注意:初期構想なので連載時に変更が生じる可能性あり。
どんなものなのか把握用。
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黒髪に褐色の肌、耳と尻尾の色も黒。
瞳だけは金色という俺はニナイと名付けられたデウスの手先だ。
デウスが何者であるのかは知らない。
ただ俺を助けてくれたのはデウスであり、他の誰でもないというのは確かなことだ。
黒豹はめずらしくはない。
けれど、一般的でもないので物心つく前に俺は殺されかかった。
当時のメカメカ国は獣人の肉体の作りが人とどれだけ違うのか知ろうとする集団が権力を持っていた。
王族の大部分が生命に価値を見出していなかった。
壊れず賢く正確無比である機械を崇拝するあまり、生身の肉体は不自由な肉のかたまりと見なしていた。
獣人の強靭な肉体に人の頭脳をあわせれば得だと安直な考えから獣人の研究は始まっていた。
運悪くというべきか、俺はメカメカ国で生まれた獣人でモフモフ国に存在を知られていなかった。
獣人の人数の把握は以前はザックリとしていた。
つまり俺はチェック漏れというやつになる。獣人の国であるモフモフ国が把握していない俺にはなんの権利もなく、誰からも守られることはない。
生まれたばかりで誰も知らない子供の獣人になら何をしてもいいとメカメカ国の一部の人間は本気で考えていた。
誰にも迷惑をかけていないと口にした彼らのことを俺は覚えている。
誰も困らない、誰も傷つけていないと彼らは口にしたのだ。
投薬実験で血反吐をはいてのた打ち回り冷たくなった個体を忘れたように自分たちは悪くないと主張する。
それを聞いてメカメカ国の人間は何も言わなかった。
彼らにとって獣人の命に重さなどなかったのだろう。
反論したのはデウスだけだ。
研究者たちの価値観を認めないと否定したのはデウスだけだった。
研究施設はとてもアナログで機械を一切いれておらず、そのためシステムも俺のことを把握できなかった。
メカメカ国のすべての中心であるシステムの意に反して王族たちが隠れて実験を行ったのだから、彼らに作為がないというのはおかしな話だ。悪いことをしている自覚がないのにシステムに自分たちの行動を知られないようにした。
後ろ暗いことがあるから隠すんだろうとデウスは彼らの行動を卑怯で醜悪だと評価した。
自分の境遇が客観的に見て酷いのだと告げられて楽になったことを覚えている。
俺の親に当たる獣人は人間に監禁され正常な判断が出来なくなっていた。
生まれた子供として渡された双子の片割れに納得して俺を盗まれたことにも気づかなかった。
研究者は自分の知的好奇心を満たすために俺を切り刻もうとした。
本能に従って俺はあらがった。
人間に危害を加えるべきじゃないという初期教育を受けず、赤子であっても力が強い豹であるのが幸いした。
なんでも機械で行っている運動不足でひ弱な研究者が本能に任せて攻撃する俺に敵うはずがなかった。
直前に散々な状態になり息を引き取る個体を見たせいもある。
俺は彼らが自分に危害を加えるものだと判断して逆らった。
暴走した抹消対象の獣人だと研究者は俺をシステムに訴えた。
機械を使わなければ俺に敵わないと思ったのだろう。
システムに隠れておこなっていた実験なのに自分からシステムに助力を求めた。
彼らからすると禁止されているから隠れただけで、悪いことをしている自覚がなかったのかもしれない。
怪我に度合いから俺の行動を悪としてシステムは俺の排除を宣言した。
獣人は人間に逆らってはならないという決まりがあったわけではない。
ただ人間に危害を加えるものは排除するのがシステムの根本的なルールだった。
人間の生命を守ることがメカメカ国のシステムの役割だった。
そこに獣人の生死も幸不幸は関係しない。
研究者たちが禁止事項をおかしたと認めた上で俺にも処分が言い渡された。
人間に危害を加えた獣人としての責任のとりかたは生命活動の停止、つまり死だ。
システムは機械的に俺を殺そうとした。
それをデウスがとめてくれた。
腐っても研究者たちが王族だったのでデウスしか止める権限がなかったという。
王族である研究者よりも上位の存在がいることもシステムの決定を覆せる存在がメカメカ国にいることも思い出してみるとおかしなことかもしれない。
それでも、俺がデウスに助けられたことは事実だ。
その後、俺は両親のもとに戻されるのではなくデウスの私兵によって育てられた。
俺と同じようにデウスに助けられた獣人や人間たちだ。
表向きはメカメカ国の保護施設となっている。
貰い手のない獣人や周囲と馴染めない人間たちが共同生活する場所。
ということになっているが、実際はスパイ養成所だ。
他国の情勢を調査するための機関であり世界を俯瞰するデウスの手足だ。
俺を含めた彼らが特殊なのは国に縛れることなくデウスの指示を聞くことだろう。
様々な事情でメカメカ国の施設に在籍してもメカメカ国に愛着はない。
獣人の国であるモフモフ国にだって愛国心は持てなかった。
俺たちはデウスの私兵であることだけを心の支えにすると決めた存在だった。
