誓っておれは悪人じゃない

「一周年記念単語リクエスト企画」
リクエストされた単語はラストに掲載。
先に知りたい方は「一周年記念部屋、単語リクエスト企画」で確認してください。

※不良受け。

どんな話でも大丈夫な人向け。


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 クズとは誰かと聞かれたら、おれじゃないと答えるだろう。
 悪い人間はいくらでもいるだろうが、それはおれじゃない。
 自分から犯罪行為なんて今まで一度もしたことがない。
 人を傷つけたいなんて思ったことはない。
 誓っておれは悪人じゃない。
 他人の不幸を望んだことは今まで一度もなかった。


 小学校からの帰り道に不良のたまり場があった。
 おれの人生の分岐点はたぶん、そこだ、
 
 公園の一角で数人がいつも制服姿で座り込んでいた。
 髪の色は明るかったり奇抜だったり髪の形も尖っていたりそりこみがあったり人の視線を集めたいのかそらしたいのかよくわからない集団だった。
 思い返せば見える地雷というやつで、不良軍団だ。
 
 その中の一人がゲームのマスコットキャラクターのキーホルダーをつけていた。
 おれが好きで欲しかったものをジャラジャラと音が鳴らしそうなほどにコレクションしていたから年上だとか危なそうな人間だとか考えずに声をかけてしまった。
 それだけのことからおれの人生は普通の常識的なものからそれていった。
 転落だと言われたこともあるけれど上にいたことを知る機会が持てておれはこれはこれで幸せだと思う。
 
 流されやすいうえに考えて発言するタイプじゃないのでおれは指示された通りのことをするし、頭の中で思い浮かんだ言葉は整理することなく口からそのまま出てしまう。
 本音と建前の使い分ける機能がおれにはなかった。
 
 そのことをバカにされながらも不良たちにおれはかわいがられた。
 誰よりも年下だからこそか弟のように扱ってもらった。
 ガラが悪いとか不良とかが、よくわからなかったおれはゲームセンターの景品をくれるいい人たちだと思っていた。彼らを悪人だと認識しなかったせいでおれは周りから不良だと思われるようになった。
 
 盗み、脅し、暴力、未成年の喫煙や飲酒、常識があれば悪いことだとわかるのかもしれないけれどおれは知らなかった。
 誰もが知っていて当然の知識もおれは持っていなかった。
 だから、悪いことを悪いのだと感じることもできないまま生きていた。
 
 気持ちいいことが正しい。
 笑えることが正義。
 それの何がいけないのか誰も説明してくれない。
 
 結果として不良たちについて回って補導されたり教師に怒られた。
 教師が怒る理由は自分が校長に怒られるからだというがどうして教師が校長から怒られるのかもおれはわからない。
 それもおれの口からはあっさり飛び出てまた教師を怒らせる。
 おれはおれの何が悪いのかを誰にも教えられてこなかった。
 その結果、どうなるのかすらも知らない。
 
 中学に上がった頃には最初に知り合った不良たちは不良を卒業したりもっとヤバイところに消えていた。
 
 おれはそのことも知らずたまり場に居座る。
 そこにいるのがおれの役目だと勝手に思っていた。
 
 そして、いつの間にか不良たちの後輩、おれから見ると一つ年上の寺中村さんと一緒にいることが増えた。
 
 寺中村さんはお金に汚いことで有名らしい。
 けれど、おれにお金がないことは知っているので寺中村さんはいつもおれに奢ってくれる。
 寺中村さんの悪評を聞いても全然ピンとこないおれは気がついたときには高校を卒業する寺中村さんと同居することになっていた。
 寺中村さんほどじゃないけれど仲がいいやつには急展開だと言われた。
 その自覚はおれにはまったくない。
 寺中村さんがおれと暮らしたいと思ったから実現した。ただそれだけのことだ。

 ケチだと有名なのにおれにお小遣いをくれる寺中村さんはやさしい。
 世間の評価というものは昔からずっとおれとそりが合わないらしい。
 不良はいい兄貴分で、寺中村さんはケチじゃなく節約家。
 
