浮気ではない浮気

年の差カップルのちょっと不思議なネタ。
タイトルそのまま浮気ではない浮気話。

社会人の面倒な感じが前面な受け。



 交際相手が大学を卒業してから一気にケンカが増えた。
 社会人になったことで相手に対等という意識が強くなったことと俺が転職して時間に余裕が出来た反面、収入が減ったせいだ。
 
 年上なのに収入が少なくて恥ずかしいという気持ちや家事が上手くできずに誤魔化しているのを指摘される気まずさがある。
 年上だからこそ折れてしまえばいいのに大人の男の見た目である相手にきつい言葉を選んで投げかけてしまう。

 ケンカの原因は俺の嫉妬や彼の嫉妬など分かりやすいものならまだケンカした後に馬鹿馬鹿しいことをしたと笑い合ってわだかまりは残らない。
 けれど、根本的に俺の中に飲み下せない違和感や捨てきれないプライドがある。それこそが問題だ。
 
 男を好きなこと。
 恋人が年下の男なこと。
 年下の男のスペックが高いこと。
 高いスペックの恋人が異性にモテること。
 恋人は同性愛者ではなく異性愛者であること。
 


 以前の恋人に指輪を見せられた日を唐突に思い出すことがある。

 プロポーズをしてくれるんだと思って泣きそうになった。
 彼はSNSで知り合った普通の女性と婚約するから別れてくれと言ってきた。
 涙は出なかった。
 ただ惨めで悲しく寂しく苦しい。
 でも、俺だけではなく同性愛者なら誰でも味わうことだと思った。
 そう思うことで自分を守ることにした。
 
 自分が世界から要らない存在だと言い渡されたような苦痛から逃げるために俺はボランティアに参加した。
 積極的に精力的な活動は最低な恋人を忘れるためだった。
 人から必要とされている実感がどうしても欲しかった。
 自分に優しくしてもらいたいから人に過剰なほどに優しくした。
 不安や淋しさを消したかった。
 
 結果だけ言うなら俺はボランティアでは救われなかった。
 けれど、今の恋人である彼に出会った。
 
 施設で暮らす子供たちに絵本の読み聞かせのボランティアを毎週していた。
 最初からそういったボランティアをしているサークルがあって俺が助っ人として参加して、定着した形だ。
 
 無邪気に自分を頼ってくれる子供たちが嬉しかった。
 子供は容赦ない指摘をする一方で構ってもらいたいという本心を隠している。
 好きな相手の気を惹きたい、その気持ちだけで大人がしない言い回しをする。
 時にその言い分がどれだけ鋭かったとしても子供はコミュニケーションをとりたいだけだ。
 それがわかるので怖くなったり本気で怒る気にはならない。
 いつでも副音声のように「こっちを見て、自分の話を聞いて」というメッセージが感じられる。
 底の浅いずる賢さすら愛らしい。
 
 俺を帰らせないために家の鍵や財布を盗んで隠してしまう子がいつも居た。
 嫌われているからではなく長く一緒に居たいからの行動だと思うとかわいくて和んでしまう。
 困らせられるのが嬉しかった。
 
 そして、俺はそういった子供の行動を中学生の彼が指示していたと聞いて驚いた。
 彼は施設に来る俺を嫌っていると思っていた。
 中学生で難しい時期だから仕方がないと諦めていた。
 そんな相手から強烈な愛情を向けられていると知って、うっかり道を誤った。
 
 彼にそんな気はなかったかもしれないのに俺と彼の距離は縮んでいった。
 高校生の彼に押し倒されて、拒めばいいのに流された。
 嫌がると彼を傷つけると思ってしまった。
 普通に女の子と付き合うべきだと告げることがどうしても出来ず、関係はずるずると続いて同棲までした。
 俺の家から大学に通う彼を見て嬉しいと思う一方で、子供らしさが消えて一人前の男の姿になる彼に嫉妬する。
 
 見下ろしていた頭をいつの間にか見上げることになる。
 逆転した身長はもう追い越せない。
 
 彼に中学生のままで居てほしかったとか、そんな無茶なことを言いたいわけじゃない。
 抱きあげることができた時代を知っているからこそ、彼に抱きしめられることに違和感を覚える。
 
 付き合いで飲み会に連れまわされる彼を見ているのがつらかった。
 それを仕事に打ち込むことで逃げた。
 ボランティア活動にのめり込んだ日々と同じだ。
 目の前にある苦しみから目をそらそうとする。
 
 一緒に暮らしているのに擦れ違うのが寂しいのだと素直に言えない。
 どれだけ彼がしっかりとした大人に見えても年下なので弱音は口にしたくなかった。
 不安を人に八つ当たりするという自分も情けなくて嫌だった。
 ケンカらしいケンカは俺たちの間で成立しない。
 
