パパは二人でママはいない

※淡々と薄暗い話です。


 僕の家にはパパは二人でママはいない。
 ゲイのカップルに引き取られたというわけじゃない。
 肉体的な性別が女性だった僕を産んだママが僕が五歳ぐらいのときにおかしくなった。
 以前からずっとおかしかったらしいけれど誤魔化し続けていたママ。
 理由は幼い僕にはわからないけれど弾けてしまった。
 
 ママはありとあらゆる手段で死のうとした。
 この世界に居たくないと毎日口にする。
 でも、僕にもパパにも幸せに長生きをしてほしいという。
 僕たちの幸せはママあってこそなのを分かっているからママは苦しくて泣く。
 死にたがるのをどうしてもやめてくれない。
 
 狂ったようなママに手を差し伸べたのはパパの知り合いだった。
 ママとも面識がある見た目に何か特徴があるわけでもない普通の人。
 カウンセラーというわけではないらしいけれど人の悩みを聞くのがうまい。
 僕も日々の不満なんかを彼につい漏らしてしまう。
 好きな食べ物同じだから彼がやってくるときの夕飯はとても好き。
 
 狂った家庭をバラバラにしないでよくなったのは彼が居てくれたからだと思う。
 死ぬことばかり考えて実行していたママが死なないで済む方法を考え出した。
 彼は何もしていないという。ただ話を聞いているだけ。
 たしかにそんな感じはする。解決策を打ち出したりするようなリーダーシップに溢れた人には見えない。
 
 パパはママのことが大好きだからママの言いなりになった。
 専業主婦を辞めて働きたいと言ったら許した。
 男装手前な格好もOK。
 周囲の奇異の目から逃れるように引っ越しをして僕が中学に上がるころにはママはパパとしか言えない見た目に変わっていた。
 パパはママの少女時代の写真を僕に見せて「この頃をなかったことにしたいらしい」と口にした。
 
 性同一性障害、生まれ持った肉体の性別と心の性別が違うという人とはママは違うらしい。
 強烈なトラウマから自分の女性的な部分の否定、完全なる性からの脱却。切り捨て。
 女であることが気持ちが悪くて受け入れられなかったからママは狂ったのだというのがパパの推論。
 それが正しいのか間違っているのか分からない。
 
 ただママは受け身に回ることを良しとしない。
 発言も振る舞いも男そのまま。
 僕もパパもママが苦しくないならそれでいい。
 パパが二人になってしまったので僕は両親を名前で呼ぶようにした。
 すこし他人行儀かもしれないけど
 
 僕たち三人とも似ていないから仕方がない。
 
 高校に上がってママを助けてくれた彼を訪ねた。
 彼は窮屈な生活を強いられているようだけれど気にしたところはない。
 ママがパパでいることが生きるために必要であったように彼が軟禁状態であるのは彼のために必要なのかもしれない。
 彼が囚われ状態である理由は僕のママのようなどうしようもない状況に陥った人間を助け続けたかららしい。
 誰もを助けることはできないから彼が取りこぼした相手の親族から八つ当たりともいえる恨みを買ったのだという。
 勝手な話だと思うのはママが救われた側だからだろうか。
 
 僕は彼にママの壊れた原因について尋ねた。
 別に今更ママにパパをやめてもらいたいわけじゃない。
 ママがパパであっても僕たちのそばで生き続けてくれるのなら構いはしない。
 
 彼はすこしだけ躊躇った後にすべてを教えてくれた。
 そして「愛されてるのは間違いないから勘違いするな。誰よりも愛されているから生きてるんだよ。だから、生き続けないとダメだ」と言われた。
 きっと彼が僕を肯定してくれなかったら家への帰り道に電車に轢かれたり、車に轢かれたり、適当な場所から足を踏み外して死んだかもしれない。この世界から僕を消したかもしれない。幸い、彼は僕を責めることはせずに目的をくれた。
 ママがパパになって気持ちを安定させたように僕が僕じゃなくならないように彼はきちんと考えてくれていたようだ。
 
 
 教えられた住所に行くとボサボサの髪の毛で髭も伸びたよれよれのシャツの男がいた。
 見苦しい身なりだかれど僕は男が僕に似ていると感じた。相手もそうだったのか驚いていた。
 僕は教えられていた事実を男に告げる前に買ってきた包丁で切りつけた。
 皮膚を浅く切ったのか血が床を汚す。
 
