ぼくは一から十までぜんぶ彼で構成されている
ヤンデレ系のおやくそく(?)がダメな方はお読みになられない方がいいです。
気がついた時にはすべてが手遅れでぼくの足首には枷がハマっていた。
身体中が彼に支配されていると知って逃げられないことをぼくは悟ったのだ。
ぼくとの彼との話をするのはまずお互いの出自について触れなければならない。
彼は優秀な弁護士の息子だった。
ぼくの父の何度となく世話になっている弁護士の先生。
父は家の中に不穏分子を持ち込みたくなかったようで使用人も含めて知り合いで身元のしっかりとした人間しか雇わない。
中高と彼はぼくの面倒をみるために長期休暇を使ってくれた。
勉強面というよりは礼儀作法や常識をぼくは彼から学んでいた。
彼は子供の興味の引き方を心得ていてぼくはいつだって彼に夢中だったのだ。
同時に三歳離れた姉と五歳離れた妹もまた彼の虜になっていた。
すこしおかしいと感じたのは大学生になる彼がぼくと一緒に暮らすことになったあたりだろう。
姉と妹は専属の使用人がいたけれどぼくには昔からそういった相手がいなかった。
あえて言えば彼がぼくに対して使用人であるかのように振る舞うけれど、彼はあくまでも弁護士の息子さんであってぼくの家からすれば客人だ。
使用人というのを低く見ているわけではなく生活のサポートをしてくれる相手としてぼくたちはいつも家族として接している。
とはいえ、お給料を払っているので仕事ができていなければ当然クビだ。
父のそういった価値観を理解しているものしかぼくの家では働けない。
時間や倫理観などにルーズな人間は父にとってそばにいるどころか視界に入ってほしくない相手なのだ。
そういった観点でいうと父親である弁護士先生から言い含められていたのか彼の物腰やしぐさや発言は完璧だった。
父の信頼は厚く、彼の提案がどんなものであれ飲むと思えるほどだ。
最初はすこし難色を示されたぼくの彼との共同生活もいつの間にか本決まりして大学生の彼と中学入学前のぼくは一緒に暮らすことになった。
親元を離れて自立した生活を中学から味わうことによって精神的に成長させるとかなんとかいう話だったが、ぼくの暮らしは以前とあまり変わりがない。
たしかに家では焼いたパンが出てきたり頼めばお米を味のりを添えて出してくれるけれど彼との暮らしにそういうことはない。
彼の中で朝はウインナーを二本とゆでたまごとサラダだと決まっているらしい。
そして、眠気覚ましに濃いめに入れたコーヒーを飲む。
ぼくにはウインナーとゆでたまごとヨーグルトでミルクたっぷりのコーヒーをくれる。
数日でぼくは定番朝ごはんに不満を思った。子供である自分を恥じるより先に家に帰りたいと思った。
結果、彼は数日おきに朝にあんドーナッツや大福をつけてくれるようになった。
お正月でもないのに寒い朝にはおしるこが出てくる。
ぼくはすっかり文句を引っ込めて彼の言いなりだった。
ぼくの送り迎えは彼の仕事でそれは高校になってからも変わらない。
勉強を見てくれるのも彼。
彼自身が司法試験の勉強などあって多忙にもかかわらずぼくは不自由をした覚えがない。
高校でぼくも年頃になったので彼女というものができた。
ふたつ上の先輩だ。
姉に近いどこか夢見がちな言動が気になる人だったけれどぼくは友達から勧められるままに彼女と付き合った。
交際三カ月目で彼女から妊娠を告げられた。
責任をとるべきかもしれないが女性は手を握り合っただけで孕むものだろうか。
ぼくの知識からは女性の膣に勃起した男性器を挿入した上で射精しなければならないはずだが、彼女はぼくの子供を妊娠したという。
キスすらしていないのにぼくの子供が彼女の中にあるわけがないと伝えても彼女は理解しない。
弱り切ったぼくは彼に仲介を頼んだ。
弁護士のたまごのような彼が力になってくれるに決まっていると思ったのだ。
彼女の妄想を論理的に打ち破ってくれることを期待したがお腹の中にはぼくの子供が本当にいた。
誓っていうけれどぼくは彼女の膣に侵入を果たしていない。
前後不覚になるような状況で彼女と会ったこともなければ手を握る以外の接触をしていない。
彼女は無事に出産して子供の遺伝子を鑑定するとぼくが親だと証明された。
ここまできて知らぬ存ぜぬはできないのでぼくは学生の身で子持ちになった。
父はぼくの主張を信じたがクスリを盛られて無理やりに関係させられたのだろうと考えた。
ぼくを責めることなくぼくの子供を彼女からとりあげて育てることになった。
彼女は父から示談金をもらうとぼくのことも子供のことも忘れたかのように去って行った。
産婦人科に通うところを見られた彼女は学内で妊娠したという噂を流されていたので元々暮らしていた地域には居づらかったのだろう。
学校の中ではぼくが彼女に浮気をされて捨てられたということになっていた。
ぼくが彼女を孕ませたとは誰も思っていないらしい。
友人たちがうわさを操作したのだろうか。
このことから彼に男も女も危険だから近づかないようにと警告される。
