「一周年記念
単語リクエスト企画」
リクエストされた単語はラストに掲載。
先に知りたい方は「
一周年記念部屋、単語リクエスト企画」で確認してください。
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慣れ親しんだ性臭を嗅ぎながらリモニウムは決意する。
この退屈な魔王城から出ることを。
自分がいつに生まれたのか思い出せないほどリモニウムは長い年月を生きている。
今の魔王をシリンドリカと名付けたのもリモニウムだ。
リモニウムは光沢のある青みがかった銀髪にアイスブルーの瞳をしていた。
淫魔と呼ばれる種族の出だが森の民であるエルフの血を引いている。
そのため植物を使役することができた。
淫魔としては異端だ。
動物よりも植物と戯れることを選んで長年生きてきた。
シリンドリカの前の前の魔王と縁が出来たのも植物が由来だ。
魔王は代々、木の根元から生まれる。
当代の魔王が息を引き取ってから木の根元を掘ると新しい魔王がいる。
前の前の魔王はどうしてそうなるのか現象に答えを求めた。
エルフは排他的で他種族と交流を持たないので質問することもできない。
そのためエルフ寄りである淫魔のリモニウムに調べることになった。
リモニウム自身も魔王がどうやって発生しているのか気になったので魔王城に留まり魔王が生まれる木々を見ることにした。
前魔王が息を引き取りリモニウムが操るのにもっとも得意とする古代種のサンセベリアのひとつ、シリンドリカの名前を付けたのは今の魔王を操ろうという気持ちからではない。
自分の操るサンセベリアに愛着があったからだ。
古代の人間がつけた花言葉で「永久」や「不滅」を意味するサンセベリアだからその中の品種であるシリンドリカは魔王の名前として相応しい。
リモニウムはシリンドリカを魔王というよりも自分の植物と同じように愛情を持って接していた。
だから、無駄に人間の世界を攻撃して反撃を食らって殺されかけたのも助けてやった。
自分が人間を挑発しておきながら、いざ攻められると個人主義の魔物たちは誰も助けてくれず途方に暮れていた。
シリンドリカは子供だった。
人間の統率力や開発された兵器の威力を知らない。
リモニウムが超長距離からの攻撃にも被害を出さない強靭な植物の結界を張りそれ以外の土地を人間たちに開放することでその戦いは終わった。
シリンドリカは五十年は悔しさと情けなさで泣いていた。
人間との戦いから百年もしないうちに勇者と呼ばれる仕事が増えた。
リモニウムの作り上げる森や花園から草木を盗む仕事らしい。
人間の病を治したり特殊な体にする効果があるので人間たちがリモニウムの領域に入り込むのも仕方がない。
ある程度は剪定の手間が省けるので人間の勇者活動を大目に見ていたリモニウムだったが運悪くシリンドリカが人間と遭遇した。
人間恐怖症を患っていたシリンドリカはなぜかリモニウムの庭を焼いた。
子供ドラゴンがくしゃみで山火事を起こすようなものかもしれないが人間側には宣戦布告だと思われ、魔王でありながらシリンドリカは臆病さを極めて攻め込まれるままにされた。
自分の育てていた植物を台無しにされたこともあり進軍してきた人間たちをリモニウムは捕まえて淫魔としての自分の餌にした。
リモニウムの餌になることは即ち精を絞られることになる。
超長距離の兵器を扱う知識を持つ人間が途絶えたせいか戦おうとやってくるのは剣などで武装した人間だけなので倒すのは簡単だった。
リモニウムは屈強な男たちを犯し精を絞り、それに飽きたら年齢を若返らせて犯し、最後には女の姿にした。
女になった元勇者たちはリモニウムの育てていた草木をそれぞれ出産した。
人間によって失われた庭の復元ができて命を奪うことがなかったので平和的な解決ができたとリモニウムは納得して人間たちを解放した。
屈強な男の姿に戻るか、年若い少年のままの姿で時を止めるか、女の姿でいるのかはそれぞれ選ばせてやった。
結果、人間たちは元の人間の世界には戻らず魔王の敷地ちかくで村を作りそこから毎日リモニウムに犯されるために通うようになった。
