吸血鬼だって恋がしたい!?

プロローグっぽい?




「いつもそれ飲んでるね」
 
 トマトジュースを指さされてオレは「はい、吸血鬼なんで赤い液体好きなんです。本当は血がいいんですけどね〜」と笑って答える。半分は本当。
 
「カメラ回ってなくてもキャラ続けるんだ」
「キャラとかじゃないです。これが素です」
「大変だねえ。性別未公開だけど、キミって男の子だよね」
 
 随分とぐいぐい来る人もいるものだ。
 事務所の力関係なんかの人間のことはよくわからない。
 苦笑いを顔に張り付けていると「アールっ。こっち来て! はやくっ」とダブリューに呼ばれた。
 話しかけてきた相手に頭を下げてダブリューの元へ向かう。ちいさく「またね」と聞こえた気がする。
 
 
 
 オレたちは「ガーデン」という性別非公開のアイドルユニットだ。
 メンバーはアール、ダブリュー、ローの三人。
 設定は吸血鬼であり性別非公開なので女に見えるような格好も男にしか見えない格好もする。
 今日のようにテレビに出るときはどちらともつかないユニセックスな服装だが綺麗な男の子として見られている。
 
 本当のところの性別はどうなのかと言うと判断が難しい。
 吸血鬼であるオレたちは両性であると同時に無性でもある。
 子どもを作れるのが女だと言うのなら女かもしれないし、女を抱きたいと思っているから男なのだと言われたら男かもしれない。
 力のすべてを使えば肉体を完全に女性のものとして乳房を発達させ尻の肉づきをよくさせる、そういったことは可能だ。
 ただそれを戻すだけの技能はない。
 オレたちは生まれて間もなく生き埋めにされて、つい数年前まで半死半生だった。
 
 吸血鬼はいろいろな発生方法があるが一番多いのは純粋な吸血鬼による下位の生物の吸血鬼化。
 あとは呪いによる人間の吸血鬼化。
 大昔には吸血鬼は吸血鬼として自然発生し、ときに繁殖を行い数を増やしていた。
 人間との折り合いが悪かったのか争いが起こり吸血鬼はその数を大幅に減らした。
 今では吸血鬼同士の子どもなど百年に一度生まれればいいほうで基本的に人間との間に吸血鬼としての能力を持たない子どもを作るだけだ。
 創作物ではダンピールと呼ばれ吸血鬼の力を持ちながら人間であるので弱点がないとされているが実際はニク。吸血鬼に母性本能はなく自分の携帯用の緊急食料だ。人間とは違い吸血鬼の子どもは老いは緩やかで丈夫。育ち方によっては親である吸血鬼と恋人関係になることすらある。
 
 吸血鬼に人間的なタブーはない。
 吸血鬼たちの中のルールと言えるものはただ一つ。
 自分よりも強い存在に楯突かない。たぶん、これだけ。
 
 人間を好き勝手食い散らかしていた時代があったのは吸血鬼たちにとって人間たちが弱者だったからだ。
 吸血鬼たちは自分たちよりも下位の存在に容赦がない。
 野生動物は食べる分だけ狩りをするなんて言われるが吸血鬼は獲物をいたぶって泣き叫ぶさまに快楽を得るので人間視点において残酷な宴を好んでいた。
 
 オレたちガーデンの三人は人間目線において残酷非道な吸血鬼の統治下で吸血鬼に対抗するための手段として作られた吸血鬼だ。
 死した胎児に呪いを詰めて吸血鬼から盗んだ血と吸血鬼の眷属になった人間の精子を混ぜた泥を塗りたくり新しい命として魂を吹き込んだ。
 当時流行っていた降霊術の亜種なのかもしれないがオレたち三人は成功した。
 
 生きていることに気づかなかったのか生きているからこそ怖くなったのかはともかくオレたちは地中に埋められた。
 そして、掘り起こされるまで赤子のまま数年か数百年のときを土の中で過ごした。
 恐怖がなかったといえば嘘になる。
 他に生きている存在が感じられたので何も怖くはなかった。
 土の中で意思の疎通はとれなかったがお互いを感じていた。
 
 セミよりも土に潜っていたオレたちはとある純血の吸血鬼に掘り起こされそのまま育てられた。
 彼は知る限りのオレたちの発生原因を教えてくれた。それは生まれたばかりのオレたちの聞いていた会話やオレたちの中に埋め込まれている呪いから間違いない事実だと思った。
 
