俺の彼氏がいちばんかわいい | ナノ

  4


 俺は正座して小海(こかい)烏(からす)に向き合った。
 
 もう俺は取り返しのつかないところまで来てしまった。
 乳首を吸われなくても胸がこすれるとエッチな気持ちになってしまう。
 だから、いつでも貞操帯が欠かせない。
 貞操帯というよりは勃起隠しと後ろに入れたディルドを固定する道具みたいなものだ。
 入れるものがアナルプラグでは物足りなくなった俺はアナルパールを入れた。
 それでも、物足りなくてディルドを入れて生活している。
 アナルパールは出し入れする際に前立腺をつぶすように刺激してくれるのが白目をむいてよだれが出るほど気持ちいい。
 だが、入れたままだと刺激として物足りない。
 ディルドだとしっかりと拡張されて、俺の中にあるというのがわかる。
 
 夜中にひとりでアナルパールやディルドを使って自慰をする俺は変態だ。
 時間が経てば治ると思っていたがダメだった。
 どんどん酷くなる。
 
 今は小海烏を見るだけでエッチな気持ちになってひとりでお尻をいじってしまう。
 俺が恋人として小海烏を気持ちよくさせないといけないのに取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
 あまりにも前立腺を刺激しすぎた俺はペニスを触っても射精しない。
 後ろの刺激がなければ絶頂に至れない身体になってしまった。
 
 気づいた時、俺は自分に絶望した。
 自分の気持ちよさだけを追求して恋人を蔑ろにした結果が身体に出ていたのだ。
 
「カラス、わかれよう」
 
 口にすると心がズタズタに引き裂かれるような痛みに襲われる。
 せめて泣かないようにと奥歯を噛みしめる。
 
「急になに? 冗談にしてもおもしろくねえけど?」
「本気だ」
「なおさら笑えねえよ」
 
 正座している俺に青筋を立てて詰め寄る小海烏。
 すごく怒っているのが分かるがかわいい。
 微笑ましいと思っていいわけもないので表情を引き締める。
 
「常葉、俺なしで生きていけんの?」
 
 生きていけない。そう即答したい。
 見たことがないほど睨みつけてくる小海烏。
 だが、これは俺と別れたくないと思ってくれているからの表情だ。
 大好きだと叫んで飛び跳ねたくなるほどに嬉しい。
 
「お前のストーカーとかは追い払っただろ」
 
 ストーカーと言われて頭に思い浮かんだのは俺を襲った謎の人物だ。
 あんな凶悪な相手と小海烏は遭遇してしまったのだろうか。
 運動神経がいいとはいえ寝ている人間を犯すような犯罪者だ。
 まともにぶつかるのは危ない。
 
「だいじょうなのか?」
「瑠璃川の家から頼まれているとかいう奴らは残ってるから常葉の身の安全は問題ねえだろ」
「俺のことじゃない。カラスのことだ。何もされてないか?」
 
 正座を崩して小海烏の胸をぺたぺたと触る。
 すると手首をつかまれて「おい」と低い声で凄まれた。
 
「ストーカーどもは見てるだけだと思ったんだが、触られたのか?」
「……べつに、なにも」
「バレバレの嘘を吐くんじゃねえよ。殺すぞ、あいつらを」
「あいつらって複数いるのか?」
「常葉からすると一人なのか? 誰だ」
「……顔は知らない」
「庇うな」
「ホントだ。気づいたら部屋にいて……。ちゃんといつも鍵を閉めてるのにっ」
 
 俺は混乱して言わなくてもいいのに「俺はカラスの恋人失格だ」と口にしてしまう。
 本当は別れるなんて言いたくない。
 俺の身体がおかしくなったのは全部、あの日が原因だ。
 誰とも知らない相手に襲われた夜。
 それとも初めてにも関わらず絶頂し続けた俺の身体が悪いのか。
 
 普通は初めてで気持ちよくならないと風紀委員長が言っていた。
 俺の身体が生まれついての淫乱で取り返しのつかないぐらいの色情狂になっている。
 問題は他人ではなく俺自身だ。
 そう思うと泣けてきた。
 
「常葉、別に泣くことはねえだろ。面倒くせえな。お前じゃなかったら殴り飛ばしてるぞ」
「俺、俺は、カラスを気持ちよくさせられないっ」
 
 困り顔の小海烏は最高にかわいく格好いいが抱きつくタイミングじゃない。
 別れ話の最中だ。
 
「俺は毎日気持ちいいぞ。混乱してんのか」
「毎日?」
「深夜に部屋を抜け出してお前のとこに来てるだろ」
 
 驚いて涙は止まった。
 
「最近は自分で解して俺が挿入するの待ってるじゃん」
「なんの話?」
「俺を呼びながら、えっろいディルドくわえこんでアナニ―してんだろ」
 
 小海烏が俺の尻をなでる。
 それだけのことで身体がざわついて落ち着かない。
 
「最初、マザコンなのかって思ったけど……ときどき俺のことをカアちゃんって呼ぶってか、常葉はおふくろのこと、母様って言ってるしな」
「カラスのこと、カアちゃんって呼ぶと怒るかなって」
「基本的にナシ。でも、余裕なくなってカアしか言えなくなって喘いでると新種の鳴き声みたいでおもしろい」
 
 イク直前はカアカア言っているかもしれない。
 必死でよくわからない。
 
「見られてたなんて知らなかった……」
「一度イクと眠るから下半身放りっぱなしにするだろ。風邪ひくぞ」
「カアちゃんやさしい」
「まあ、ムラッとするから片付けだけじゃなく突っ込んだりするけどな」
「カラス?」
「常葉だって気持ちよくなってんだから構わねえだろ」
 
 照れたように自分の頭をかきむしる小海烏。
 俺は未だに話の流れが見えていない。
 
「……カラス、言い難いんだけど、俺、もう前の刺激じゃイケない」
「あんだけアナニ―してたらさすがに分かるわ。ちんぽないと無理とか言ってるぞ」
「嘘なにその恥ずかしい姿っ」
「えろくて最高だけどな」
「だから、カラス、別れよう」
「だからってなんだよ。繋がりがおかしいだろ。常葉は本当、勉強できるのに馬鹿だよな」
 
 首の後ろをなでてくる。
 
「だから、カラスを気持ちよくさせられないんだってば! 俺と一緒にいる意味なんてないだろ」
「馬鹿だな。気持ちいい、気持ちよくないで一緒にいるわけじゃねえだろ」
 
 おでこをべしっと叩かれた。
 小海烏は今日も格好いい。
 
 
2017/07/02

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