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真実とは? 【弟】
 僕はご主人様になってくださったラッツェさまに大きめな髪飾りをもらいました。
 きずあと隠しとして耳の根元にくっつけてみました。
 赤毛の人に切られてしまった耳は見た目は以前と同じでも全然違います。
 自分の意志で動かない上に感覚がありません。音もちゃんと聞こえません。
 頭の上に荷物が出来ました。
 
 それでも僕はラッツェさまがいるので不自由を感じることはありません。
 大変なのはたぶん兄さんです。
 兄さんの生活が心配です。

 先日、ラッツェさまの上司さんが僕と兄さんがパンケーキを作ったらおどろいていました。
 
 兄さんは細かいところに気がつくタイプなのでお菓子作りが好きです。
 四角いところを丸く掃除してしまう僕と違って兄さんはキッチリしています。
 だから、上司さんが兄さんのことを家事が何もできないというような話をしていて思わず話題に加わってしまいました。
 人間同士が話しているところに獣人が首を突っ込むのは好ましくない行為です。

 人間には人間の生活や文化があるので人間から意見を求められない限りは黙っているのがいい獣人です。
 僕は自分が不出来だと自覚がある分、気がゆるんでいるのか獣人としてのタブーを犯してしまいがちです。
 キッチリしている兄さんと違って全体的に僕は雑です。
 
 ラッツェさまも上司さんも僕の言動に怒ることもなく話を聞いてくれました。
 でも僕と上司さんの兄さんへの感じ方の食い違いの理由がそのときは分からないままでした。
 
 そして、おいしく焼けたパンケーキを食べながら肩を落とす兄さんを見ました。
 上司さんが言うには兄さんはキッチンを大破させたというのです。
 有り得ません。
 
 僕はコーヒーを淹れようとして苦くてマズイ泥水以下のものを作ってしまいますが、兄さんはいつでも苦くない飲みやすいコーヒーを作ってくれます。僕があとでまとめて洗おうと思っていたカップなどもすぐに洗って片付けてくれます。機械よりもテキパキとしている兄さんがキッチンを壊すはずがありません。
 
 機械式の全自動料理器具に馴染がなかったといっても兄さんが機械を壊すなんて想像できないので、きっと機械の寿命です。
 
 僕は転んでコーヒーをこぼすことがわかりきっているので荷物持ちロボットに頼んでいますが、ロボットもときどき変な動きをします。間違ってロボットを蹴り飛ばしてしまって窓ガラスを割ったり照明が壊れました。ロボットが悪意のある動きで僕の進行を妨害したのです。僕が足を踏み出す先にロボットがいるなんておかしいです。
 
 兄さんもきっとそういった機械の嫌がらせを受けたに違いありません。
 
 ラッツェさまは僕を責めませんが、失敗するたびに何かをしようという気持ちは折れていきます。
 僕はできないことばかりなのでラッツェさまに呆れられて飽きられる未来しか見えません。
 
 自分に出来ることを一生懸命探しても僕は無意識に手を抜いて失敗をしてしまいます。

 お菓子作りも目分量で材料を取ってだいたい失敗します。
 兄さんは丁寧な計量をするので一緒に何かを作って失敗したことはありません。
 指示の出し方も的確です。
 
 だから、上司さんが兄さんを「ドジ」だというのは勘違いです。
 僕はいろいろと忘れたり間違うのでドジだと言われるのは仕方がありませんが兄さんは違います。
 
 それからパンケーキのほかにも僕たちはいろんな料理を作りました。
 もちろん、どれもおいしくできました。
 誤解が解けたのか上司さんは僕と兄さんに謝っていました。
 ラッツェさまは淋しいような嬉しいような微妙な顔で意外に僕がドジではないと言ってくださいました。
 兄さんが僕を助けてくれているおかげでドジに見えなくなったのかもしれません。

 僕たちのことを「補い合わなければ生きていけない出来そこない」とラッツェさまに出会う前まで居た場所で女性が毎日言っていました。あの赤毛の人が僕の耳を切ったのは出来そこないの印をつけるためだと言っていました。兄さんは出来そこないではないので耳を切るのはおかしいです。人間はすぐに誤解をするというのであの人も誤解をしていたのでしょう。
 
 ラッツェさまが助けに入ってくれて僕の片耳だけが切られるだけで済んで本当に良かったです。兄さんはハサミなどの尖ったものが苦手なので見ただけで気絶してしまいました。耳を切られてしまったらショック死したかもしれません。
 
 ラッツェさまに心から感謝しているのですが、役に立てそうなことはエッチぐらいです。
 エッチはうさぎの得意技なので不器用でもきっと平気です。
 兄さんはまだ早いと言いつつも興味津々です。
 でも、四人でしないといけないのかと首をかしげていました。
 
 補い合わなければならないと言われたのは耳を切られた僕であって兄さんは関係ありません。
 僕は足りないところだらけですが、兄さんは補う必要がありません。
 兄さんはちゃんと自分で自分のことができます。
 でも僕は兄さんが居なければ弱音を吐き出せるだけ出して何もしたくないと思うようなダメなやつです。
 根が不真面目でぐうたらなサボり魔です。
 兄さんが苦手なことだけ手伝って全部をやっている顔をする卑怯者です。だから、耳を切られてしまうのです。
 
 ラッツェさまのために頑張ろうと思っても気力も集中力も続かないので気づいたら花瓶を倒したり窓ガラスに突っ込んで二階から落下します。
 
 どうしてこうなるのか、さっぱりわかりません。
 近頃はラッツェさんが僕を抱き上げて移動してくれます。
 掃除したくなったら兄さんが来た時にふたりでするように言われたので毎日、本当に何もしていません。
 
 家のことは何もしていませんが、兄さんが「ドジ」だという不名誉な誤解は解けたので良い仕事しました。
 
 
2017.09.02
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