 人間の女を見れば犯して孕ませ、人間の男を見れば誘惑して抱いたり抱かれる、そういう淫蕩な吸血鬼の巣穴にとある村はなっていた。吸血鬼の考えか周りの思惑なのか勢力が拡大していき反吸血鬼組織に見つかり吸血鬼たちは根絶やしにされた。
 オレたちは吸血鬼たちが滅ぼされる前に吸血鬼に恨みを持つ人間たちが作り上げた呪いの結晶だ。
 吸血鬼よりも強く賢く人間の味方であることを強制されている。
 吸血鬼への恨みつらみもまた本能的に刷り込まれている。
 
 だが、オレたちは作り上げられながら人間に生き埋めにされたことを覚えているし、吸血鬼により掘り起こされて保護されたこともわかっている。
 本能が吸血鬼を嫌悪していても理性がそれを否定する。
 自分自身もまた吸血鬼なのだから吸血鬼を不快に思いたくない。
 そして、同時にオレたちはオレたちを作りながらに捨てた人間という種に対して良い気持ちなど思っていない。
 オレたちを作り埋めた人間たちがもうどこにも居ないのだとしても感情は上手く制御できない。
 
 複雑な感情を持て余していたオレたちは掘り起こしてくれた彼の勧めでガーデンというアイドルをすることになった。
 人間と距離を取ったままじゃよくない。けれど、人間に普通に馴染むこともできない。
 そんなオレたちは遠巻きにされながら人々に愛されるのがいいという。
 恨みを持って死んだ人間を神様として祀るという風習は日本ではありふれているという。
 オレたちが振り回される出生の要因である恨みつらみ復讐心。そういうものはファンから受け取る愛と信仰で軽減していくらしい。
 今はまだわからない。本当のオレたちをオレたち自身が知らない。
 
 
「アールだいじょうぶ?」
 
 ダブリューがオレを横目で見た。
 台本を見ながら段取りをスタッフと話す。
 いつもは全部ダブリューがスタッフと決めてしまってオレやローは関係ない。
 
「なにか、絡まれてたでしょ」
「吸血鬼が珍しいんじゃねえの」
「……まあいいけどさぁ」
 
 腑に落ちないと顔を書いているがダブリューはそれ以上は何も言わなかった。
 新曲の宣伝にバラエティ番組に出て軽く歌う。
 それ自体は慣れたものだ。
 最初は扱いに困っていたようだったが今ではちょっとした芸人みたいな弄られ方をする。
 テレビに出てファンが加速度的に増えた。
 同時に「吸血鬼なら日中に動き回るな」とか「キャラ崩壊」なんて言われたりもするようになった。
 
 このごろ、なにやってるんだろうと思うことが増えた。
 
 最初は有名になって周りに認められてそれが楽しかった。
 オレたちを掘り起こした彼に褒められるのが幸せだった。
 けれど、彼とは先月から顔を合わせる時間が取れない。
 
「恋の訪れか、親離れできないだけか」

 オレの悩みを嗅ぎ取ったようにダブリューがぽつりとこぼす。
 好きとか嫌いとかよくわからない。
 生まれる前からそういったこととオレは無縁だ。
 
「ローを見習っていっぱい火遊びしてもいいよ?」
「あほか。ローを見習ったら火遊びどころか大火事だ」
「あの人を好きになるよりいいんじゃない」
 
 ダブリューの言葉にオレは奥歯を噛みしめた。
 オレたちを掘り起こした彼を好きになったとしても報われない。
 片思いになるだけだ。
 
 ローはこの業界に入ってすぐにいろんな人間と関係を持った。
 暗くてさみしい人間の感情に触れるのが好きだから誘って誘われ毎日誰かと関係を持っている。
 不思議とローの周りは愛にあふれて嫉妬心とは無縁だがローと顔を合わせたいがために番組にレギュラー出演しないかとオファーがきたりCMが決まったりしている。俗にいう枕営業に見えるのだがオレたちは仕事やお金が欲しいわけじゃない。断ることだって出来た。受けたのはローがやりたいと言うからだし、彼らもまた仕事を融通してあげているというのではなくローと繋がりを持ちたいという気持ちからの行動。
 