 おれはバイトをしつつ料理の専門学校に通った。
 魚をさばける男は格好いいと思ったし包丁セットがほしかった。
 ヴァイオリンでも入っていそうな黒の重いケースに夢中なおれは深いことを考えていない。
 いつだっておれは何も考えないでいた。
 バカは何も考えないでいいと言われたことになるほどと思ったからだ。
 おれよりも頭のいい人間は多い。だから、おれは他人の意見を受け入れることにしている。
 頭のいい人の言葉は正しい。たとえ間違っていたとしても物事を深く考えたりしないおれは気づかない。
 だから今のままのおれでいい。


 大学の飲み会は連日で寺中村さんがいない日が続く。
 そこで、おれはバイトに明け暮れることにした。
 中卒なのにがっぽり稼ぐおれはなかなかえらい。

 バイトのやり方は簡単だ。
 ツイッターで「時間が空いた」とつぶやく。
 本当にそれだけでいい。
 同じく時間が空いていたらしい相手から電話がくる。

 人によって時間にばらつきがあるけれど自分でスケジュールの管理ができないのでAさんとは何時、Bさんとは何時と決まった順にツイッターでつぶやいておく。
 
 それを見て大体の人は察してくれるし、時間が被っていたら一緒にしたり、無理だったり間違っていたら訂正が入る。
 
 誰とどこでどの程度の時間を過ごすのかおれは把握していない。
 ただ最初の駅に向かう時間だけはちゃんと頭に入れている。
 待ち合わせの五分前にはちゃんといるのでいつも褒められる。
 
 その後はお客さん同士が俺を受け渡ししてくれる。
 このやり方が無理な人は二度目はないし気にしない人は積極的におれの予定を聞いてくる。

 お客さんが同時に複数いることもあるし一人だけの場合もある。
 ひたすらおれを見続けるだけの人がいれば、ひたすらおれを舐め続けるだけの人もいる。
 常連さんは結構いると思う。

 この仕事のビックリするところはチンコを舐めたり舐めさせるとお金になるということ。

 今までおれは叔父の家で無料で叔父や叔父の息子たち、おれにとってのいとこのチンコを舐めていた。
 家の中では無料だったのに外ではそれがお金になる。
 不思議な感じだけれど自分の家で掃除をしても誰にもお金をもらえないのに業者として掃除をするとお金をもらえるのでそういうことなんだろう。
 おれを叱ったりする教師のチンコを舐めてもお金をもらったことはないけれど罰として掃除しろと言われなくなった。守ってやっているんだとかわけのわからないことを言われたりもしたけれど要は無料でチンコを舐めてもらいたがっていただけだ。
 
 寺中村さんが買ってくれる服はちょい悪風味でおれは恥ずかしかったりする。
 おれが着ても寺中村さんほど似合わない。
 それでもお客さんは大喜びしてくれるし、いつも服を精液やローションでぐちゃぐちゃにされる。
 おれも慣れたものなのでクリーニング代なんていう名目で追加料金をもらっている。
 口を滑らせたので自分で洗っているのはお客さんにしっかりとバレている。
 

 そして、ある日のこと、寺中村さんにおれのバイトがバレた。


 寺中村さんが飲み会でいないのでバイトをみっちりしてタンス預金がはかどりすぎたのが悪かった。
 お金をタンスに入れるために服がタンスに入らなくなった。
 おれは十万円ずつ無料でもらえる銀行の封筒に入れていた。
 それが消えてしまった。
 封筒はいっぱいあったはずなのにさすが寺中村さんはお金に汚い。
 おれのタンス預金を消してしまった。
 年上とはいえ寺中村さんの暴挙を許してはいけない。
 おれはちゃんと抗議した。
 悪いのはおれのタンス預金を消した寺中村さんだ。
 それなのに寺中村さんからおれを責めるような空気を感じる。なんでだ。

「もう一度聞く、あのカネは何だ?」
「バイトして貯めました」
「もう一度聞く、バイトって何だ?」
「チンコ舐めたり舐められたり」
「なんだって?」
「チンコ舐めたり舐められたり」
「ふざけてんのか」
「寺中村さんは知らないかもですけど、……おれもちょっと前まで知らなかったけど、チンコ舐めたり舐められたりするとお金もらえるんですよ」

 実際にやってみないと信じられないかもしれない。
 おいしい話は誰でも疑ってかかる。
 イケメンな感じのサラリーマンからハゲのおっさんから引きこもりから男はみんなチンコを舐められたがっている。意外に思うかもしれないがマジな話だ。

