獣人が機械を使えない、ということはないが苦手らしい。
キナコの弟が毎日のように機械を壊していると聞いて考える。
今までの出会った獣人は機械を恐れるか見下すことが多かった。
自分たちの感覚の方が機械のセンサーより優れていると自負している。
キナコの弟は逆に機械を認めて作業を効率的にするため手を出さないらしいが、転んで手に持っていた水をかけたり足を引っかけて蹴り飛ばしたり、踏みつぶすという。
悪気は一切なく結果として壊れた機械ができあがる。
弟の破壊についてキナコは「弟はちょっと抜けているので兄のおれがしっかりしないとです」と拳を握って力強く答えてくれた。
キナコにドジの自覚がない理由は弟がキナコを超えるドジっぷりを見せつけ続けているせいなんだろう。
そして、自覚がないせいで被害は広がる。
今日はキッチンが大破した。
どこをどうやったら壊してしまうのか、機械の隙間に見事なアタックを仕掛ける。
システムは「モフモフ国からの刺客現る? 機械は駆逐されてしまうのだろうか」と冗談を言っていたが、簡単に壊れないはずのものが壊れるのはおかしい。
研究者魂に火がついたという言い訳でキナコを観察することにした。
不満そうな、悲しそうな顔でゼリー飲料を口にするキナコ。
固形物が食べられないことではなくキッチンを壊したことを引きずっている。
キナコも壊したくて壊したわけではない。
自分の耳が視界を横切ったからか意識がふと手元から外れてしまったのだ。
「キナコ、人間の世界にはペナルティというものがある」
「ぺなるてぃですか」
「悪いことをしたら罰を与えるということだけど、重いことじゃない」
遊びのつもりでの提案はキナコを怯えさせた。
自分の耳をにぎるようにして「耳の毛を、むしるんですか」と涙目だ。
以前そんなことをされたのかもしれない。
残酷で傲慢なお姫さまならあり得る話だ。
ぶるぶると震えるキナコを安心させるように抱きしめて、どうするべきかを考える。
兎族は快楽に弱いと聞いたことがある。子供を産みやすいのではなく性行為全般が好きなので他の獣人たちよりも孕みやすいという俗説。好意に苦痛や忌避感がないので人間からすれば楽だと重宝される。
「怖かったら、嫌だったら、そう言ってくれて構わないよ」
頬に唇で触れる。
唇に唇で触れる。
驚いていたキナコが目を閉じて体の力を抜いた。
わずかに開いた唇から覗く舌先。
誘われるように舌をキナコの口内に入れると思った以上に熱く柔らかい。
目を閉じていてもキナコの耳が頭上で動いているのを感じる。
舌の動きに舌ではなく耳の方が反応している。
顔を離すと半開きの口から唾液があふれそうになっていた。
舐め取るように口の端にキスをするとキナコは顔を真っ赤にして後ずさろうとして失敗する。
しっかりと腰を支えているのでキナコの力では動けない。足に力が入っていないので放っておけば座り込んでしまう。
腰と腰が密着するほどに正面から向き合うと身長差でくちづけは出来ないが、キナコを腕の中に閉じ込めている満足感は得られる。
「どれが良かったかな」
服に切れ目を入れて外に露出させている耳と同じきなり色の尻尾を指先で遊ぶ。
気持ちがいいのかくすぐったいのか落ち着かないキナコを見ないふり。
「どれ?」
「どんなところにどんな風にキスされたい」
キナコにとって罰にはならないと思ったのか目を見開いた後に納得した顔をする。
事前に人間の世界ではと前置きをしたおかげでキナコは自分の知らない人間のルールなのだと理解した。
賢く真面目でがんばり屋だがキナコは行動と同じくどこか抜けている。
「嬉しいことは、罰になりませんっ」
誘惑を振り切るようにキナコは首を左右に振った。
自分がズルいことを考えたと反省したような顔で「耳の毛、こわいけど、旦那さまになら」と震えながら口にする。
泣く手前のキナコはかわいいがかわいそうなのでうなじをなでる。
目を閉じて体をビクッと反応させるキナコは敏感で愛らしい。
「恥ずかしいことは? 恥ずかしいことは罰になるんじゃないのかな」
その発想はなかったのか顔どころか身体中を真っ赤にしたキナコは「あ、あぁ〜」と悶絶した。
「おれ、たしかに、はずかしいこと考えました。えっちなこと考えちゃったんです」
身悶えるキナコはとてもかわいい。
どんなところにどんな風にキスをされたいのか聞きだすのは骨が折れるだろうが、唇から目を離せずにいる姿がかわいいので満足だ。
教えてくれた場所以外にキスをしたら、人間は卑怯だと思うのか、罰が教えた場所にするわけではないと納得するのか、それとも、キスされたこと自体を悦んでしまうのか。
キナコの反応を想像するだけで毎日が楽しい。
2017.08.22