「なんで!?」
「お前は人を最大効率で動かそうとするからだ。そのときそのときで体調とか気分とかあるんだ。余裕を持たせろ」
「仕事なら頑張れよ」
「理想はそうだが、コンディションやモチベーションを高いところで固定させるのは難しいもんだろ」
 
 俺の言い分に「弘文は無能に優しすぎる」と失礼なことを言い出した。
 
「久道兄に社員一人一人の弱みをリストアップさせて個別のご褒美を設定させればいいんでしょ」
「褒美を与えるのに弱みを知る必要があるのか?」
「そーだよ。オレは弘文が弱みだからご褒美は弘文」
 
 何を言っているのかさっぱり分からないが、康介らしい言い分だ。
 他人の名前を書く項目があったら康介は全部の場所に俺の名前を書くんだろう。
 どうかしていると思いながら俺も似たようなものなのでお互い様かもしれない。
 
 
2017/10/06
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