「何人だ。今まで何人いた」
「チンコ一回、二千円で三十分以上になるならプラス千円で……でも、一日働いて十万前後になることがあるからチンコの数が多いのかいっぱいくれる人がいるのか? 丸一日で三十万円ぐらいもらったことあるけど、にょーどー代金だって?」
「どういうことだ」
「チンコに棒を入れてどの太さまでいけるのか試す遊び?」

 十人ぐらいの見物人がおれがどこまでいけるのか賭けをしていた。
 翌日に小便するのがヒリヒリしてきつかったけどみんなが楽しんでいたのでいいことをしたと思う。
 お客さんは大切にしないとならない。それが接客の基本だってテレビで言っていた。

「……これからは普通のバイトしろ」
「普通って?」
「コンビニとか」
「店長のチンコ舐めんのか」

 おれのつぶやきに寺中村さんのゲンコツが落ちた。
 どうやらおれは怒られているらしい。
 寺中村さんの怖い顔はいつものことなので叱られている自覚がなかった、

「そんな男のちんぽが欲しいのかよ」
「寺中村さん、おれも男だからちゃんとチンコある」

 下半身を露出させてアピールするが寺中村さんは首を横に振る。
 噛み合ってないらしい。
 
「チンコは何本もいらない。おれにある分だけでいいよ」
「なんでそんなバイトをはじめたんだ。カネはやってるだろ。おまえの学費だってちゃんと払ってる」
「あー、うーん、そのことだけど、寺中村さんに悪いからいいよ」
 
 おれは自分で払うと立派なことを言った。
 バイトはすればするだけお金が溜まるので学費はきっと楽勝だ。
 
「けっこう学費って高いって聞いて」
「誰に」
「バイトを紹介してくれた同級生?」
 
 本当は叔父だ。
 高校に通うのはお金がかかると言われたから通わなかった。
 寺中村さんがそんなおれが通える専門学校を紹介してくれた。
 学校案内のパンフレットにあった包丁ケースは格好よかった。
 
 一緒に住んでいて寺中村さんがおれが覚えた料理に喜んでくれるのも楽しかった。
 だから、何も間違ってなんかいないはずだ。
 
 顔に手を当てて歯を食いしばっているような寺中村さんにおれはどうしたらいいのかわからない。
 同居していても寺中村さんとおれは付き合っているわけじゃない。
 だから、おれがこういうバイトをしても浮気にはならないし、問題ないと思っていた。
 学費を払わないことでお金が浮いて喜んでもらえると思っていたのに違うらしい。
 
 最終的におれはバイトを辞めさせられた。
 専門学校も辞めた。
 
 手元には包丁ケースが残っているから何もかもがなくなったわけじゃない。
 ただ寺中村さんは大学の飲み会に参加しなくなったし、おれを部屋の外に出さないようにしてしまった。
 これは何の解決にもならない、なんて言いながら寺中村さんは今日もおれを抱きしめる。
 
 誓っておれは悪人じゃないので、こんなことになるとは予想がつかなかった。
 悪知恵が働くタイプじゃない。
 
 寺中村さんが飲み会で帰ってこないことにいじけていたのは確かだけれど構い倒されるのもこれはこれで面倒だ。
 チンコを舐めたら寺中村さんもバイトのことを許してくれるのかと思わず口からこぼれたら、海パンの上からの電マ責めをされてしまった。
 おれはこれにめっぽう弱い。
 
 直接、チンコに触れたくても手を動かせないし声も出ない。
 腰も動かせないようにされているので寺中村さんの機嫌を損ねないようにしないとならないと日々身体で覚えさせられる。
 
 寺中村さんはケチじゃないと思っていたけれどおれに無料でこんなことをするんだからケチかもしれない。
 
 
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嫉妬、攻複数」NG「浮気」という単語リクエストからでした。

リクエストの単語とNGワードが相反する要素というのを一作品はやりたかったので出来て良かったです。
リクエストしてくださった方に肩透かしを味わわせてしまった気もしますが、これはこれということで。


不良受けと言いつつ不良成分の少ない詐欺っぽいところのほうが問題かもしれませんがウリは不良だということで……。
(悪くない見た目で頭空っぽの不良ルックな少年のエロいショーは需要あるだろうと思って。そっちの描写をメインに持ってこいと思わなくもないですがこれはこれで)
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