 ある日、俺は同棲の解消と別れを彼に切り出した。
 
 彼は嫌がった。
 俺と別れるぐらいなら死ぬと口にするので一旦、別れ話はなくなった。
 飲み会に行くことはなくなった。
 代わりに俺の仕事が忙しいことを責めるようになる。
 学生と違って社会人は忙しい。
 とくに俺は彼が自分から離れていくことを見ないために積極的に仕事を抱え込んでいた。
 すべてが悪い方に回っていた。
 職場に対する責任から俺はそうとは知らずに彼を蔑ろにしてしまう。
 約束をおろそかにして仕事を優先するような行動をとる。
 彼との仲が上手くいったからといって請け負った仕事を放棄などできない。
 表面上は納得しても彼にも不満が溜まっていたんだろう。
 
 ある日、まるまる三日間監禁された。
 
 俺は転職を決めて解放される。
 お互いがお互いのどんなところに不満を持っているのか理解しあってリスタート。
 
 そのはずなのに大学を卒業して社会人になった彼と転職して時間に余裕ができた俺は噛み合わない。
 
 飲み会の誘いを断って帰ってくる彼に有難いと思えない。
 疲れているのに夕飯の用意をする彼が優しいと思えない。
 俺が料理をうまく作れずにスーパーの惣菜で濁していることを指摘しないことが怖い。
 
 今まで手厳しく責めてきたのが嘘のように俺の不手際を指摘しない。
 どちらかといえばキレやすい心の狭い彼が日に日に優しくなっていくのが恐ろしい。
 仕事に割く時間が減ったせいで無駄なことを考えてしまうのかもしれない。
 
 そして、初めてとも言えるケンカ。
 
 三度目のぶつかりあいだけは対等なケンカだった。
 彼は自分のどこがダメなのかと叫び、俺は支離滅裂で理不尽なことをまくし立てて部屋から出た。
 同棲している場所には帰らないと決めていた。
 自分の稼ぎが減っていて将来の不安もある。年齢的にこれから先どうするのか恐怖しかない。
 
 誰も愛するべきじゃなかった。
 流されたなんて言い訳で人恋しさから年下の彼を自分がたぶらかしたのだ。
 彼の両親や第三者から言われても否定できない。
 純粋なボランティア精神などないと言われたらその通りだ。
 人に感謝されたかった。
 人に喜んでもらいたかった。
 自分のために人の世話を焼いていた。
 
 彼の気持ちに流されたのも最初は必要とされて嬉しかったからだ。
 男として見れない、見る気はないと思いながらもいつの間にか自分の唯一無二の恋人だと思うようになった。
 それが間違いだと感じるのは彼が年下で見た目も能力もハイスペックだからだ。
 俺にこだわる必要などない人間だからだ。
 
 彼を認めれば認めるほど彼の世界に俺は不要だと感じてしまう。
 
 そんな俺の気持ちを救ってくれたのが浮気相手だ。
 正確には俺の交際相手である彼だ。
 
 もう彼の下には戻らないという気持ちで家を出た俺を追ってきたのは子供だった。
 俺の腰までもない子供はサイズの合っていない服を着て俺の名前を叫んで泣いた。
 放っておくことも出来なくて思わず泣きやませるために近づけば捕まった。
 嘘泣きだったらしい子供に引っ張られて着いた先は俺と彼の家。
 彼の仕込みかと思えば部屋の中に彼は居ない。
 不思議なことに子供が彼の名前を名乗った。
 意味が分からなかったが、子供を放置などできるわけもないので昔取った杵柄であやすことにした。
 
 無邪気に俺に懐いてくれる子供に癒されるし、ささくれ立った神経が休まっていく。
 彼に感情のままに酷いことを言ったと反省していると子供は背伸びをして「ゆるしてやる」と偉そうに言った。
 まるで彼のような態度に笑ってしまう。
 
 翌日に子供は居なくなっていた。
 そして彼は不自然に優しい態度をやめた。
 俺が喜ばないことは意味がないとすねたように言う。
 
 おだやかな日々が続きそうなところだが、ケンカは減らない。
 社会人である彼が疲れていると知りながら俺がどうしても優しくなれないからだ。
 自分が忙しい時期に彼が優しくなかったという記憶に縛られてしまう。
 大人げないとわかっていても昔のことを持ちだして嫌味やあてこすりをする。
 面倒くさくて人間として嫌な部分が出ている。
 物わかりのいい年上の顔が出来ない。
 
 そのため俺は彼の名前を名乗る子供ではなく、子供の姿になった彼を甘やかす。
 
 最初に子供になって以降、俺とケンカすると彼は子供になる。
 目の前で姿が変わったこともあるのでそういう体質なのだと受け取るしかない。
 小学生の彼は強がっていても甘えたい時期なのか口で何を言っても俺から離れたがらない。
 初めて会った中学のころよりも若干素直な彼は抱きしめたり頭をなでると照れながらも喜んでくれる。
 外出すると仲のいい親子に見えるのか微笑ましい目を向けられる。
 子供の面倒を見るのは苦ではないし、幼いとはいえ恋人が全面的に頼ってくれるのが嬉しい。
 歪んでいるのかもしれない。
 
