番外:下鴨家の人々 「長女の考察?2」

下鴨弘子視点。
 
 
 自分で作った家族のプロフィールを見ていて私は渋い顔になる。
 これは触れてはいけないのかもしれない。
 
「コウちゃんとヒロくんの嫌いなもの苦手なもの怖いもの……」
 
 子供として踏み込んではならない場所かもしれないので空欄にしてしまった。
 得意なものはいくつでも思いつくのに短所となるものは思いつかない。
 モテすぎると書くのが正解だろうか。
 
「虫とか怖い話とかそういうの全然平気そう。平気に見えるだけ?」

 ちょうど廊下を歩いていたお雛様を室内に招き入れたらマッチョたちは部屋から出て行った。
 どういう気の使い方なのか分からない。雇い主の短所には目をつぶる出来た人々なんだろうか。
 
「康介くんは分かんないけどヒロは」
「それ、私が聞いていいやつでしょうね? あとでヒロくんが落ち込んじゃわない?」
 
 男性には意外にもデリケートな部分がある。
 
 有名人と二世タレントが出て語り出す中で話の流れでヒロくんが「深弘に嫌われたら生きていけない」なんていう趣旨の親バカ発言をした。テレビ出演者と親バカ度で張り合いたがるヒロくんだけど「私は?」と聞くと「まあ頑張る」と返された。そこはもっと違う返し方があるでしょうとツッコミを入れる前にコウちゃんが期待した顔で「オレは?」と聞くと「はあ?」と返事にすらなっていない答え。聡明なる次男が「コウちゃんはヒロくんの子供じゃないから今の話の流れで入ってくると思わなかったって」とマイルドな内容に通訳をする。
 
 気を取り直したコウちゃんが何事かヒロくんに耳打ち。
 ヒロくんは軽くうなずくだけで終わった。
 なんだそれはと立ち上がりかける私をなだめたのは次男だった。
 
 次男弓鷹は「照れてるだけ、男はそういうもの」と私に言ってきたけれど信じられない。
 でも、コウちゃんが怒るでも悲しむでもないのでヒロくんの真意は照れということにしておく。
 納得いかない気持ちになりながらも飲み込むしかない。
 
 空気を読まない長男鈴之介が「ヒロくんは大体なに言ってんだコイツって思ってる気がする」と大学受験の参考書を読みながら言い出した。それが本当でも口にするべきじゃないと私が言う前に深弘がクッションを投げた。このごろハマっているらしい。リビングからクッションがなくなる日も近い。
 
 クッションを投げつけられて肩を落とす長男。
 ホコリが立つからやめろと注意するヒロくん。
 コウちゃんをレゴ部屋に引っ張っていく次男。
 
 チーム男子はいつでも女子に翻弄される。
 
 やることがない私はテレビのチャンネルを変えた。
 
 コウちゃんはホコリが立つと咳き込んでしまう。
 昔からの体質だという。デリケートだ。
 
 
「あれ、ヒロの話題じゃなくて康介くんのエピソード? しかも精神的じゃない」
「コウちゃんが人混みで気分が悪くなるのは咳き込まないようにしてるからだっていうのを私は見抜きました」
「……気分的なものも強い。楽しかったら咳き込まない」
 
 不思議そうなひーにゃんと淡々としたお雛様。
 風邪をひいてダウンするコウちゃんは見たことがないけれど、咳をしているのは何度か見たことがある。
 それでも頻繁ではないはずだ。
 デリケートな部分だから子供である私には隠しているのかもしれない。
 
「ヒロは落ち込んだ康介くんとか苦手」
「へぇ、コウちゃんは?」
「自分に構ってくれない下鴨弘文?」
 
 ひーにゃんがヒロくんについて語ったのでお雛様にコウちゃんについて聞いたら、やっぱりそうなるかという答え。
 大きな秘密ではなく公然の事実なのでプリントアウトした紙にそのまま書き込むことにする。新しくデータを入力してプリントアウトするのは紙の無駄だ。
 嫌いなもの欄のスペースは予想よりせまかった。
 仕方ないので細かい説明を入れずお互いの名前だけにする。
 
