俺の彼氏がいちばんかわいい | ナノ

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 転入生、小海(こかい)烏(からす)は愛らしい。
 少なくとも全く期待せずに顔を見に行って初対面の副会長が好感を持つのが納得できる高レベルの容姿だった。
 猫目というのか、つりあがり気味の瞳は見つめたくなる魅力にあふれていた。
 副会長に話しかけられて少しムッとした幼い顔で俺たち生徒会役員を見る姿は初対面の猫が見せる警戒心と同じだ。
 サラサラな焦げ茶な髪をなでたい欲求を押し殺して自己紹介だけして去った。
 同い年の男に頭を触られるなんて嫌だろう、という俺の気遣いは周囲におかしな風に受け取られた。
 
 いわく、生徒会長瑠璃川常葉は転入生である小海烏が気に入らないらしい。
 
 何が理由でそう思われたのかは知らないが気難しい生徒会長である俺は転入生を目障りに思っているらしい。
 そんなことはないが堂々と報道部という謎の部活が俺の気持ちを大々的に発表していた。
 生徒会のセンパイから報道部とはケンカしないようにと釘を刺されていた手前、無視することにしたのが悪かったのかもしれない。
 
 ともかく俺は長い間ずっと小海烏を嫌いだと思われていた。
 
 誤解がとけたのは俺と風紀委員長が付き合っているという誤報を抗議しにいった時だ。
 さすがに風紀委員長の恋人に悪いので嘘を垂れ流すのをやめるように告げた。
 報道や言論の自由を主張する前に他人の気持ちを考えた配慮を持つべきだ。
 ゴシップを楽しむのはいいが人を傷つけることを良しとする感覚はよくない。
 これはマナーとモラルの問題だ。
 越えてはならない一線はある。
 
 芸能人のゴシップ記事だって事前に事務所に確認が入るらしいし、訴えられることを覚悟してやっている。
 事実を歪曲した情報を広く人目に触れる場所に掲載して訴えられても利益があるのでいいという考えだ。
 それは訴えられるデメリットよりも雑誌が売れるメリットが多いからリスクをとっている。会社としての考えだ。
 
 学園の部活動でそこまでの責任を負う気は誰もない。
 
 そう思って嘘八百の妄想部に成り下がった報道部に今後の話をしたら土下座された。
 ついでとして俺の気持ちを少しも理解していないと伝えたのが悪かったのかもしれない。
 報道部の部長は俺の親衛隊の人間だ。
 風紀委員長との仲を応援したくて火のないところに煙を立てたらしい。
 転入生、小海烏に関しては俺にとって目障りになる気がするという被害妄想から攻撃していたという。
 いろいろと理解できないが風紀委員長とは何ともないと訂正記事が出たので安心する。
 
 そして、ついでのように小さく俺が小海烏が好きだと書かれた。
 恥ずかしいことだがそこは堂々アピールして欲しかった。
 事実なので大きく見出しにしてくれていい。
 好きだと感じている相手を嫌いだと思われるのは悲しい。
 
 こんなにかわいい男はいないだろうという見た目に反して小海烏は運動神経が抜群にいい。
 小柄な体を裏切るパワー。
 各運動部から入部を頼み込まれているらしい。
 助っ人としてバスケやサッカーに参加している姿を見かけたが格好良かった。
 格好良くてかわいいなんて最強の生命体だと思う。
 
 そんな相手に告白されて付き合わないわけがない。
 男同士は初めてなので踏み出すのは勇気がいった。
 それでも、常識を盾にして小海烏に近づける機会をふいに出来るわけがない。
 
 恋人になったので抱きしめるのも頭をなでるのも遠慮せずにできる。
 生徒会役員たちに触れられたくなさそうだったので手を払われるのを覚悟したが、嬉しそうに笑ってくれた。
 目を細めてなでられるままになる懐いてくる猫のようで俺は小海烏に夢中になるしかない。
 
 とにかく、かわいい。
 何をしていても小海烏はかわいい。
 床に寝転がるような野生児さすらかわいい。
 
 肉が好きで野菜が嫌い。
 甘い物より辛い物が好き。
 薄味よりも濃い味が好き。
 一番好きなのは白米に合うおかずという大雑把なくくり。
 
 今までパンと野菜と果物で生きてきた俺とは種類の違う人間だ。
 それでもガツガツとご飯をかきこむようにして食べる姿は愛らしい。
 自分の皿にあるおかずを小海烏にわけてしまう。おいしく食べてもらった方が食べ物も喜んでいるはずだ。
 
 付き合い始めても劇的に何かが変わるわけじゃない。
 あえて言えば風紀委員長の惚気に対抗するように俺も恋人自慢をするようになった。
 絶対に俺の小海烏のほうがかわいい。
 この世でいちばんかわいい彼氏だ。
 
 
2017/07/02

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