白髪の美しい鳥アイビスと彼を囲うストークの話。
※美形受けで鳥要素は「卵を産むこと」と「髪の毛が途中から細かな羽」
特殊な設定なことを念頭に置いてお楽しみください。
他の獣人受けとは少々空気感が違います。
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実験動物が幸せに暮らすためには実験動物ではなくなる必要がある。
少なくとも脱実験動物を果たした俺はそう思う。
「おいで、アイビス」
ストークは俺をアイビスと呼ぶ。
実験動物の時はアインと呼ばれていたのでまだすぐに反応できない。
俺はもうアインではないので違和感を覚えてはいけない。
ストークは風変わりな人間だ。
実験動物をモフモフ国から引き取った獣人たちと同じような待遇に引き上げてくれるのだから、普通の神経じゃない。
俺はメカメカ国ではシステムと呼ばれる機械が一番偉く、その次に王家の血を引く者たち、次に長く血を保った者たちと三角という図形のような力関係が出来ているという。ただ表面的には平等という扱いらしいので人間社会は面倒くさい。
ストークが良い人間か悪い人間かはきっと俺では語れない。
人間が作り上げる社会の正解を俺は知らない。今後も覚えることはない。
ずっとストークの家にいるだけの生活をするのだから、仕入れる必要のない知識だ。
ストークは俺に実験を繰り返していた白衣の男たちとは服装が違う。
スーツというメカメカ国では一般的な服だという。
歩き回るのに向かない服をどうして毎日着るのだろう。
疑問の答えはいつか知る日が来るのだろうか。
「今日はテーブルの上にあがってくれ」
服を脱いで布がかけられた清潔な食卓の上で四つん這いになる。
異常なのだというのは誰に言われなくても知っている。
獣人としても人間としてもおかしな朝食風景だ。
こんなことをしているのはこの世界どこを探しても俺とストークしかいない。
ストーク自身は牛の獣人が朝に搾乳している光景と何も変わりないと口にするが納得いかない。
「今日はいくつぐらい?」
「みっつ、ほど」
俺の言葉にストークは嬉しそうに「楽しみだ」と言いながら腹を撫でてくる。俺の腹は不自然に膨らんでいる。四つん這いになると特に腹の膨らみは目立つ。身体の機能としては雌と同じなのだという。俺は卵が産める。
獣人も雄が子を産むが、俺は獣人ではない。
卵を産む獣人などいないと白衣を着た人間たちに言われた。
俺は人工的に作られた獣人ではない獣人。
人間でもない証のように白い髪の毛が途中から羽に変わっている。
小さな羽毛の集合で優しく撫でると落ちていくが無理やり引っ張ると泣くほど痛い。
頭皮から引き千切るようにして髪の毛を毟り取られたことがある。
赤黒いあざとして傷跡が残っていて醜いと思う。
「さあ、産んでくれ」
背中を撫でられて俺は覚悟を決める。
卵を産まなかったら自分が苦しいだけだ。
毎日毎日、人間が排泄するように俺は卵を体外に出さなければいけない。
人工的に実験動物たちをかけあわせて産まれた俺の体質はめずらしいのだという。
特にきちんと現状を把握して、人間とやりとりができる知能があるのは俺ぐらいだという。俺の存在は奇跡というものなのだと自慢げに語られた。
ただ知能があることはいいことじゃない。自分が理不尽な目に合っていることを自覚してしまう。実験動物として使い潰されようとしていると気づいてからは、実験の内容が怖くなった。
奇跡的なサンプルだと持ち上げながら、彼らはいずれ俺を解剖する気でいた。
ストークが俺を必要としてくれなければ、電流を流されたり薬を飲まされたり走り回って汗だくになったりという実験に付き合うことになったはずだ。意味の分からないことを続けるのはストレスだが、それよりも何もできず何も考えていないような同じ実験動物が愛されていたのが苦しい。
知能が高い俺よりも、何も考えていない愛想を振りまくだけの存在が待遇が良かった。同じ実験動物にもかかわらず、優遇されていた。俺のように卵を生み出すわけでも、会話ができる知能があるわけでもない、何もない、何にもなれない存在が一方的に優遇されていた。
つらい実験を免除され、抱きしめられ、撫でられている姿は見ているだけで、つらくて苦しくて悔しかった。
知能があるからこそ、待遇の差を理解してしまえる。
食卓の上で裸で力んでいても実験動物としての生活よりも今は幸せだ。
そう思えるのはストークのおかげだ。
ストークは俺を必要としてくれる。
投げ出すことなんてきっとない。
自分が勃起していることに気づいても隠そうとは思えなくなっていた。
初日は恥ずかしかった。実験動物ではなくなったからこそ、身体中を見られるなんて嫌だった。実験でもないのに異常な行動をしている自分に納得いかない気持ちが芽生えていた。
でも今はストークが俺が卵を産むところを見つめてくれることが嬉しい。
ときに息がかかるぐらいに顔を近づけて俺の身体をストークは見る。
白衣の人間が観察している雰囲気とはまるで違う。
四つん這いなので分からないがきっとストークは勃起している。性的な興奮を俺に対して覚えている。
卵がアナルを押し広げながら外に出ていく。
それが最高に気持ちがいい。
以前は苦痛をともなって嫌々おこなっていたが、今は最高の官能の時間だ。
俺は自分の男性器をこすりあげても気持ちがいいと感じたことがない。