人間を苗床にして植物を育てると発育状況がよく綺麗な花を咲かせるので人間が望んでいるなら悪くないと思った。
ときに洗脳から解けと軍団で詰め寄ってくる人間たちを同じように苗床にしていくのも楽しい。
殺してやると呪詛を吐く口から嬌声が上がり、はしたなくねだってくる。
一番偉かったり年上であることでプライドが高い人間が快楽に負けていく姿を見るのは愉悦しかない。
自分もやはり淫魔なのだと思いながら百年ぐらいは楽しくリモニウムもやっていた。
だが、人間たちが出産する種などを植えていったために魔王がおさめる土地が増えすぎた。
馴染むかどうかの実験でその土地の人間たちが生み出したものを植えていただけだがリモニウムの支配地域の拡大になってしまった。
危機感を覚えた人間たちも全てリモニウムは快楽の奴隷に仕立て上げた。
嫌がる男を縛り上げ、多肉性の植物を挿入して排泄させることで拡張させ後ろで感じることを覚えさせる。
ときには最初から女の姿にして破瓜を同じ人間に散らさせる。
老将軍を十ほどの少年にして性行為をしたくてたまらない気分になっている部下の男たちの前に裸で引き渡す。
どういった結末になるのかそのときどきで違っていたので人間は面白いとリモニウムは観察しつつ淫魔としての力を蓄えて行った。
リモニウムは淫靡な宴を作りだし魔王であるシリンドリカを守った。
そのことに不満はないが単調な生活をあまり求めていないリモニウムはさすがに人間が敵にもならない状況に飽きた。
どんなパターンの人間でもリモニウムは対応できる。
快楽には屈しないと誓っても最終的に彼らはリモニウムに負けてしまう。
リモニウムから触れられて感じなかった王子も自分の従者に撫でられるだけで達した。
女の膣を与えたら王子は喜んで従者の上にまたがって子づくりに励んだほどだ。
人間には必ず欲望があり淫魔はそれを読みとることに長けている。
リモニウムは声なき声を発する植物を相手にすることが多いのでなおのこと人を快楽に導くことが出来た。
魔王の調教師、リモニウムには誰も勝てない。
「城を出るだと!? なぜだ」
「退屈だからです。お暇をもらいます」
「今までずっと一緒にいたではないか!!」
魔王シリンドリカは二メートルほどの美丈夫だ。
人間だったら大柄に分類される体格で巨大な剣を振り回せそうだが見かけ倒しだ。
身体を鍛えているので身体の厚みはあるが致命的な不器用さがある。
訓練も受けている最中に剣で自分の腕を切り落としかけたことがある。
すぐにリモニウムが処置したので腕はくっついていて傷跡もないが剣を使うのを怖がっている。
ちょっとしたナイフも嫌がるので先端恐怖症になったのかもしれない。
「魔王様は私よりもその獅子と一緒にいる時間が長いのではないですか」
獅子というのはシリンドリカの後ろにいる三メートル近い獅子の獣人だ。
全体が獣人らしい毛皮に覆われている。
性格は好戦的らしいが今のところシリンドリカに撫でられてデレデレしている姿しかリモニウムは知らない。
大きな猫が城に滞在して数年になる。
客人だと言いながらシリンドリカは獅子を枕やクッションのように扱う。
時には椅子として使いながら片時も離さない。
手触りに夢中になっているらしく暇があれば毛皮に頬ずりしている。
初めは気にならなかったことが今のリモニウムには気になった。
理由は変化のない日々への退屈だと思ったので城というよりも魔王から離れることに決めた。
「仕方がないだろう。にゃんたろすは俺と同じで人間に傷つけられて心に暗い影を落としている。一緒にいて抱きしめてやるのが一番の治療法だと教えてくれたのは他の誰でもないリモだ」
「シーさま優しいっ」
獅子がじゃれつくように後ろからシリンドリカを抱きしめる。
それはよくある光景だったがリモニウムを不快にさせる。
つまらないものというのはこの世で一番無駄だ。
リモニウムはこの場にいることが無意味だと思ったので「それでは失礼します」と立ち去ることにした。
「待て待てっ」
「シーさま、人間来たら俺様が食い殺してやるからあんな植物調教師放っておけうよぉ」
