十二

 弘文から何かを言われる前にオレは自分の部屋に戻った。
 転校生が部屋から去った後にシャワーを浴びに行った弘文に不快感を覚えたこともある。
 オレが寝ている間にリビングで二人が何をしていたのか考えると嫌悪感しか湧かない。
 自分の部屋に戻って鏡を見ると間違ってお酒を飲んで迎えた二日酔いの朝より最低の顔があった。
 こんな不細工な見た目でよく弘文に抱きつけたものだとやっと自分を笑えた。



 家に連絡を入れると相手のことを聞かれることもなく妊娠したのなら学園を辞めていいとあっさりと許可が出た。
 今更だが両親はオレにそこまでの興味がないんだろう。
 両性として下鴨家の跡継ぎを産む役目をこなせばそれでいい。
 細かいことなど聞いてきたりしない。
 
 簡単に妊娠するわけじゃないのはオレでもわかる。
 いくら何度も膣内射精をされても確実に孕むものじゃない。
 お腹の中に何もいなかった場合、また学園に戻されるかもしれない。
 それでも、一応は逃げ道ができた。
 
 家への連絡はその場しのぎの嘘になって自分の首を絞めることになるかもしれない。
 それでもオレは転校生に指示されて動くような木鳴弘文は見たくなかった。
 オレが近くにいることに文句を言っても結局、全部が口先だけでオレを振り払わない。その特別さが失われてしまう。失われてしまったと思ってしまうのが嫌だ。

 風紀委員長の兄である久道さんをたずねて再びの誘いをかけたいところだが弘文にバレる可能性がある。
 オレが頼めば久道さんは弘文に内緒にしてくれるはずだが偶然は侮れない。
 生徒会室に何の用もなく弘文が来たことであの日にオレは久道さんのタネをもらい損ねた。
 
 すこしでも弘文に察知されたらまた妨害される。
 その結果として寝室に閉じ込められるのは構わないがあの部屋に転校生が現れる可能性を思うと吐き気がした。

 きっと転校生からすれば弘文の行動は性質の悪い遊びに見えるのだろう。
 実際、そうなのかもしれない。
 木鳴弘文が何を思ってこんな行動に出たのかオレは知らない。
 たずねるのが怖かったわけじゃないが万が一にも転校生の名前が理由として出てきたらきっと発狂する。
 オレは自分の弱さを改めて思い知っていた。
 なんでも受け入れられる強い人間じゃない。
 つらく苦しいのなら現実なんていらない。
 事実だって知らなくていい。
 真実がオレに優しい保証なんてない。


 オレの交友関係は狭く、弘文を中心にして生活していたため弘文を抜きにした知り合いというものがいない。
 
 個人的にオレに好意的なのは親衛隊だが、むこうから自己紹介されない限り普通の生徒と見分けがつかない。入会時にあいさつをされるが覚えていない。どうでもいい人間の顔の判別ができない。オレと何の関係がなくてもオレの親衛隊だと名乗れば信じてしまうだろう。
 
 オレに対して性的な興味を持つ人間は男を求めている可能性が高い。
 女性の膣に挿入したいと思っている人間ならわざわざオレの親衛隊に所属してないだろう。
 そうすると親衛隊は精子提供者として微妙な存在だ。
 
 男女ともに性交渉に慣れていてオレに対して優しさを持っている相手を想像すると久道さんしか出てこない。
 男の経験値は現在の会長もそれなりにありそうだが目に見えて木鳴弘文よりも格下な相手を選ぼうという気にはなれない。ありえない。
 久道さんは弘文の親友であり部下や後輩というわけじゃないのであまり気にならない。

 現会長に内心でダメ出しをしながら、気の進まなさを誰でも同じだと訂正する。
 
 木鳴弘文よりもレベルの低い人間を相手にする気持ちが湧かないというよりも木鳴弘文じゃないならせめてオレを絶対に傷つけない人間がいいと思った。オレに好意的で酷いことなどしない人。そういうオレにとって都合の良い人選手権をすれば代表は久道さんだ。
 久道さんはオレが利用したところで気にしたりしない心の広い人だ。

「紹介してもらうっていうのもありか」

 久道さんに弘文に妨害されない相手を紹介してもらう。
 これはこれで良い考えだ。
 親友であり弘文をよく知る久道さんになら弘文を怒らせない相手も見つけてくれるに決まっている。上手くいく方法も教えてくれるだろう。
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