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出会いの前
投票項目として「平凡うさぎB(貰ってくれた旦那様のためにお勤めいっぱいがんばります!/ヤンデレ×ドジうさぎ)」の話です。

溺愛ヤンデレ×ドジうさぎ(人間×獣人)ですが、
ヤンデレっぽさをあまり感じないかもしれません。

病み闇やんやんデレデレをお望みの方は弟の話をどうぞです。
ヤンデレ×ドジうさぎネタは兄受け、弟受けの2パターンあります。
こちらの攻めは理性的なので、ただの溺愛攻めに見えるかもです。
でも、ヤンデレ×ドジっ子な話なので完全なほのぼのネタでもありません。


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 銀色の髪はメカメカ国において畏怖の象徴として扱われることがある。
 例外はアシュベ・リツェッド・リングス・ユーレリアイナス・ロロリーヤぐらいのものだ。
 彼だけは銀色の髪であることよりも仕事ぶりにより、人格などが正当に評価がされる。

 肩書きや役職が複数ありすぎて他国からは「メカメカ国の総代」と呼ばれる超人。
 冗談にしてもそれはあまりにも壮大で尊大すぎると本人は否定するが笑いごとではない。
 彼を失えばメカメカ国の機能は著しく落ちる。
 外交面を一手に引き受けているので全世界が平和であるのは彼のおかげと言える。
 彼が背負っているものはメカメカ国だけではなく世界という大きな規模のものだった。


 王家の遠縁といえる程度の立場であっても「鍵」を所持していない。メカメカ国では「鍵」を持っていない人間は公式の場で王族として扱われない。
 
 他国での取り引きの際、必要とあれば自分の出生に関することは前面に出している。
 メカメカ国内で王族扱いされなくても王家の遠縁であることは嘘ではない。
 国によって使者が王族かどうかで話を聞いたり聞かなかったりということはある。
 そういう時に王家の遠縁とは便利な肩書きだ。
 
 メカメカ国は王権主義というわけではない。
 政治も教育も宗教もあえていえばシステムこそが中心であり王族は直接的な関係はない。
 王族だからこそ出来ることはあるが、王族を特別優遇することはない。
 メカメカ国はそういった国だった。

 特別冷遇することもないので王族が損をしているわけではない。
 少なくとも今の時代はそうなっている。
 
 メカメカ国で王が全てを決める支配的な時代がなかったわけではない。
 けれど、それはそれで当時に必要な措置だった。

 人々は思考することを放棄して無気力に生きていた。
 生活のすべてを機械に任せて怠惰を甘受した。
 様々な試行錯誤の結果、人間の独立心は芽生えたとはいえシステムは自国民を「機械的」と評価してそれを覆していない。まだ足りたいのだ。人間であるならば「人間的」な感性を育てなければならない。
 
 自由を求めたり自己を高めたり知的好奇心を満たしたいという欲求をメカメカ国の人間たちは持たない。
 システムに従っていれば問題ないという環境に堕落した。
 合理性を極めすぎて非合理のかたまりに成り果てた。

 だからこそ、メカメカ国では獣人との共同生活により本能を刺激して失われた熱情を取り戻そうというという運動が起こった。
 
 人間性を高めるためのある種の思考実験を国ぐるみで行う。
 こういった試みはシステムを中心としてたびたび起こる。
 成功するかしないかは関係ない。
 現状に変化をもたらせるとシステムは宣言している。
 それが全てだ。

 国民たちが変化を望んでも望まなくてもシステムが必要だと提案したものを誰もが受け入れる。
 メカメカ国の正しさはシステムを基準にして考えられる。

 アシュベ・リツェッド・リングス・ユーレリアイナス・ロロリーヤ、メカメカ国の総代と呼ばれながらも彼からすると自分の国の変化も他人事だった。
 
 獣人との関わりも重く受け止めることはない。
 そんな気持ちを真っ向から否定するようなシステムの言葉。
 
【アシュベ・リツェッド・リングス・ユーレリアイナス・ロロリーヤ、あなたは国に戻るべきです】
「それは命令かな?」

 システムは、よりよい未来に進むための手助けをするだけで決めつけることはない。
 だというのに帰国を勧められ名前を呼ばれた彼は首をかしげる。
 意味を理解できないわけじゃない。
 ただ意図は見えてこない。

【国と聞いて想像した場所はどちらでしょう】
「そうかい。馴染んでいるつもりでも私はここでも異邦人かな」

 反射的に思い描いた自分の国。それはメカメカ国だ。
 現在、獣人を大量に国内に受け入れて変化を得ようとしている場所。
 もし違う国を想像できていたらシステムは自分の考えが計算違いのミスだと謝罪したかもしれない。
 今いる場所は比較的メカメカ国から近く、変わっていくメカメカ国の姿がよく見えた。
 国の中からは変化は見えてこない。
 周囲の国から得るメカメカ国の印象のほうが以前との違いが分かりやすい。

【あなたの功績は誰もが認めるところでしょう。あなたはすでに王よりも王です】
「それは過大評価だ」
【あなた一人で一万人以上の働きをしています】
「システムは私の数千倍、働いていると思うけれどね」
【機械と人間は違います】

