誰が悪いのか分かりにくいが俺の性格が悪いのは確か
※タイトルままなので少し注意。
あの人と知り合った正確な日付は覚えていないが切っ掛けは今でも昨日のことのように思い出せる。
ただ俺は上の空で歩いていて誰かにぶつかり体が倒れて花瓶をひっくり返した。
そんな人通りの多い場所ではないが音がしたしパーティー会場だったので言いたいことをグッと我慢して謝った。
謝罪の言葉を口にして目に涙をためながら俺は自分は悪くないと信じていた。
俺にぶつかってきた人間が悪い。
花瓶や花の価値よりも俺は俺にぶつかってきて花瓶が倒れることになった原因の奴が何も言ってこないことに苛立っていた。
中学になるかならないかの時期の俺はまだまだ感情のコントロールが取れていないない子供だった。
パーティの主催なのかただの参加者なのか優しげな男性がうつむく俺に視線を合わせて「災難だったね。こういう日もあるよ」と言って片付けてくれた。そんなことはさせられないと周りが騒ぎだすまでに彼は割れた花瓶を一か所にまとめ生けられた花を両手で持った。
俺を責めるわけではない言葉にどうしてか罪悪感が刺激された。彼の手の中にある花が行き場をなくしているように見えたからだろうか。
彼は花を持って「今日の記念にどうかな?」と配り歩いた。
みんな髪や胸ポケットに花を飾った。
花粉がない品種だからか彼から渡されたからなのかはわからない。
なんのパーティーだったのか俺の記憶はなかった。
ただ、俺が花瓶を倒したから彼から花がもらえたのだと花をもらったパーティーの参加者はみんな喜んで帰り際に俺に礼を言う人すらいた。
もらえない人間が不満を口にする前にどこからか来た男が彼に追加の花を渡していた。思い出しても不思議な光景だ。
微笑んで彼は「今日が嫌な日だったと感じたなら明日はきっと今日よりも良い日に思えるよ」と俺の背中を撫でてくれた。今でも覚えている。初めて出会う子供に優しくしてくれた彼に俺はきっと一目ぼれをしていた。だから、彼が俺をかばってくれたことが嬉しかったのに口先だけの謝罪で終わらせようとしていた自分が恥ずかしくて情けなかった。
心から悪かったなんて俺は思っていなかったのだ。彼に優しくされるような存在じゃない。恋心は自覚した瞬間に消滅した。好きだと思うことすら冒涜に感じたのだ。
綺麗な相手には近づいちゃいけない。
俺の中でいつの間にか出来てしまったバカみたいなルール。
それに苦しめられたりしないあたり、俺の性格はたぶん悪い。
高校で荒れていた俺は体を鍛えるついでのようにケンカをしていた。
その中でとあるチームに入っていつの間にか副総長と呼ばれるようになった。
ある日、俺のチームとも言えるまでに馴染んだ場所を潰そうとやってきたやつらがいた。
新しいチームは人数は少ないが行動が過激だった。
少数精鋭と言うには武器を使うことに容赦のないイカレた子供という印象。
多大な犠牲を出しながら吸収合併のような形で俺のチームは消えた。
年下が総長として上に立つことを嫌った元々の総長はさっさと夜の街から去っていき、とにかく暴れたい奴や強い人間こそが正義だと信じ込んでいるバカは新しい総長の下で楽しんだ。
俺は自分の遊び場をすぐに手放すことができずにどう行動するか決めかねた。
結果、なぜか年下のオンナ扱いを受ける。
年下には全く見えない男前な美形だったが人生経験はなかった。
人と付き合うとか人を好きになるというのが初めてだったのだろう、年下の彼は付き合って二週間で浮気をした。
浮気というよりも年上の後腐れのない女性に手解きをしてもらった気分なのかもしれない。
男心がわからなくもないので俺はそれを見ないふりをした。
その二週間後、年下の彼はチームの男を抱いた。
かわいらしい少年をほぼ強姦のような形で犯したらしい。
これは問題だと思って俺は年下の彼と別れた。
かわいらしい少年と付き合うことを勧めた。責任は取るべきだと思った。
三か月ほどはかわいらしい少年と上手くいっていた彼は急にキレて俺を犯した。
若者のキレるスイッチの在り処が分からないと思ったが、彼は俺を無理やり犯したから責任を取らないといけないとまた恋人に復帰した。俺はどうやら二股をかけられた状態らしい。
