下鴨康介視点。



 気持ちよくて夢中になって腰を振る。
 今まで知らなかった快楽。
 わかっていなかった時間は無駄だった。

 処女の失い方が悪かったこともありセックスは痛くて苦しいものだと思っていた。
 最低で最悪で不快で気分を悪くさせるもの、そう思ってオレは絶望していた。
 こんなことを孕むまでしなければならない不自由。最低だ。

 オレのことが心底嫌いだからオレの嫌がることを木鳴弘文がするのだと思っていた。
 けれど、実際は違った。
 言うようにと覚えさせられた言葉を口から出せば弘文のオレへの触れ方は優しくなったし、怖い雰囲気も消えていた。
 
 人の下の毛を剃るという狂気じみた行動はゆるせないし理解も出来ない。

 それでも以前と同じようにオレのものであるような顔をする弘文を前にすると文句はあまり出てこない。
 オレの知らない表情じゃない。それが嬉しいのかもしれない。
 弘文が怖くない。口で何と言ったところでオレを本心では受け止めている。
 オレだけが弘文に何だって指図できる。
 わがままを聞いてもらえて許される。
 だから、木鳴弘文はオレのものなのだ。
 言葉にされなくても特別なんだと言われている気がする。
 弘文の全部はオレだけのものだ。

 集団のリーダーとして弘文は表面的に愛想がいい。
 あくまでもそれは社交辞令だ。肩や腕が触れ合うほどの距離を基本的に誰にも許していない。
 長い付き合いの相手だけは拒否しないが自分から肩を組みに行くことはない。
 仲が良かったとしても気易くハイタッチや抱擁なんかしない。
 それとなく嫌がって避けるのが木鳴弘文だった。
 
 オレは会って二回目で距離を詰め、手に触れるのも抱きつくのも当たり前にしていた。
 もちろん「なにすんだ」「ふざけんな」「やめろ」と繰り返された。
 それでも結局、木鳴弘文のとなりはオレの居場所だし、好き勝手に引っ付いていた。
 許されているのが思い込みだと気付いた今でもその感覚は消えない。

 そこでオレは悟って割り切ることを覚えた。
 
 肉体的につながるということは相手を独占することだ。
 セックスをしている間は相手の時間も肉体の自由も全部、オレだけのものにできる。
 それはオレだけの弘文だと言える。
 
 ならば、その事実だけでいい。
 目に見える現実だけを支えにする。
 これ以上を望んではいけない。

 木鳴弘文を独占していると気づくと痛いだけだった行為を自分からしたいと思えるようになった。
 義務以外で膣に異物をいれる女性は相当のMだとし思わなかったオレの意識は変わる。
 痛みが薄くなり女性器がぬれると快楽はきちんと得られるようになった。
 劇的な変化がオレの体を震わせる。
 セックスに夢中になって時間を忘れて溺れる人たちの気持ちもわかる。
 気分もスッキリとして楽になる。

 どうしたところでオレは下鴨として子供を孕む必要がある。
 
 それは避けることができないとオレはちゃんと受け入れている。
 元々オレは木鳴弘文の子供を産むつもりでいた。
 だから、現在オレは目的を達成している。
 久道さんを選んで弘文から遠ざかるための手段になり下がってしまった性行為やその結果の妊娠だが、計画としては成功している。
 
 相手が弘文であっても、タネを得られたのならどちらにしても同じことだ。妊娠すれば学校は辞められる。オレの行動はなにもおかしくない。一貫している。相手が違うだけで、あるいは相手が正しいだけで計画通りだ。
 
 オレにとって弘文との行為は何もマイナスなところがない。
 
 これが今だけの期間限定だと自分に言い聞かせてオレは現状を肯定した。
 木鳴弘文の気持ちが変われば終わるような戯れではあるがオレは損をしていない。
 損がないなら、ふとした瞬間に泣きたくなる感情は嘘だ。
 身体が気持ちが良くて、予定がスムーズに進んだならそれでいい。
 オレは正しいことをしている。なにも間違ってない。


 転校生といる木鳴弘文を見て自分の足場が崩れてこの先進めない、生きていけないと感じていた。
 信じていた全てが覆された気がした。
 オレの勘違いの空回りによる羞恥心からこの衝動はきているんだろう。
 今までずっと言われ続けたように適切な距離で木鳴弘文と接することができたなら彼が卒業するまでの日々を耐えられるかもしれない。
 必要以上にそばにいることをせず、特別になろうとはせず、他の集団と同じように弘文を中心にして遊んだり雑談する。
 
 普通はそういった我慢をするのだろう。
 オレにはできない。
 取り繕って集団に混じることなんか出来ない。
 弘文にその他大勢と同じ扱いなんかされたくない。
 仲良くしている二人を見ていられない。完璧に避けられないのなら学園から去りたい。

 だから早く子供を作ると決めた。
 オレだけが持つオレの義務で権利で逃げ道だ。
 この決意を変えることはない。
 学園を辞めるのは決定事項だ。

 木鳴弘文もオレを孕ませるつもりで行動を起こしている。
 コンドームはあっても使わないし避妊薬を取り寄せようともしない。
 知識がないわけがないし、神経質なタイプなのに弘文は最初からずっと膣内射精だ。
 弘文の心情は見えてこなくても結果的にオレにとって都合がいい。

 ひっかかりや痛みを無視しながら、オレは自分を納得させていく。
 なにも悪くないし、傷ついてもいない。
 何もかもが上手くいっているのだから泣く必要なんかない。
 
 下の毛だっていつか完全に元に戻る。
 伸びて行こうとする最中はチクチクしても伸びきってしまえば何も感じないはずだ。
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