三
オレが弘文の部屋で転校生を見てしばらくして転校生と弘文が昔からの知り合いで付き合っているという噂を聞いた。
そんなはずがない。
オレは弘文と中学で会ってからずっと一緒にいた。
そのオレが転校生を見た記憶はない。
二人の仲が親密だなんてはずがない。
けれど、二人が一緒にいる姿を見てオレの中にあった確信は崩れた。
何を根拠にしていたのか分からない「弘文にとってオレが一番だ」という自信、それが跡形もなく消えた。
同年代の仲間に接するように緩んだ顔で弘文は転校生に笑いかけていた。
オレに向ける呆れや疲れた顔とは全く違う弘文の表情。
長年の付き合いを感じさせられる気安いやりとり。
鳥肌が立ち、冷や汗が流れた。
オレの異常に気付いて気遣ってくれたのは弘文ではなく風紀委員長の兄だった。
元会計であるチャラ男な気遣い魔は毎日オレを甘やかす。
良い人だ。
次第にオレは弘文を避けるようになった。
弘文とセットのように転校生がいるからだ。
生徒会役員の仕事を精力的にこなすオレを風紀委員長が評価してくれたが正直どうでもいい。
風紀の中でオレの評価が上がろうが下がろうが興味ない。
貧血を起こしたりする場面に出くわしたからか風紀委員長とその兄はオレに対して過保護になった。
どうでもいいことだ。
弘文以外からどう思われていてもどうでもいい。
ただ弘文に嫌われ、疎まれることを認識してしまうのは耐えられそうにない。
避け続けるのも限界があるのでオレは覚悟を決めた。
下鴨であるオレは学業の成績などは気にされないが家からひとつだけ言い含められていることがある。
それは在学中に伴侶となる相手を見つけることだ。
伴侶と言っても男女の結婚のような関係でなくていい。
オスとしてタネを提供してくれる相手を探すのだ。
もちろん、婚姻関係になるのが望ましくはあるがタネ、精子をもらうだけでいい。
オレの体は普通の男性とは違い膣がある。
子宮は機能しており不定期に生理もあり妊娠が可能な体だ。
学園内の誰にもそのことは告げていない。両性であることはバレていない自信がある。
生理で体調が著しく崩れることもあり風邪を引いたことにして部屋で寝ている。
毎月のことじゃないので多少、虚弱なイメージがつくぐらいで済んでいる。
妊娠してまで学園に居続けろとは言われない。
だから、孕んでしまえば休学か自主退学。
弘文と離れたいから転校したいなんて願いはきっと家に却下されるのでオレが学園から離れるには妊娠するしかない。
使えるものは何でも使って望みを叶えるのがオレだ。
今までずっと全力で弘文のそばにいようとしていた。
けれど、それは弘文自身の口から何度も迷惑だと言われ、やめるように懇願された。
口ではそう言ったところで弘文の本心は違うとオレは気にしたことはなかった。
照れているだけだと笑っていたが、もし弘文が本当にオレが嫌いでオレの存在に迷惑していたのだとするならなんてことをし続けていたんだろう。
泣いて泣いて、気づいた時には風紀委員長の兄にあやされていた。
元会計なのでオレ以外がサボっている生徒会が気になって見に来てくれたという。
優しさに感動したついでにオレは彼に甘えることにした。
いつも「俺に出来ることならするよ」と言ってくれる人なので大丈夫だろうと涙をぬぐって頼み込む。
「オレを抱いてくれませんか」