ぼくは父ほどではないにしても警戒心は必要だと思ったので彼の注意を聞きいれた。
そして、ぼくの高校卒業が目前で彼の姉との結婚式の話が出てきた。
すでにふたりは籍は入れていて姉のお腹の中には彼の子供がいるという。
ぼくの覚えのない子供は彼と姉の第一子として育てられ今、姉のお腹の中の子は第二子だという。
彼は弁護士のたまごとしてすでに弁護士事務所で働いている身だったので子育ては姉と妹がしていくらしい。
妹も彼のことが好きだと思っていたがどうやら諦めたようだ。
そう、ぼくはそう思っていた。すくなくとも彼の結婚式が終わって家に帰ってくるまでは彼は姉を選んだのだと思った。
妹と同じようにぼくは振られた。
まったく実感の湧かないぼくの子供でもどこかで彼が傷ついたり慌ててくれるかと期待して間に入ってくれるように頼んだのだ。
昔からずっとぼくには彼だけだった。
友達同士でも触れない場所を彼は毎日丁寧に触れてくる。
彼はぼくのおちんちんを弄くりまわして起こす。おちんちんをぺろぺろと舐めまわすことが朝の挨拶だと教えられた。
彼の吐き出す精液を口の中でコーヒーと混ぜ合わせて飲んでいく。
ヨーグルト自体に彼が事前に混ぜていることもある。
精液の味がしないコーヒーやヨーグルトの味がぼくはもう思い出せない。
口直しのあんドーナッツが以前にも増しておいしく感じられる気がするし彼の言うとおりに目が覚めるので朝の儀式はきっと必要だろう。
ぼくが問題だと感じるのはおちんちんだけではなく乳首を朝からいじられるとワイシャツの上からでもぷっくりと浮き上がるのが見えてしまうことだ。
シャツが別段うすいということはないけれどアンダーを身につけても乳首が存在を主張するのは困りもの。
彼に再三苦情を言うものの与えられたのは乳首を締め付けるちょっとした器具だ。
どうやら乳首が左右で勃ったり勃たなかったりすることが僕の悩みだと勘違いしたらしい。
彼はときどきそういったうっかりをやらかす。
ぼくは乳首を目立たせないために夏でもベストを着ている暑苦しいやつになった。
季節によっては暑くて蒸れた乳首がかゆくてたまらなくなって学校のトイレで乳首をいじくりまわして身もだえる。
自分でいじってもイクほどじゃないのは本当に困る。
彼の指先が舌を思い出して興奮するのに自分で触れても頭の中で足りないという言葉ばかりが繰り返される。
ぼくほど身体中で彼を必要としている人間はいないだろうと思うが彼は姉の夫だ。ぼくの気持ちは不毛としか言えないので推薦の決まった大学のことも忘れて彼と暮らすマンションから出ようと思った。
それが正しい姿だ。忙しい彼は姉の待つ家に帰る時間を極力作るべきだ。ぼくのそばにいる時間が少なかったとしてもそれが正しい姿だ。
おめでたい姉の結婚式の日にもかかわらずぼくは生まれて初めて知る損失感でいっぱいになったが現実はぼくの思った方向には進まなかった。
彼とはこれで終わりだと荷物を詰めて部屋を出ていこうとするぼくを彼は引き留める。
初夜に夫婦が別々でいる理由が分からず首をかしげていると彼はぼくに白いドレスを着せてキスをした。
姉が着ていた花嫁衣装とそっくりだがぼくの体格に合ったものになっていた。
彼はぼくにひとつの写真を見せた。
ぼくと似たような格好の妹が彼に抱かれている写真だ。
彼は撮影したのは姉だという。
ぼくとの関係が今日でやっと他人ではなく家族になったと彼は喜びながらも狂った話をした。
彼は姉も妹も孕ませて彼の子供を産ませるらしい。
それは彼女たちの頼みだという。
好きない相手の子供は欲しいものだろうとぼくは思っていたけれど彼は首を横に振る。
姉も妹も優秀な男の遺伝子が欲しかっただけで彼を好きではないという。
本当のところはわからない。ぼくは姉と妹から真実を聞く勇気がない。
彼が生涯好きなのはぼくだけだし、ぼくが好きなのも唯一彼だけだと彼は言う。
ぼくの気持ちはぼくではなく彼が決めることなのだ。
間違っているという言葉が出てこない。
彼ほどぼくの考えが分かる人はいなかったし、彼の考えによってそもそもぼくが作られた気がする。
ぼくは一から十までぜんぶ彼で構成されている。
彼のまなざし一つで発情を抑えきれないぼくがひとりで生きていけるわけもない。
快楽という足枷は家族を人質にとられるよりもぼくに通じてしまう。
ずっとぼくを見ていたそばにいた彼だからわかることなんだろう。
彼を怖いと思っても、間違ってると思っても、ぼくはもう彼によって教え込まれた快感を忘れられない。
逃げることもなくウエディングドレスを着て彼に触れられることを待っている欲望の権化。
もったいぶったようにスカートをたくしあげてぼくの足をなでる彼は変態でしかない。
昔からずっとぼくの身体中をなでまわしなめまししていた彼に嫌悪感はない。
身体が気持ちのよさを想像して期待に震える。
初夜を楽しもうと口にする彼に罪悪感も不安もなく、これから先の気持ちがいい時間への期待しかなかった。