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小海(こかい)烏(からす)はかわいい。
俺の左胸をひたすら吸っている姿も愛らしい。
子猫が親猫の胸に吸いついているかわいい動画みたいだ。
人に触られるのが嫌そうなのに俺の膝に乗って胸に吸いついてきてくれる。
生徒会の書類を重要度で仕分けないといけないのに小海烏ばかり見てしまう。
俺と小海烏が付き合っていることは内緒だ。
生徒会役員たちは海鳥(うみどり)が由来なのか小海烏をカモメと呼ぶ。
カラスじゃないのかと首をかしげる俺に小海烏は自分をカラスと呼ぶのは俺だけだと言った。
恋人だけ特別ということなんだろう。
俺はできたら恋人っぽくあだなで呼びたい。
カアちゃんなんて呼び方をしたいけれど嫌がられそうだ。
カモメちゃんと呼んできた先輩の顔面に拳をめり込ませていた。
手が早いタイプだが小海烏は俺には身体をこすり付けてくるかわいい子猫のような姿しか見せない。
「カラス」
俺が声をかけると左胸から右胸に吸う場所を変える。
片方だけを吸われ続けると充血して乳首が痛い。
だが、小海烏がかわいいので乳首の痛みは無視できる。
血が出るわけじゃない。
放っておけば戻るだろう。
小海烏がかわいくてかわいくて無条件でなんでもしてやりたくなる。
男同士の作法をきちんと勉強して気持ちよくしようと決意していた。
情報を豊富に所有しているだろう報道部ではなくムカつくが腐っても経験者なので風紀委員長に話を聞いた。
体格差があると相手につらい思いをさせるので相手が嫌がったらやめる。
怖がらせないように気をつかう。
気持ちよくなるのはしばらく経ってからなのでお互いに急ぎすぎない。
そういった心構えを聞きながら具体的に挿入がどういった感じになるのか内緒話のように話していたら勘違いされた。
俺の耳に入らないように風紀と生徒会のやつらが風紀委員長の浮気として俺とのことを噂した。
風紀委員長には恋人がいるので迷惑極まりない。
すこし怒り気味な小海烏に押し倒されて「浮気してんのか」と詰め寄られた。
眉間にしわを寄せた姿すら愛らしかったが和んでいる場合じゃない。
俺は風紀委員長とのことは誤解だと釈明した。
けれど、どうして誤解されるような状況になったのかは言えなかった。
こういう体位が受け入れる側として楽だとか、自分の恋人はこういう責め方が好きだとかいうのをふんわり教えてもらうために密着していた。
性欲などお互いない確認作業だが、これは気まずい。
俺からするとダンスのステップはこんな形だと軽く踊ったようなものだが、逆の立場だと文句はあふれ出るだろう。
男性経験がないからこそ背伸びをしたかった。
初めてだなんて悟られないぐらいに最初から小海烏をトロトロのメロメロにしたかった。
そのための知識を仕入れるのは悪いとは思わない。
手の内がバレるのは恥ずかしいし、風紀委員長と根も葉もない噂も最低だ。
多くを語ればボロが出るので俺は必要最低限のことだけを口にした。
弁解すればするほど逆に怪しくなってしまう。
妬いてくれて不機嫌ながらも小海烏は俺を信じて風紀委員長とのことは忘れてくれた。
最初からずっと俺たちの間に噂という目には見えない壁が現れたりする。
ないはずの壁だ。
俺と小海烏はこれ以上になく愛し合っているのに他人が入ってこようとする。
ふざけた話だ。
俺たち二人は上手くいっている。
そう思っていた。
その日が来るまでは。
2017/07/02
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