「リモ、リモっ。待ってくれ」
泣いているような声に思わず振り返ればシリンドリカが涙目でリモニウムを見ていた。
リモニウムはシリンドリカの非力さを知っているので獅子の腕の中から出てこいとは思わない。
取り残されることが不安でたまらないという表情は魔王として許されるものじゃないので説教が必要だろう。
リモニウムは室内のインテリアとして植えている植物を操って獅子からシリンドリカを開放する。
急いで引き留めようとしたのかリモニウムに駆け寄るシリンドリカは服の裾をふんづけて転んだ。
あざというというよりも哀れな魔王の姿に仕方なくリモニウムは自分から近づいた。
「リモ、どこにも行かないでくれ」
「人間が襲ってきても自動で撃退できるように植物たちには指示を出しております」
数十年と人間を犯して孕ませているリモニウムの植物たちは慣れたものでリモニウムが指示を出さなくても人間を快楽責めにする。
そばにリモニウムが居ない分、加減が出来ず人間の精神状況が悪くなることもあるが防衛としては十分だ。
「そうじゃない。リモがいないと不安だ。どこかに行くなら俺も連れて行け」
「ここから移動したら」
「魔王の木の恩恵がない場所に行けばどうなるかは知っている」
魔王は生まれた木の近くから離れると死期が近づく。
リモニウムが知っている限り、葉を煎じた飲み物は魔王限定で怪我がすぐに治ったり気分を落ち着かせたりする。
木は魔王にしては弱いシリンドリカには必要なものだ。
自分がどんな状況になるのか分かった上でシリンドリカはリモニウムと共にいることを選んでいる。
退屈を吹き飛ばす愉悦がリモニウムに湧き上がり、気づく。
単純に自分を一番だと思わないシリンドリカの態度が気に入らなかったのかもしれない。
今までリモニウムはシリンドリカの世話をすることを楽しみにしていた。
時に腹を立てたくなるほどの無謀な行動をとっても自分に頼って甘えてくるための前動作だと思えばリモニウムは見過ごせた。
「リモ、一緒にいてくれ」
「私より見た目はずいぶん育ったはずですが中身は全然ですね」
シリンドリカがリモニウムの身長を越したと得意げになっていたのは生まれて数十年後のことだ。
身体を鍛えて強くなったと肉体美を見せてくれるが張りぼてでただの馬鹿だった。
だが、長年かけてそんなシリンドリカを作り上げたのは間違いなくリモニウムだ。
自分なしではいられない魔王を作り上げていた。
シリンドリカがリモニウム以外に興味を向けても結局、定位置はリモニウムのところ。
「調教師なんて呼ばれておりますが、私も私で楽しみたいのです」
「そうだな。何事もやりがいがなければならないな」
魔王とは思えない純粋無垢というよりも無知さでシリンドリカはリモニウムの言葉に頷いた。
獅子の溜め息はシリンドリカには聞こえない。
淫魔の血か、エルフの血か、どちらもが混ざり合っているからこそなのか見るものを魅了する微笑みを浮かべてリモニウムは口を開いた。
「魔王様の調教師になりますね」
その言葉を当人である魔王、シリンドリカは今までと何も変わらない状態になるのだと喜んで頷いた。
これから魔王の手足として調教師の活動をするのではなく、魔王を調教する者としてリモニウムが活動を開始するなど思ってはいない。
深い親愛は崇拝に似ていて性欲を伴わない。
シリンドリカを性的に制圧するのは魔王であることを抜いても人間よりも難しいに決まっている。
何もわかっていないのか自分に出来ることならなんでもすると口にするシリンドリカ。
退屈など無縁の時間が待っていることにリモニウムは妖しいが確かな美しさのある微笑みを浮かべた。
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「
魔王受、花言葉、偏執狂、危機」NG「
悲恋、平凡、あざとい」という単語リクエストからでした。
NGに関してはかわいくはあってもあざとくはないということで……。
作中に魔王様の名前についての花言葉しか入ってませんが、
リモニウムはスターチスの別名。
花言葉は「永遠に変わらぬ愛」「変わらぬ誓い」など。