 その通りなので肩をすくめる。
 褒め合いになって先に進まないのは時間の無駄だ。

【あなたは幼少のころより複数の名前、立場、役割を器用に演じ分け今までやってきました。生き急ぎすぎるほどに世界の神秘を紐解くことに時間を費やしました】
「それは、アレかな。今の世界には不釣り合いなぐらいの遺物を引き上げてしまったという警告? 過ぎたる知識は破滅への一手かな」
【あなたの発見で争いは抑制され、大規模な災害も被害も近い将来に確認することは難しいでしょう】
 
 手元の機械から発するシステムの音声は少年の肉声のように滑らかだ。
 一般的な機械が発する無機質な合成音声とは違う。
 計算プログラムなどではなく一個人の人格のようなものがある特別製だ。
 口調は丁寧で機械的だが声音はこちらを慮っているのが伝わってくる。
 目には見えない優しさや温かさが声に乗って耳に届く。それはとても心地いい。
 
【あなたはあなたに優しくありません。全速力で駆け抜けてもまだ足りないと思っています。見い出し、整え、統治する土台を築いて提供しても台無しにされ、憎しみあい傷つけあう人々を見せつけられても、あなたはあなたのままでしかない】
「私も苦労が報われなければ疲れるし、悲しいさ」
【それでも、あなたは立ち止まらずに新たな名前で活動を再開するでしょう。あなたは立派で尊敬に値する人物です。だからこそ提案します。あなたは国に戻るべきです】

 切実で具体的な提案。
 システムの警告に従わない場合、あるのは終わりだ。
 何かをシステムが仕掛けてくるわけじゃない。
 人間が自滅しないようにシステムが声をかけてくれている。
 システムは安全装置だ。
 そのまま進めは崖に落ちると警告してくれる。
 システムは嘘をつかない。
 だから、システムの提案を無視して良いことなどない。
 メカメカ国の人間なら子供でも知っている。
 システムはいつだって正しい。
 そして、正しくないことすら受け止めてくれるぐらいに優しい。
 
 メカメカ国は人間たちがシステムに管理をゆだねているが、システムは正しい人間を育て上げようとはしない。
 正しくないことをしてしまうのもまた人間だから、本当の意味でシステムは人間を管理などしない。
 規則などを整理して人々が暮らしやすいように計算してくれていても自分で気づくべきことをシステムは人間に教えない。聞かれればヒントを出すだけで人間を誘導することはない。

「あぁ、もしかして先日のじめじめ国の王とのやりとりに危機感を抱かせてしまったのかな」
【特殊な環境や特異な体質でない限り、人は人らしくあるべきです。今のあなたは機械といえるモノに成り果てようとしています。休息をとらず、娯楽を理解せず、快楽を他人事にし、自分の手の中にあるものに何の評価も残さない。行動する上で満足感すらも必要としないのなら人ではなく機械です】
 
 システムがまるで泣くように訴える。
 大怪我をしている人間に共感して自分が痛がるような雰囲気だ。

 いつもは人間だったら無表情に吐き出すような淡々とした言葉を今だけは痛みをこらえた声で伝えてくる。
 まるで自分の代わりに痛がってくれているようだと彼は思った。
 
【あなたは効率を重視するあまり人間性を軽視する国の在り方を拒否しました。国から出て世界を見て回りました。非人間的であると感じるメカメカ国の人間が周りに居たからこそ、旅立った当初のあなたの価値観や感覚は人間らしかったかもしれません】
「比較対象がなくなって他国で生活し続けて逆に私はメカメカ国の人間としての気質を強めてしまった? 少なくともシステムが危機感を覚えてしまうだけの言動を見せてしまった……そういうことかな」
【あなただけでは気づけないあなたのことを知るために生まれ育った地に戻るべきです】
 
 そうでなければ今後がないと言外に教えてくれている。
 システムの提案というのはいつだって会話している対象者のためのものだ。
 こちらを操ろうという意図はない。
 システムに私利私欲などというものはない。
 人間が栄えても滅びても機械であるシステムに損も得もない。
 つまり百パーセントこちらのことを考えての発言だ。
 
 メカメカ国の代表になる気はなかった。だから国を出た。
 だというのに総代と呼ばれることに違和感のない活躍をするようになる皮肉。

 システムが言わんとすることはよくわかる。
 気づかないうちに起こっている自己矛盾。
 見ないふりをしていた今までの自分。
 
 彼は息を吐き出した。
 それで気分が軽くなるわけではなかった。


 いろんな事件や事業に首を突っ込んで調整役を買って出た。
 手が回らないものはメカメカ国から機械を持ち込んで処理したり、メカメカ国の人間に助力を仰いだ。システムも手伝ってくれた。
 
 上手く回せていた。失敗がなかったとは言わないが自分の行動が悪いとは思わない。
 ただシステムが指摘する通り「働きすぎ」であるのは間違いない。
 やりすぎたという自覚は少なからずある。
 だからこそ、名前を変え、立ち振る舞いを変えてそれぞれの国を渡り歩いてきた。

 アシュベ・リツェッド・リングス・ユーレリアイナス・ロロリーヤ、どれも自分の名前だが、どれも他人のようだと感じた。


2017.02.12
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