意味が分からないといろんなことを見ないふりをして俺は変な関係を続けた。
年下の彼は総長という役職に対して積極的じゃなかった。
面倒だが周りが自分を上に添えるので仕方なく、そんなことを思っているタイプだ。
俺も同じようなところがあるのでわかる。ただ俺は自分の性格が悪いことは自覚しているが彼は年下だからか無自覚だった。
俺とかわいらしい少年以外にもたくさんの人間と肌を合わせる性に対して奔放らしい彼。
性格の悪さを意識していない人間の言動は無神経なんだと俺は短い時間で嫌というほど知ることになる。
本格的に嫌になったというよりもタイミングが合ったので浮気性とも言える相手に高校を卒業すると同時に別れを告げた。大学は日本ではなく海外にした。彼から逃げるためというよりは次のステップに進むために必要だったからだ。
そしていま、俺は帰国後にある学園で英語教師として働いている。
非常勤講師という扱いだが家の力なのか待遇は悪くない。
元卒業生で学園の空気に慣れているからかもしれない。
以前、付き合っていた年下の彼は学園の生徒会長を務めている。
俺が英語の非常勤講師として紹介されたときはクールな顔を崩して驚いていた。
おかしいったらない。
きっとあんな笑えることはもうないだろう。
相変わらず性に奔放らしい彼は毎日セフレを自分のベッドに連れ込んでいるという。
そこを茶化していじると人を殺せそうな視線を向けられた。
俺は性格が悪い。
彼が他人の肌を求めた理由が俺が自分を好きなのかどうかという根本的なところに疑問を抱いたからだと知っている。
愛されたがりの彼が何でも許して与えてくれる相手に手を出すことは簡単に想像がついた。
それなのに俺は放置した。泳がして観察していたのだ。彼がどうのた打ち回るのかが見たかった。
彼が憎いわけじゃない。
ただ俺はずっと怒っているのかもしれない。
初恋の相手であるあの人に出会った切っ掛けをくれたとはいえ俺は年下の彼に花瓶を倒す原因になったことを未だに謝られていない。
パーティーの会場を走っていた年下の彼が俺にぶつかったせいで花瓶は倒れた。
けれど、彼は振り返って状況を確認したにもかかわらず、逃げた。
年下の子供相手に大人げないのかもしれないが小学校の高学年と低学年の年の違いですべてを納得するほど俺は出来た人間じゃなかった。
顔を覚えていたので名前はすぐに特定できた。
中学に上がる前から不良もどきになっているという情報もつかんでいたので夜の街での再会はもちろん偶然ではなく必然だ。彼が俺を好きになることは想定外だったが付き合っても幸せになれずに苦しむのは想像していた通りだ。
きっと彼は俺が何を求めているのか分からないだろう。
生徒会長になって以前よりも更に磨きあがった容姿を俺を見てゆがめる彼。
それをかわいいと思う俺の性格は間違いなく悪いし俺を忘れられない彼は哀れだ。
俺だって彼を忘れていないんだからお互い様というものだろう。
彼がもう一度俺と付き合いたいと言ってきたらどんな対応をするのがいいだろうか。
浮気が許せない、信じられないと心にもないことを告げるか、好きな相手がいると嘘を伝えるか、あいまいに濁して期待を持たせておくか。
どれでも楽しい気がすると思うあたり、俺は彼を嫌いではないんだろう。
あの人のように人の善意を信じて元気づけてくれるような優しい人間に惹かれる一方で自分にはふさわしくないと俺は思っている。性格の悪い自分には生徒会長をしているような彼がお似合いなんじゃないのかと思ってしまう。
いつか俺の性格が悪いことを理解した上で許して愛してくれる神様みたいな人が現れるならそれが一番いい、なんて王子様を望むお姫様のような夢を見ることもある。現実には妥協がつきものなので生徒会長か他の誰か、性格の悪い男で手を打っておくのが平和だろう。
俺は誰も選ばずに一人でいるのは不向きな人間だ。
淋しがり屋というわけじゃないが周りに人が寄ってくる。
たぶん、性格の悪さを隠すような言動を意識しているせいで周囲が勘違いしているんだろう。
※ここから始まる教師総受け? 溺愛ヤンデレ尽くし攻めの固定カプが楽しいかもしれません。(いつものこと)