 魔性を開花させて吸血鬼らしく人間を手のひらの上で遊ばせているローは何を考えているのかわからない。
 最近は普通顔のマネージャーと関係をギクシャクしたものに変えているがそれ以外は何も変わらない。
 
「アールなら男でも女でも選び放題なんだから前向きに行こう。あぁ、アールの初めての合コンなんて企画組んでもらう?」
「数字とれねえだろ」
「視聴率なんて僕たちはどうでもいいじゃない」
「頑張って番組作ってる人たちがいるところで最低だぞ」
「アールは変なところで真面目ぇ」
 
 クスクスと愛らしい少女のように笑うダブリュー。
 周りが手を止めてすこしこちらを注視しているのがわかる。
 吸血鬼の生まれ持った能力のひとつとして「刷り込みの美」というものがある。
 見た目で美しい美しくないと判断する前に吸血鬼を見たら脳が美しいと感じるように人間に信号を出している。
 それは匂いだったり音だったり頭の中に直接ぶつけていたりと吸血鬼によって様々ではあるが吸血鬼の大部分に生まれつき備わった能力だ。
 どれだけ残酷でも美しい相手に従ってしまう人間は多い。
 反感を買うよりも愛情を向けられる。
 
「巨乳グラドルとのドキドキお泊り? イケメン俳優との人生相談? ローに相談したら今が旬の人とかも揃えられるだろうね」
「いらん」
「恋をしたら何かが変わるかもよ。ローはいろいろと変わってきたじゃない」
「ローはどこに行く気なんだ。全員自分のしもべにするつもり?」
「そうじゃないよ。ローは博愛であと大食漢」
「血を吸ってるのか? いや、その代りの、か」
 
 ダブリューにたずねながら口に出してから納得する。
 お腹が空いているから精力的にあっちこっちに手を出している。
 
「それと多分だけど子供が欲しいんじゃないかな。女になりたいわけじゃないだろうけど自分が何かを作り上げることが出来るって知りたがってる」
「産むのか産ませるのか? どっちにしてもローの性格で子育ては……」
「育てるなら僕ら三人で、じゃない?」
 
 この時はまだ知らなかった。
 恐ろしい未来が待ち受けているなんて考えもしない。
 
 ローがすでにマネージャーとの子どもを作っていて悩んでいたこともダブリューが人間嫌いを克服できず二人の仲を許せずにマネージャーを殺してしまうことも。
 アンデッドにして生きながらえさせたマネージャーが記憶を失いローに酷いことをすることもそれを見てダブリューの人間嫌いが進んで大量虐殺へのカウントダウンがはじまることも、オレは何も知らなかった。
 
 ただ撮影現場が同じになるたびに話しかけてくる相手がなんとなく気になって誰に相談すればいいのか、なんて考えていただけだ。
 
 
 

※続きはラブコメの横で泥沼修羅場が発生みたいな。
俳優兼歌手みたいな相手といい感じになるアール。
スキャンダルになるから逆に同棲企画みたいなものをスタートしてお茶の間にラブラブぶりをお届け。
(ガーデンの性別が公開されていないのでいろんな意味で注目されたりする)

ちなみにガーデンの三人はチューリップなのであの名前。
咲いた咲いた言いながら掘り起こされたんでしょう。


マネージャーとローについては、

マネ「枕営業なんかやめてください。必要ないです」
ロー「俺様に指図すんな。クズっ」
マネ「二人に手を出すって脅されたんですか?」
ロー「ちげーよ。俺様がヤりたいからヤった。それだけだ」
マネ「そんなにエロいことしてぇのかよ、淫乱」
ロー「誰に向かってそんな口きいて……」

からのレイプ告白みたいなよくあるノリ。

ローは俺様に見せかけた良い子。
家庭環境が上手くいっていないとか独身で精神病んでいる人の相手して信者大量に作ったり。
典型的なカメラの前で偉そうで楽屋で礼儀正しいタイプ。
共演するとガーデンの誰が好きってなるとロー。
一般ではダブリューが一番人気。
濃いファンはダントツでアール。

ロー:人間でも誰でも俺様が幸せにしてやる。 
ダブリュー:人間みんな死ね。人間以外はみんな幸せになれ。
アール:人間とか吸血鬼とか幸せとか以前にこれから先どうなるのか不安。

そんな彼ら。
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