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 人間と獣人は違う生き物だとハーディアはよくよく知っていた。
 常識として知らずに生活はできない。
 
 それでも二足歩行していて言葉を交わせるので幼いころ違いがよくわからなかった。
 人間の姿に耳と尻尾、ときに手足の先が毛むくじゃらで鋭い爪という獣の部分を残していても言葉を話す知性がありそうな相手に対して人間との違いを言葉で表現できない。
 獣人を人間扱いしていたわけではなく言葉で区別できないことがハーディアからしたら珍しく好奇心を刺激された。
 周囲に父と母という獣人に対して正反対な感覚の大人がいたからかもしれない。
 
 父は獣人の能力を高く買った。
 普通の使用人や警備員の中に獣人を混ぜることもよくあった。
 母は人間が出来ることは人間がすればいいと主張した。
 獣人が自分の生活圏に侵入してくるのを良い顔をしない。
 
 けれど一人息子のハーディアの教育こそが屋敷において最も優先された。
 そのためハーディアのためとして父は積極的に多種多様な獣人を家に招いた。
 母は獣臭くなることを嫌って生まれたばかりのハーディアの弟を連れて別荘に避難した。
 
 残されたハーディアの父と獣人たちとの生活は幼いながらに刺激的だった。
 
 獣人は種族関係なく個体数がオスが多くメスが極端に少ない。
 雇うにしても生涯面倒を見るという意味で引き取るにしても獣人側に払うお金はオスのほうが安く済む。
 ハーディアがある程度の数、獣人と触れ合った後に父は実用的だと感じた獣人を手元に残した。
 
 父の一番のお気に入りは牛の獣人だ。
 
 彼らはオスであっても関係なく乳を出す。
 その胸に吸いついて直にミルクを飲むのが上流階級の嗜みだと父は誇らしげに言う。
 ミルクを飲みながら母にも見せたことのないような恍惚とした顔をする父の姿がハーディアには不気味に映った。
 アニマルセラピーという言葉だけで片付けられないものがある。
 父の姿に異常を感じても幼いハーディアに止める手段はない。
 
 獣人はオスであっても人間と子を作れる。
 人間が獣人を雇っている場合、性行為も合意の上なら行える。
 獣人の中で人間との行為はタブーではないし、個体差はあるものの貞操観念は低いらしい。
 本能を優先するからこその獣人だと父はよがり狂う牛を見せつけながらハーディアに言った。
 幼い子供に見られながら快楽をむさぼる姿は確かにケダモノだった。
 
 そして、母がいない屋敷にハーディアの弟が大量に生まれた。
 
 獣人と人の間に出来た子供に獣人の要素は見られない。
 完全な人間しか生まれてこなかった。
 獣人たちには母性本能といったものがないようで子供を育てたいとか大切にしようという意識はない。
 あるいは獣人たちがオスだったからこそ「母性」なんてものは持ち合わせる気がないのかもしれない。
 
 産んだ子供をハーディアの父が施設に送ったり手元で育てたりと好き勝手なことをしても不満に思った様子はなかった。
 心から父が好きなのか仕事上の行為だと思って受け入れているのかハーディアにはわからなかったが人間と獣人の感じ方には明確な違いがあると知った。
 毎日、父やハーディアにミルクを与えるだけではなく父とベッドに入ったり、子を産んだりする獣人たち。
 母がいたころとは空気が違っている屋敷の中でハーディアは成長していくことになる。
 そんな中、事態が変わったのは懸命に働いている小さな子をハーディアが見つけたからだ。
 ハーディアはその小さな獣人に興味を持った。
 
 そして知ることになったのは意外な事実だ。
 
 牛の獣人の仕事はミルクを出すことだけではないし、子を産むことでもない。
 雇う際の名目としては家事代行だった。
 だからこそ母が牛の獣人が家に入ることを許していた。
 牛の獣人の仕事は子づくりであったなら決して滞在を認めず屋敷から叩きだしただろう。
 
 獣人が出すミルクはサービスの一環、オプションのようなもの。
 だがハーディアの父はオプションにこそ価値を見出していた。
 そして、ミルクを飲むだけでは我慢できずに自分のミルクを獣人の中にそそぎこんだ。
 人間の使用人たちに掃除などをさせて気持ちのいいことだけをして賃金を得られるのだから牛の獣人からすれば父はいい雇い主だったのかもしれない。
 
 その中で父のハーレムの外で洗濯物を干している牛の獣人がいた。
 好奇心旺盛なハーディアが興味を持たないわけがなかった。
 
 観察していると牛の獣人なのにミルクが出ないので父の朝の一番搾りのメンバーから外されていた。
 結果、夜中に父にベッドに連れ込まれることもなく通常の業務として洗濯物を干したり掃除をしている。
 どうやら幼すぎる獣人はミルクを出せないらしい。
 オスは特に精通後にミルクが出るというので育つまで待っているのが普通だという。
 
 自分と同い年かそれよりも幼く見える獣人が最終的に父のハーレムに入ることをハーディアは受け入れられなかった。
 このまま毎日一生懸命小さな体で掃除や洗濯などをしている獣人を父がどうにかするのかと思うと感じたこともないような怒りと絶望が湧いてくる。
 
 ハーディアは自分の感情に従って母に屋敷のありさまを無邪気を装って報告した。
 
 当然のように獣人ハーレムは解散。
 施設に送られた弟たちは回収され父は馬車馬のように働かされて干からびた。
 父にとっての楽しい時間の終わりだ。
 
 ミルクの出せなかった幼い獣人を残して屋敷から獣人は消えた。
 母からすればオスで獣人とはいえ愛人のような役割を担っていた相手は見たくもないだろう。
 幼い獣人だけはハーディアの友達という形で追い出されずに済んだ。
 当時は一方的にハーディアが見つめていただけで交流などなかったが後にふたりは親友とまで言えるほどの関係を築いた。
 
 牛の獣人はレティー。
 顔立ちは平凡で決して美形には分類できないが見苦しいと言われる見た目ではない。
 花がないので地味な印象はあるものの邪魔にならない添え物としてちょうどいいとハーディアの母にも好かれていた。
 
 レティーが働き者だったこともあり大量のハーディアの弟たちも殺人などの問題を起こすことなく育っていった。
 


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