「一周年記念
単語リクエスト企画」
リクエストされた単語はラストに掲載。
先に知りたい方は「
一周年記念部屋、単語リクエスト企画」で確認してください。
※おっさん(美形)と家出少年(平凡?)……カップリング未満ですがアブノーマルな香りはします。
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吉永さんは犬を飼いたいらしい。
すでに飼っているのにたびたびそんなことを口にする。
酔って帰ってきたときは「どうせ俺は中間管理職でトップじゃねえよ」と愚痴りだす。
どんな職種でどんな役職なのかも知らないけれど毎日とても大変そうだ。
そして、そんな愚痴の最中に飛び出す言葉が「犬」だ。
犬が欲しい、飼いたいと言う吉永さんは自分が大型犬を飼っているのを忘れている。
オレはいわゆる家出少年だ。
家に帰れなくなりホームレスになって一週間とちょっと。
友達なんか居なかったので帰る家がなくなった段階でオレの人生は詰んでいた。
手元にあったお金で漫画喫茶でシャワーを浴びて無駄に時間を過ごした。
何を期待していたのか分からない。
ただ財布の中身がカラになったらオレの命は終わりだと思った。
三日風呂に入らないでいるのが耐えられないオレがひとりで生きていくなんて最初から無謀だった。
わかっていても後の祭りだ。
ドリンクバーで腹を膨らませてもう少しだけはこの生活が続けられると思っていたら呆気なく全財産を奪われた。
人から殴られたことも財布からお金を持っていく人がいることもオレは他人事のように見ていた。
「生きてんのか? このまま死ぬか? すこしはマシな生活したいか?」
逆光でその人の顔は見えなかったが眼鏡をかけていることだけはわかった。
ボロボロの状態で座り込んでいたオレはその人を見上げて「大きい」と今にして思うとよくわからないことを感じていた。
日本人離れした長身というわけじゃない。
それでも、オレにとって吉永さんの存在はデカかった。
きっと第一印象からずっと吉永さんの態度がデカかったからだ。
吉永さんに連れてこられたマンションは高級の匂いがした。
家具は少ないがセキュリティがしっかりしていてボロボロで汚いオレは場違いだった。
風呂の位置を教えられ、新品の下着とパジャマを用意された。
湯船につかりながらオレはこれからどうされるのか自分の身を案じるよりも先にジャグジーに感動した。
シャワーばっかりだった日々がどれだけクソなのかわかる。
風呂から出たオレは相手がどんな変態で最悪の要求をしてきても従うつもりでいた。
眼鏡の似合う知的な中年だから拾った子供に何かするならきっと女にはできない変態行為だろう。
そう思ったのは薄っすらとチンピラな雰囲気が吉永さんにあったからかもしれない。
いろいろと覚悟したオレに突きつけられたのは大型犬であるキュンキュンだ。
適当すぎる名前だと思うがキュンキュンと呼ぶとやってくる。
直立したらオレと同じぐらいの身長になる気がする大きな犬。
灰色がかっている毛並みは手触りがよく耳は伏せた状態が普通みたいで人見知りしない。
見たことのない品種の犬。
オレの役目は金持ちっぽいおっさんの変態プレイのお相手ではなくこの大型犬の世話。
以前よりマシな生活と吉永さんは言うがマシどころか天国のような生活だ。
綺麗な部屋と大きなお風呂。
必要最低限の洋服と十分すぎる食事がついて仕事は温厚で賢い犬の世話。
キュンキュンは大きいのでお風呂に入れたり遊ぶのは体力を使うが自分の悲惨な死を考えるよりは随分と有意義に時間が使えている。
吉永さんは基本的に外で食事をしてくるし、オレに食事代として十分すぎる金額を残していくので困ることはない。
キュンキュンへの食事は味付けしない茹でた野菜がメインで人間が食べているものは興味を示しても与えないように言われた。
一か月が経ってオレは自分の食事を作り始めた。
外食に飽きたというよりは昼間のテレビを見ていて食べたくなったからだ。
調理器具はきちんとあるし、期限がギリギリな調味料も多かったのでそれを使いきってやろうと思って料理をはじめた。
味はそこまで驚くほどおいしいわけじゃなかったが食べれないほどじゃない。ラップをして冷蔵庫に入れていたら消えていて吉永さんに事後報告で食べたと教えられることが増えた。
何を食べたいとリクエストされることはなかったけれど吉永さんはおいしくできた物は必ず食べていた。
オレは調子に乗って作る量や頻度を増やした。