 社会人として忙しく働いている現在の恋人に優しくできず、無遠慮で理不尽な子供は甘やかせる。
 
 元恋人に唐突に切り出された別れが思った以上にトラウマになって俺を縛っているのかもしれない。
 大人の男に対する恐怖心だ。
 自分を捨てるのだと怯えが捨てきれない。
 これは彼の口から否定されても無理だ。
 元恋人も何度も俺を好きだと言った。ずっと一緒だと口にしていた。
 それなのに急に終わりが来た。
 
 言い訳も説明も何もなく俺たちの関係はゼロになった。
 俺に悪いところがあったとか、不満を持たれていたのなら仕方がない。
 けれど、そうじゃない。
 あえて言えば俺が女性じゃなかったから、それが別れの理由。そうとしか思えない。
 人は正しいものに弱い。どんな理由でも後ろ指を指されるのはいやなものだ。
 成人済みの男同士が手を握り合っていたら違和感を覚える人がいる。
 直接なにかを言われなくても勝手に脳内で嫌なセリフをつけてしまう。
 
 子供と手をつないでいても視線は気にならないのに彼と居ると視線が気になる。
 自分を追い込んで一人で不幸になる。被害妄想だと自覚しても誰かの視線は怖い。
 元恋人が隣を人が通る瞬間に自然にスッと離れたことが何度もある。
 普通の女性と婚約すると言われなくても想像はできたはずだ。
 自分を選んでくれる人ではないとわかっていたのに期待して裏切られて次の恋も上手くいかない。
 
 
 大人の世界の悩みみたいなものを子供の彼にぶつけることはない。
 子供はそんなもの知らなくていい。
 毎日をただ楽しめばいい。
 そう思って甘やかし続ける。
 
 食べたいと言われたら下手なりに調べていろんな料理をした。
 はじめての料理でも教えてあげるという立場で一緒に作る。
 作っている最中は社会のしがらみなど思い浮かぶことはない。
 失敗も楽しくて永遠に続けばいいと感じる時間だった。
 
 本当は現在の姿の彼とやりたいことかもしれない。
 けれど、年上としての立場や社会生活なんかを考えると弱音も開き直ることもできない。
 
 子供の彼と一緒にいると彼に合わせようとして自分の精神年齢も下げても許される気がする。
 童心に帰るのは楽しい。無理に大人の顔をする必要はない。
 子供がそばにいるときは大人げない大人でいてもいい。
 大人だって疲れるのだと弱音も吐ける。
 何もできない子供だと思っているから口は軽くなる。
 本当に何かを変える時は子供には言わない。誰にも言えない。
 そういうものだ。
 
 
 彼であって彼でない子供と居る時間が増えてしまった俺はまたちょっとずつ間違える。
 いくら彼は彼だと言っても子供は子供だ。
 やましい気持ちなどなかったはずなのに気持ちは徐々に変化していた。
 幼児返りしたように子供の彼が俺の胸に興味を示した。
 母乳も何も出ないが、ぐずられると乳首を吸うのを許してしまう。
 わがままを言う姿がかわいいと思ってしまう自分がいた。
 成人過ぎた社会人が乳首を吸いたいと駄々をこねたらうんざりするかもしれないが、小学生なら呆れながらもOKを出す。
 
 絵面が犯罪的なので自分でもまずいと思うが根底にあるのは彼に対する愛だ。
 好きだからこそ何でもしてあげたいという気持ち。
 けっして、幼い子が好きというわけじゃない。
 
 
 
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ショタ攻めについて考えるときに倫理観とか社会常識にガチガチに縛られた不自由な大人受けを想像します。
攻めが大人になると受けは年を取るというか老いを感じたりして卑屈になったり、しがらみや世間からの風当たりを想像して気分を下げる。

大人同士の恋愛は別れを連想しすぎて受けは疲れる。
子供な攻めに引っ張られる恋愛ごっこみたいなものなら気楽という酷い話。

攻めのデレが伝わらないツンデレな中学時代、
自分を見てもらいたくて背伸びするも不発な高校時代(結局力技で襲う)
恋人同士になって両思いなのに相手の気持ちが見えない大学時代
仕事の大変さと社会の窮屈さを知って優しくしたい気持ちな社会人時代

それぞれちゃんと書きたい。
長くなるので受けの気持ちダイジェストでお送りしましたが、
成長というか、やきもきというか、わがままと虚勢と背伸びと強がりとか、
大人になって支えてあげたいとか頼れる人間になりたいと思ってたのに大失敗とかな攻め。

攻めの不毛な頑張りと受けの無駄すぎる遠慮のどうしようもない両片思い感。
私が定期的に書きたくなる読んでいる人が面白くないだろうネタ。

早く大人になりたくて一人前になれるように生き急ぐ攻め(年下)と
攻めに無害な子供のままで居てほしいと願うある意味酷い受けという
お互いの望みが相手の願いを否定している構図は皮肉げでいいですね。

こういうテイストが自分も好きだというかたは拍手などで、そっと教えてください。
好きだと感じる方がいなくても書きたくなって書いてしまいますが、
好きだと思ってくださる方がいるならそれが一番です。

ちゃんと順を追った形で二人の紆余曲折を書きたくなったりもします。


2017/06/08
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