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木鳴弘文視点。
何がどう間違って今の状態に陥ったのか俺は説明できない。
下鴨康介はわかりやすい言葉で言えば「残念な美形」だった。
出会ったころは小学生と間違うぐらいに小さくて犬のような仕草も含めてかわいいの範疇内。
昔のままならキスの一つや二つはできたかもしれないが、高校になった康介はどこからどう見ても男で、男に対する興味なんかなかったのでどうにかする気もどうにかなる気もなかった。
仲間内から適当に生徒会や風紀や各役員の委員長なんかを出して学園全体がひとつのチームになっていた。
総長とか会長とか代表とかリーダーとか好き勝手呼ばれている中で俺の名前を「弘文」としっかりと呼ぶ人間はほぼいない。
祖父母もヒロくんと言うことが多いので康介にしか「弘文」と呼ばれていないのかもしれない。
大したことじゃないが俺の母親の名前が文子と言って弘という父親に借金を押しつけて去って行ったので愛着があまりない。
呼ばれてイラついたりするほどじゃないがみんながヒロと呼んでいるのにあくまで弘文と呼ぶ康介は空気を読まないやつだ。
誰かの妹と話してたり女友達とふざけてくっついていたら妨害してくるようなやきもちを焼いてくるうざったい後輩、そう思っていた。
いくら俺のことを康介が好きだとしても俺は男を好きになる気はない。
康介は何をしたところでアホで放っておけない後輩どまり、そう思っていた。
決定的な言葉はたしかに聞いたことはなかったが全身全霊で康介は俺を好きだとアピールしていた。
久道に生殺しだと言われることもあったが俺は最初から男に興味はないと言っている。
康介もそれは分かっていたはずだ。
俺を見つけると誰と何をしていても放って走ってくることもなく、俺を避けるようになった。
ときどき顔を出すと言いながら生徒会室に行かないことを拗ねているのか生徒会の仕事が忙しいのかバカやって周りを困らせてるのか考えはしたがタイミングがズレた。
康介に追いかけられることに慣れ過ぎて自分から康介に会って言うべき言葉が思いつかない。
元々、康介がひとりで勝手にしゃべっていて周りが適当に相槌を打つ。
俺とふたりだけのときはどちらかといえば静かで勝手に人の肩や背中にもたれかかって寝ている。
康介の印象は天真爛漫で変でアホで俺のことを好きすぎでウザい領域にはいっている後輩、そういうイメージだった。
康介とどうにかなることなんかありえない。
その気持ちは今でも変わらない。
「……っ、……っ!!」
いやがる康介の声が耳障りで思わずタオルケットの端を口に詰め込んだ。
康介の手は俺の片手で押さえこんでいるので声が出せないでいる。
「痛い痛い言ってたわりに気持ちよさそうに勃起させてんじゃねえか」
最初のころに比べるとやわらかく解れた女性器。
蜜壷と表現されるのがわかる濡れた感触は自分を求めているようにしか感じない。
嫌がっていたのが嘘のように俺を締めつけて離すまいとしている矛盾を指摘すると康介は泣きじゃくる。
首を横に振って俺の言葉を否定しようとしてくるが俺を好きでもなければ濡れるわけがない。
俺のことを好きと言えない理由でもあるのかと疑いたくなる。
今更なにを誤魔化そうとしているんだ。
苛立ちから出たのは「ふざけんな」というもので腰の動きを加速させることにしかならなかった。
自分の感情の出所が混乱しすぎてわからない。
ただ下鴨康介を孕ませるなら久道でも他の誰でもなく自分だと俺はよくわからない確信の中にいた。
「俺の子どもがほしいって素直に言えばやさしく抱いてやる」
康介の口を自由にもしないで俺はそう囁いた。
自分が自分でなくなったような違和感の中にいながら欲望を吐き出す作業にのめりこむ。
汗で肌と肌の密着感が上がる、それが気持ち悪いと感じない。
押さえつけていた手を外しても俺を突き放すのではなく耐えるようにシーツをつかんで震える姿にいつもの元気の良さはない。
俺だけが知る下鴨康介。
だが、俺以外が見る可能性があったのだと思うと腹の底が焼けつく。
俺は康介の気持ちに応える気はなく、いつだって少し邪険にしていた。
出会ったころから俺が何を言っても聞かずにくっついてくるどうしようもないやつだと思っていたからだ。
嫌味も苦情もなにもかも聞き流すバカだった。
俺はその関係を壊すことなく卒業する気でいた。
それなのになぜ、こうなってしまうんだろう。
康介の身体の作りに気持ち悪さではなく危機感を覚えた。
俺以外の人間と子どもを作れる可能性にゾッとした。
康介が男なら俺を含めて誰とも子どもは作れない。
けれど、康介は女の場所がありきちんと感じている。
久道に誘いをかけたように目を離したら他の男のタネを体に入れようとするバカだ。
何を考えているのか知らないが下鴨康介は俺が管理するべきだろう。
後輩の面倒を見るなんていつものことだと俺は自分の行動を無理やり納得して正当化した。
康介を孕むまで犯し尽くすのは先輩として何もおかしなことじゃない。