吉永さんと顔を合わせない日でも冷蔵庫の中のものが減っていると幸せな気分になる。
そんな生活を半年ほど続けてオレは吉永さんのことを好きだと自覚した。
酔っ払っているときに抱きしめられて眠りについたりキスをされたこともある。両思いではなかったとしても確実に嫌われてはいない。
覚えていないのか朝にはそういうことに触れることがない吉永さんにやきもきしながら料理の腕を磨いた。
胃袋から吉永さんを捕まえようと思ったのだ。
吉永さんは眼鏡がよく似合う切れ長の瞳の美形だ。
本人はただのおっさんだと口にするけれど年齢不詳な雰囲気があるし、お腹は出ていない。
スーツ姿がよく似合う吉永さんからはインテリの匂いというかビジネスマン以上の空気を感じる。どうしようもなく立ち姿がスマートで格好いい。
官僚とかキャリア組とかそういう肩書きを持っている職場にいそう。
ただ面倒くさがりなのか非力なのか家具を移動したりするのはオレの仕事になっていた。
見た目からして細いので体力はないのかもしれない。
酔うと年下であるオレ相手にも平気で愚痴を吐く吉永さんだけれど謎に包まれている。
見た目がいいので彼女の一人や二人いそうだが影も形もない。
男が好きなのかと探りを入れれば男も女も抱くと面倒だと大人な意見を返された。
そんな吉永さんがずっと訴えているのは犬を飼いたいということ。
すでにキュンキュンがいるにも関わらず子供が駄々をこねるように犬を飼いたいと主張する。
賢いキュンキュンはそれにすねるでもなく前足を吉永さんの肩にぽんっと置いた。
オレと吉永さんの関係に変化が出たのは出会ってから一年ぐらい経ったある日だ。
吉永さんが酔って帰宅したと思ったらオレに首輪をつけた。
ネクタイを緩めたりする仕草がセクシーだと見惚れていたオレは反応できずに座り込んでしまった。
それが悪かったのか吉永さんに「気にいらなかったのか?」と心配そうに顔をのぞきこまれた。
キスをした記憶とか、すこし疲れているからこそ醸し出されるアダルティさにオレは一気に飲まれた。
頭に血が上って自分でもおかしなテンションだと自覚しながら、うれしいとかずっと欲しかったとか一生大切にするとか口にした。
首輪に対してどうかしているとしか思えないが好きな相手からもらったプレゼントということでオレは本当にうれしかった。
オレの喜びように吉永さんはビックリして照れ臭そうにそっぽを向いた。
吉永さんの仕草の全部がオレの心を震わせる。
首輪をもらってから好きだと思う気持ちは加速していった。
それから、吉永さんが帰ってこない日でも首輪があるから淋しくなくなった。
酔った吉永さんが犬が欲しいと言わなくなったことにオレが気づいたのは首輪をもらってしばらく経ってからだ。
いつもの言葉を口にしない吉永さんにたずねると「おまえが俺の犬だろ」と頭を撫でられた。
自分を認められたようで泣きそうになる。
続けて吉永さんは「キュンキュンに嫁ができてよかった」とも言った。
どうもキュンキュンは深夜に人が食事する程度の塩分を摂取すると人間の姿に変わるらしい。
大きな身体のキュンキュンは背伸びをしてオレが冷蔵庫に入れていたご飯を勝手に食べていたという。
オレが吉永さんだと思っていたのは人間の姿になっていたキュンキュンでご飯もまた吉永さんではなくキュンキュンに作り続けていた。衝撃の事実だ。
吉永さんからすると人の姿になるような犬は犬じゃない。キュンキュンは吉永さんとしては人の扱い。
小賢しくなく吉永さんという主人に忠実なオレのほうがよほど犬らしいという。
褒められているのは分かるが真実についていけない。
そもそもオレは吉永さん恋しさにひっそりと後ろを使った自慰なんてものに手を出してしまっていた。その自慰のレベルが上がってキュンキュンとセックスしてしまっている。
大型犬に後ろから犯されることに快感を見出したり、吉永さんに褒められて頭を撫でられることに恍惚としたり、犬だと言われたら犬な生活をオレはしていた。
キュンキュンではなく吉永さんの嫁になりたかったがキュンキュンのつがいとして吉永さんが永遠に飼ってかわいがってくれるというのでこれ以上の幸せはない気がした。
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「
美形、おっさん、愛され」+「
眼鏡」NG「
ショタ、流血、両想い」という単語リクエストからでした。
美形のおっさんが家出少年に愛されている話であり見方を変えると大型犬に少年が愛されている話。