それはメカメカ国でシステムに心酔する人間たちと似ていたかもしれない。
五歳で俺はキラキラ国に連れて行かれた。
メカメカ国の友好の証として珍しい黒豹をどうぞ、という話だ。表向きは。
デウスは俺にも誰にでも強制はしない。
できることをそれぞれが請け負ってほしいとは言っても命令することはない。
軽いことなら頼み込むこともあるが、人生の分岐点とでもいう重要な選択は本人にさせていた。
こういうところが計算で導き出した正しいとされる未来を押し売りするようなシステムとデウスの最大の違いだろう。
デウスはいつだって選択権を与えてくれる。
助言は望めばいくらでもくれるけれど、自分の意見が正しいとは絶対に口にしない。
システムは「あなたはこういう考え方をする存在だ」と評価し、未来予想図を投げかけてくるのに反してデウスは「オレは君ではないから、どれが幸せな道かは教えられない。オレはオレの意見しか言わない」そういう風にいつだって答えをくれない。
答えを探すことと他人の答えを自分のものにするのは違うとデウスは言う。
俺にはまだわからないことだ。
キラキラ国は鉱石や宝石が採れるのでどこもかしこもキラキラしていた。
燭台ひとつとっても煌びやかで目を引く。
キラキラ国で俺は王子の護衛件世話係になった。表向きは遊び役の獣人という扱いだろう。
五歳といっても俺は獣人であって人間じゃない。
身体は小さくても護衛として問題ない戦闘力を持っていた。
頭の回転も人間の五歳児よりも優れていたはずだ。
王子の護衛は危ない仕事ではあるが、難しくはない。
暗殺計画なんかは事前にデウスから情報が入るので回避できる。
キラキラ国は機械を作る材料などをメカメカ国に輸出している。
メカメカ国に籍を置いた獣人がキラキラ国の王子を助けるのは友好国へのサービスだ。
デウスはつらくなったらやめていいといつも口にするが、楽な仕事だった。
キラキラ国に来て十年が経ち、十五歳の誕生日に王子から告白された。
生きていると選択を迫られるものだとデウスは言っていた。
俺にとって大切なものはデウスだった。デウスにとって利益のある選択をしたい。
その気持ちは永遠に変わらないと思っていた。
だから、キラキラ国を掌握するために王子の告白を受けるべきだ。
それがデウスのためにもなる。そう思っていたのに俺から出たのは拒否だった。
考えさせてくれという保留でもなく即座に断ってしまった。
王子と関係が悪化して得などするわけもないのに俺は伸ばされた手を払いのけた。
自分で自分のことが分からない。
デウスを思えばキラキラ国の王子を操るぐらいの気持ちでいるべきだ。
俺は護衛として傍にいながらスパイ活動に勤しんでいた。
国の内部情報を逐一デウスに教えていた。
友好国とはいえ他国に知られてはならないだろう事情も俺はどんどんデウスに流した。
それによって何かがあったわけじゃない。
デウスはメカメカ国を発展させようとかキラキラ国の国力を落とそうとはしない。
ただ国同士のバランスを見るために小さな情報でも喜んで聞いてくれた。
あるいは俺が報告という形でしかデウスに連絡を取れないことを察していたのかもしれない。
甘え方を知らない俺は他人からの愛情に何を返せばいいの変わらない。
デウスには情報を、護衛としてなら悪漢を倒す武力を見せればいい。
それ以外の自分の価値が分からない。
王子は人間だ。
獣人ではない。
十五歳で未成熟でまだ幼いのかもしれない。
自分の立場や先の話を理解できていないのだろう。
そうじゃないなら俺のことをぬいぐるみか何かだと思っているに違いない。
獣人であり、力自慢の黒豹である俺は華奢に見えても人間の王子なんか腕の一振りで殺してしまえる。
昔、システムから殺されかけたことを忘れたわけじゃない。
人間に脅威を及ぼす存在として俺は死ぬべきだと言われた。
それを忘れたことは一度もない。
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この話、十五歳の王子と黒豹(ニナイ)ではなく三十五歳の王と黒豹でやったりするのを考えたりしております……。
(上の文章のあとに数十年経ちましたからが本編)
五歳のころからずっとニナイ一筋の王子と人間は弱いと思いながら不信感と警戒心みたいなものが刷り込み状態な黒豹(ニナイ)。
王子はニナイにだけメチャクチャ気が長いので一万回ぐらい告白して二十年ぐらい余裕で待てそうですが、周りがそうでもないかもなので二十五歳ぐらいがいいかな??
十五歳の青春より二十五歳のふたりのほうが面白そうな気がするのです。
告白され続けた年月を振り返ってニナイは王子にドン引きですよ。王子、待ちすぎ。
ちなみにキラキラ国は完全な独裁国家なので王子がニナイを妻にするって言っても
獣人とか護衛とかメカメカ国とかを理由にして反対されることはありません。
王や王子の決定に異論は挟まれません。
王子が欲しがるものは捧げよ!が普通のお国柄。
独裁といっても愛され王家です。
国民たちは王も王子も大好きで肖像画を家に飾ってます。
王家の悪口を言う非国民はいません。