 後日、これが不穏の種になることを私は知らない。
 
 デリケートな男たちは無駄に考え込む。
 さっさと私に聞けば解決する問題なのに自分だけで抱え込んでしまう。
 人の真意なんてくだらないことなのに深読みをしたがる。大人の悪い癖なのかもしれない。
 
 
「そういえば、おにいが下鴨の本家に座敷童がいたって言ってたんだけれども」
「あ、それは俺もヒロから聞いた。日本人形みたいな子とおはじきして遊んだって。……もう十年ぐらい前のことだけど」
「純日本人顔で本家の敷地をまたぐ濃さの下鴨の人間は居ない」
「え、断言?」
「下鴨は血の濃さが顔立ちに出ると思われている。薄味な顔は好まれていない」
 
 お雛様の言葉はマイルドな表現なんだろう。学校に通って家のしきたりの厳しさのせいで弾かれてしまった人を何人か見た。「古い家って大変だなぁ」とひーにゃんは感心する。そんなレベルで済むのだろうか。隔世遺伝とかいろいろとありそうなのに顔だけで判断するなんて失礼な話だと思う。
 
「座敷童は比喩とか見間違えじゃなくて本当にいるの?」
「居ても不思議じゃないぐらいに勝負運の強さがある」

 下鴨全体の話なのか当主やコウちゃんの話なのか分からないけれどお雛様が言うと現実味がある。

「見てみたいな」
「なんでひーにゃんは余裕なのっ。ゾッとしたりしないの。和製ホラーが得意なの!?」
「座敷童って福の神でしょう。良い子なんじゃない?」
 
 ひーにゃんの言葉にお雛様もうなずく。
 会社内にもかかわらずサングラスにバンダナスタイルを維持する社会人にあるまじき見た目のお雛様は意外とロックな魂がない。反発せずにうなずくばかりだ。
 それともひーにゃんと特別気が合うから同意することが多いんだろうか。
 
「神様は雑に扱うんじゃなくて優しくするべきだよね」
 
 お化けや妖怪を受け入れてこそ一人前の大人なんだろう。
 ひーにゃんをちょっとだけ尊敬した。
 
「ヒロくんは怖がってなかったの? おにいはいずれ自分が住む場所だから先住民を気にしないだろうけど」
「自分が住む方が気になりそうだけど……鈴くんはいいんだ。うーん、ヒロは日本人形とか好きだから、座敷童とか気にしないだろうね」
「着物の着つけにうるさいけど、人形趣味とはまさかなのだわ」
「小学校のころは髪の毛が伸びておもしろいって玄関に飾ってた。ときどきメッセージカード持ってるんだって」
「それ、誰かがヒロくんで遊んでいるんじゃない? 犯人はおぬしだな、ひーにゃん!!」
 
 びしっと指をさしたが首を横に振られた。
 ひーにゃんは「あれはサンタクロース的な話だと思う」と口にしたらお雛様は納得したような雰囲気になった。
 大人だけが分かるやりとりなんだろう。私には意味が分からない。
 ヒロくんは日本人形とサンタさんが好きってことならコウちゃんはビジュアル的に対象外だったのかもしれない。

 しもぶくれで黒髪直毛な日本人形というよりは西洋のビスクドールな見た目のコウちゃん。
 同じ人形でも肌が白い以外の共通点が少ない。
 サンタさんにしても中年の太っちょなおっさんでコウちゃんとは対極に位置する。似ても似つかない。
 
 ヒロくんがたびたびコウちゃんにもっと太るようにと言い出す理由が分かってしまった。恐ろしい話だ。
 真実は思わぬところに転がっている。
 
 
2017/11/04
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