実験として数値を見るために刺激されていただけだ。そこに気持ちはなかった。
「ひとつめが完全に外に出るね。うつくしい光景だ」
俺を褒め称えるストークに身体が震える。
少し前までこの震えを寒さから来るものだと勘違いしていた。
これほど勃起しているのに俺は自分がストークに卵を産むところを見られて感じているのだと理解できていなかった。
俺が生きていくために卵を産む行為は避けられない。
淡々とおこなわれる排泄作業だ。それが、ストークを意識するだけで新しい意味が付加される。
「んあっ」
思わず卵を外に出し切った瞬間に声が出る。
あまり綺麗ではないと思う濁った声だが、ストークは「かわいいね。お疲れさま」と俺の尻にくちづけをくれた。
一仕事を終えた気になるが、お腹の中にはまだ卵の気配がある。
俺が全ての卵を出し切るまでストークは見守ってくれる。飽きることなく見ているけれど、それは比較実験のためじゃない。見ているのが楽しいから見ている。見るために見ているストークに俺はこれ以上なく喜びを覚えてしまう。ストークは俺を数値化しようとはしない。データを取り終えたら、もう一度同じものを作ってみようだなんて、ストークが口にすることはない。
息を吐き出して、ひたいの汗を片手でぬぐう。
ストークの視線を独り占めしているのだと思うと、卵をすぐに出さずに焦らしてしまいたくなる。思わせぶりに出たり入ったりする卵にストークが一喜一憂するのが楽しい。ときに、俺の産卵を助けようとして、お腹を撫でたり指でアナルをかきまわしてくれる。
俺の勃起し続けている男性器をストークがこすりあげたせいで、もったいぶっていた卵が連続して外に出る。
急に出た卵をストークは受け取り損ねたようで、テーブルの上を転がって床に落ちて割れてしまった音がする。
以前、俺がスープをこぼしたせいで床に敷かれた絨毯がなくなっている。これは不幸な事故だ。
振り向くようにして、ストークを見ると悲しげな顔になっていた。
俺が快楽しか考えない最低の存在だからこんな風にストークを悲しませてしまうのだろう。もったいぶらずに早く卵を産んでしまえばよかった。
うつむく俺に「ごめんね」とストークが謝ってきた。
「タオルや器を用意してテーブルから転がらないように対策をしないといけないね」
呆れられたり諦められたわけではないことに安心する。
ストークに必要とされなくなったら、俺は実験動物に戻るのではなくそれ以下になる気がする。
俺の実験は大体が終わっていて、あとは誰かを孕ませたり、誰かに孕ませられたりといったことしか新しい情報を引き出せない。そんなことが相談されていたのは知っている。
子供にも俺の身体的な特徴が引き継がれるのかどうか、それだけが白衣の彼らの疑問だ。奇跡的な生き物だとしても、彼らにとって俺の価値などなかった。俺の子のことも、彼らからしたらどうでもよく、知らなくても構わないと思われている。そんなどうでもいいあつかいを受けるからこそ実験動物は幸せではない。
ストークが俺の卵を求めてくれたことで、無理やり抱いたり抱かれたりといった実験はしなくて済んだ。ストークに望まれていなければ、俺は強制的に望まない生殖活動をおこなわされただろう。
今の俺はこうして毎朝、卵を産んでいればいい。それが俺の仕事だ。ストークから与えられた唯一無二の仕事。
「もう、今日は終わり?」
「夕方にできそうな気がする」
「それは嬉しいね。夕飯の楽しみだ」
俺をテーブルからおろして、スーツと似たようで違う服を着せられる。
実験動物として着せられていた、すぐに脱いだり着たりできる袖のない服とは違う。
ストークは俺の首元にリボンをつけて「かわいい」と微笑んで頬にくちびるを寄せる。
毎日の儀式のようになっているのに身体が熱くなって心臓がうるさい。どんどん、俺は感情が乱れやすくなっている。心臓の鼓動が早くなっていくと、不思議なことに俺はすぐに卵ができてしまう。夕方どころか昼間にひとつはできあがるかもしれない。
気づくとここに来た当初よりも卵の生産率が上がっているが、ストークは気にしない。
卵を使ったいろいろな料理を知っている。
いくらあってもいいと喜ぶストーク。
俺の産んだ卵は毎日ストークの口に入る。
卵は俺だ。俺がストークの血肉になる。
どうかしていると強く感じながらも調理した卵料理を幸せそうに口にするストークに快感を覚える。
ストークは誰よりも俺を必要としていて、俺もこの関係に満足している。
そう思いながら食事をするストークの男性器を口に含む。
提案をしたのは俺からだ。
俺が卵を産むところを見て勃起したのだから、俺がストークの勃起を鎮めないとならない。
口の中にストークの子供を作るための肉棒があると思うと先ほど産んだばかりなのにまた卵を産みたくなる。
この感覚は自分でも制御できない。
ストークが俺の姿で勃起してくれて嬉しい。
俺の口でストークが快楽を知って射精してくれるのも嬉しい。
実験動物のままではありえない恵まれた生き方。
これ以上を望めないほどに幸せな暮らしだ。
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ガッツリ産卵にだけ焦点を当てた話になります。
ストーク視点は変態的ですが愛はたっぷりかなと思います。
いつか短編として掲載したいです。
2017/11/05