 共同のマンションの床を汚すのは管理人に迷惑だろうから僕は男の部屋に上がらせてもらった。
 焦っている男を包丁の柄で殴りつけて服を脱がせる。
 男は変態なのか勃っていた。
 残念ながら僕は勃起しないので男の股間を踏みながら玄関先にあったスプレー缶を男の中に入れた。
 尻の穴は拡張済みなのか苦もなくスプレー缶は入れられた。
 
 状況についていけない男に僕は自分が誰の子供であるのか名乗った。
 そこで合点がいったのか男は命乞いを始めた。
 
 僕と男がそっくりなのはママが不貞を働いたからではない。
 ママはパパとしかしていない。検査を受けたので知っている。
 男はママのいとこにあたり、一時期、ママはこの男の家に居候していた。
 
 ママは男の玩具だった。
 子供を預かっているにもかかわらず男の両親はママの面倒を見ることはなかった。
 男だけがママを気にかけていた。
 だから、ママが男を好きになるのは当然だったのかもしれない。
 
 ママは男の玩具だった。
 ありとあらゆることをしたり試した。
 膣に異物を入れられることはよくあったようだが性器の挿入はなかった。
 男はゲイだった。
 ママの前で男を抱いたり抱かれたりしていたらしい。
 屈辱と恥辱の中でママは生きていた。
 いとこの家から出て独り立ちしてパパに出会うまでママの心は壊されていた。
 
 男はママを玩具にしながらママに性的興奮を覚えていなかった。
 愛着も抱くことはなく妹のように思っていたわけでもない。
 本当にただの玩具だった。
 人形遊びよりもひどい手軽な実験。
 ママの気持ちなんか考えることのない行為。
 
 それがママのトラウマ。

 性欲処理にすら使われなかった自分の女の部分がママには不要だった。
 なくしたかった。消えたかった。
 
 パパがいるからママはトラウマを克服したと思っていたけれど生まれた子供である僕は自分を否定した男そっくり。
 ママのいとこだから男に僕が似ているのは仕方がない。
 自分とパパの子供である僕を愛してるけれど憎くて怖くて気持ちが空回る。
 僕を恨むことが出来ないママは死を望み続けた。
 何かの弾みで僕に八つ当たりをしてしまうことをママは恐れ続けた。
 怯え続けたママはパパにも相談できずに壊れていく。
 最初からママは壊れていた。それを隠していただけだ。
 パパは壊れたママも愛しているからママがママをやめてパパになっても全然平気。
 ママを抱くんじゃなくてママに抱かれても愛し合っているから幸せ。
 
 ママが女を捨て去ることによって自信の回復を図ったのは別に目の前の男のせいじゃない。
 コイツはママが壊れるとかそんなこと考えちゃいない。
 何も考えてない。
 
 僕たち家族がバラバラになるかもしれないなんて思わずに今の今まで生きていた。
 それが僕は許せない。
 ママに謝罪しろとかママを元に戻せなんて言わない。
 ただコイツが自分がしたことを何も知らずにいるのが許せない。
 
 ママがスカートを全部捨てる時に葛藤していたのを知っている。
 普通の母親になれなくてごめんねと泣きながら僕の枕もとで謝っていたのを聞いている。
 僕が生まれるずっと前とはいえママの身に起きたことはママの中で終わっていない。
 なら、コイツにとっても過去のこととして終わらせるわけにはいかない。
 
 昔のことだと終わったことに出来るのはコイツじゃなくてママだけだ。
 でも、ママはママを否定してパパになったからきっとずっと終わらない。




※このあとにママに性的虐待としか言えないことをしてたママのいとこを調教して一家のペットに……というのを考えていましたがマニアック……。

四十過ぎの元鬼畜ゲス受けというだけでもビックリですがペニバン装備のママ攻めというネタが入ってくるので注意書きに困りますね。
流れとしてパパも主人公の僕も挿入しないでしょうから(挿入的な意味でいうとママオンリーってBL色がなさすぎる。見た目女じゃないですけど)

ママは男になりたいわけでも男でありたいわけでもないです。
価値を見出せない自分(女)を捨てたかった感じ。
いとこを喘がせたらママはきっとスッキリ爽快。トラウマ解決ハッピーイエーイ。

主人公の僕が男女どちらと付き合うのか気になるところです。
しばらく世話になった「彼」の手駒で満足かな?

「彼」の手駒でいることに幸せを感じて家ではペットのおっさんを適当に責めつつ充実した暮らし。
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