自殺志願者の会
※傍観者主人公
いろいろあって死ぬしかないと思った時に彼と出会った。
彼は死ぬ手前の人を集めているという。
まさしく僕だと思って笑えた。
笑うだけの力が残されていることに驚きながら僕は流されてその「自殺志願者の会」に足を踏み入れることになった。
自殺志願者だから僕のような生きていても仕方がない人間ばかりなのかと思ったら実際はかわいい女の子や男前なイケメンが多かった。ただ人付き合いに難があるのか周りに怯えていたり警戒しているようだった。
彼は僕にみんなのまとめ役になって欲しいと言った。
リーダーシップなんかない僕に出来るはずのない大役。
でも、美形たちが頼るような目で僕を見つめてくるのでやらないわけにはいかなかった。
そこで僕は「お父さん」または「お兄ちゃん」と呼ばれることになった。
大学生だった僕からするとお父さんはちょっと遠慮したかったし、年上からお兄ちゃんと呼ばれるのは違和感がある。
それでも、いつの間にか自然に感じるようになっていた。
僕はお父さんあるいはお兄ちゃんとして自殺志願者たち男女二十人ほどとちょっとしたビルで共同生活をはじめた。
最初は部屋に引きこもって出てこなかった。
自殺志願者だからこれからどうやって死ぬのか話すのかと思っていたら違っていた。
死ぬまでの間は勝手に死なないようにお互いを見張る、死ぬときじゃない時に死なないように身なりをきちんとする。後ろ向きなような正しいようなよく分からないルール。今のところ僕の知る人間は誰も死んでいない。
彼は最初の頃は毎日、そのうち週に数回程度。
数年経った今では数か月に一度になった。
ビルの中で暮らしている人間は増えたり減ったりしている。
戻ってこない人間も彼が言うには死んだわけではないらしい。
そして、彼が自殺志願者として連れてくる人間がいつの頃からか変化してきた。
十歳にも満たない子供たち。
子供が嫌いだと口にする元々の住人である自殺志願者たちも多かったのでまとめるのは大変だった。
けれど、自殺志願者というよりも普通の家庭で育てなかった子供、そんな気配があった。
身体中の怪我や栄養失調気味だったり、普通なら知っている常識がない、そんな難のある子供ばかり。
僕は考えて最初から住んでいた自殺志願者たちに彼が連れてきた子供たちを与えた。
子供たちは思い思いにお父さんやお兄ちゃんと彼らのことを呼んだ。
いつの間にかビルの中には女の子は居なくなっていた。
「……っ、あっ、……はっ、あっ」
声を上げないように気を付けているらしい少年はここに来て一年と半年ほど。
年齢は聞いていないけれど高校生ぐらいだと思う。
来た当初はカッターで手首を切ったり、窓から飛び降りようとしたりと久々の問題児だった。
それが半月ほど前にやってきた十歳前後の底の見えない子供のおかげで止まった。
死のうとはしないまでもぼうっとして何も考えていなさそうな顔でいることが多かった少年が子供の面倒を見ることで変わった。
年上が年下の面倒を見ることで変わるのはよくあることだが二人はすこし変化が速すぎる。
問題が起きないか気になったこともあって二人の会話を注意深く拾っていると元々知り合いだったことがわかる。
子供が少年に向けて「お兄ちゃん」と呼んでいるその呼び名も以前からのモノであるらしい。
ただ兄弟関係ではなくイトコであるようだ。
「……うぅ、こんな」
少年が涙を流しながら首を振る。
拘束されているわけではないが動けないでいる。
抵抗しようと思えば子供の身体など少年の腕一本で吹き飛ぶに決まっている。
それをしないなら拒絶の意思がないということだ。
場所が共同の洗濯機の前というある意味、僕のテリトリーでのことなので物陰から様子をうかがってしまう。
洗濯機は大型で音が少し大きい。
そのため防音の作りになっている部屋に洗濯機を置いている。
部屋の扉が閉まっていれば洗濯機の音は外に聞こえない。
洗濯機以外の音も外には聞こえない。
だからといってこんな場所で少年を裸にして子供のものとはいえ尻の穴に手を突っ込んでいる姿を見せられるとは考えていなかった。
「お兄ちゃん……どうしてこんなガバガバの恥知らずなアナになっちゃったの」
「……っ!! ぐっ」
「泣いてても分からない」
「すっ、すきでっ……好きでこんな体になったわけじゃっ」
「知ってるよ。友達だと思ってたやつらにハメられたんでしょ」
ハメられたというのは二重の意味なんだろうか。
陥れられて輪姦された。
男が男に犯されたともなれば自殺志願者にもなるのかもしれない。
志願者どころかすぐに死のうとしていた少年のやってきた当初のことを思い出す。
「……どこまで」
「全部知ってる。あいつら家宛に写真とか送ってきたから」
絶句する少年に子供は「だいじょうぶ」と笑う。
「おじさんたちが見る前にぼくが処理しておいたから。ぼくがあいつらとも話をつけておいたし」
「なんでそんな、危ないことをっ」
「お兄ちゃんのためにはぼくはなんでも出来るよ。危なくても、なんでも」
少年の中から手を抜いて子供は肩をすくめた。幼くない仕草はそれでも違和感がない。子供の雰囲気は少年よりも年上だった。
「お兄ちゃんが行方不明になって写真を見るまで何も知らなかった自分を殺してやりたい」
子供も子供で自殺志願者だったのだと今更気づく。
他の誰よりも分かりにくい死にたいという願望。
「何も気づかなかった自分、子供でしかない自分が許せない。せめてあと五歳でも十歳でも上だったらっ」
「――年齢は、関係ない。おれは……誰にも言えなかったよ。誰にも言わずに死のうと思ってた」
泣いている子供の頭を撫でながら少年は「置いていってごめん」と口にした。
口づけを交わしあって本格的にやり始めようとする二人に僕はこっそりと溜め息をつく。
依存や傷の舐めあいかもしれないが彼らはお互いがお互いに必要だと結論を出してここから去っていくだろう。
ここはあくまでも自殺志願者の会だ。
生きる意味を見出した人間は誰に言われるでもなく消えていく。
少年と子供がどうやって生きていくのかは興味がないが恋愛関係や主従関係になってここからいなくなる人間は多い。社会復帰できているのか場所を移して同じような生活を続けているのかは知らない。
時折、お父さんいつもお疲れ様とかお兄ちゃんお世話になりましたとかいう手紙が来るので死んではいないだろう。
近状報告はなくて僕に対してどう思っていたのかという気持ちが赤裸々に乗っている文面に苦笑する。
平凡地味顔に癒されましたってそれ、全然褒めてない。
※かわいい子、美形ばかり=良家の子だったりそれに繋がる人間だったり。分かる人は分かる(?)とある組織の副業です。
関連作品は今後もちょっと出していくかもしれませんが主人公については長くなるので伏せたままで……。(設定は決めているので機会があったら書くこともあるかもしれません)