触手なんて時代遅れなもの、僕はいらない

※全然かわいくない生意気ショタと触手のお話。

 パパが誕生日のプレゼントに触手を買ってきた。
 水なしクラゲの亜種として最近注目されているタイプの触手。
 短命なのが普通な触手。
 その中で大切にすれば人と同じぐらい生きるなんて言われている高級品種だ。
 
 でも正直、僕は触手なんてダサいと思う。
 みんなありがたがってるけど、もう時代遅れだよね。

 隣の家の美枝子ちゃんが犬に擬態した触手と散歩に出て変態を触手が撃退したって自慢していたけど変態に襲われるような時間に出歩くのが間違ってる。美枝子ちゃんはちょっとズレてる。触手なんてなくたって何も困らない。
 
 パパが買ってくれた触手はいろんな資格を持っていて賢いから学校への持ち込みも許されている。
 高級って言われるぐらいだから役立たずなはずがない。
 
 普通の触手は勉強の邪魔になるから学校に持って行ったら先生に取り上げられる。
 いくら値段が高くても教育が不十分な触手は多い。
 大勢の人間にビックリして混乱する触手はいるし、持ち主以外に触れられるのが嫌がって逃げたり暴れたりすることだってある。粘液をまき散らして教室を汚したら大参事だし触手が授業中に絡みついたら勉強にならないから基本的に理由がない限り一般的な触手の持ち込みは禁止されている。
 
 昔はそういうのはアバウトだったけれど条令なんかで定められているので触手の取り扱いは厳しい。
 勝手についてきたけどいいよねってことにはならない。ルールやマナーを軽視したら社会は崩壊する。
 
 だから、学校に持っていけるって許可が出る触手はすごい。
 他のみんなのとは違う特別な触手。
 
 質量を変えて軽量化したり透明になって邪魔にならずに近くに居られる。
 高級品種だっていうのも納得の多機能で何が出来るのか忘れちゃうぐらいに何でもできた。
 僕に何かあったらパパにすぐに連絡がいくようにしつけられているのだけは覚えている。
 触手は便利な通信用機械と一緒。
 それはある程度のお金持ちの間では常識だ。
 いとこのお兄ちゃんは照明を触手に変えたって言っていた。エコだね。
 
 録音機能もあるらしい多機能型の触手はこの頃、僕が上級生に絡まれていたからプレゼントされた。パパは誰かから僕の状況を聞いて心配してくれたんだ。
 でも、そんなのは余計なお世話。僕は僕だけの力で乗り切れた。
 
 僕が触手を持っていることは上級生に負けてパパに泣きついた証みたいだ。
 格好悪くて嫌になる。
 守ってもらおうと触手を持ち歩くなんて最低。
 
 僕は全然ほしくなかった触手を「ダスト」と名付けた。
 いくら高価ですごい触手でも僕にとっての価値なんて塵みたいなものだ。
 
 ダストは有能で無駄に粘液を出したりしない。
 僕がこぼしたお菓子のクズをすぐに片付けるし、出しっぱなしの本の位置も戻す。

 触手は声帯がないので小言もない。
 黙って掃除や片づけをする。
 使用人いらずなのは少し助かる。
 彼らはいちいちうるさい。
 ダストはとても静かだ。

 どういう原理なのかダストは大きさも変わる。
 小さい時はコップの中に入るぐらいのサイズで大きくなると僕を運ぶことも出来る。それは小さな馬に乗っている感じで少し面白い。
 
 ダストは透明だった。
 僕はそれを面白みがないと文句をつけた。透明である方がすごいらしいけれどダストがそこにいるんだか、いないんだか分からないのは気分が悪い。僕の言葉を理解してダストは日替わりで色を変えて楽しませてくれた。ダストはとても賢かった。
 
 血のような色になってもらって口からダストを吐きだす一発芸をしたらみんなおもしろがった。
 それじゃなくても学校にダストを持っていったらみんな「スゴイ」を連発。
 僕が思った以上にダストはハイグレードな触手だったらしい。
 みんなの反応に驚いていたら希少種で一般販売されていないと美枝子ちゃんがこっそり教えてくれた。
 
 僕のモノのくせにダストは僕よりも人気だ。
 最初は人が周りに集まってきていて楽しかったけれど時が経つにつれて苛立ちが募っていく。
 ダストと触れ合うために僕も仲間に入れてやるという空気を出されて吐き気がした。
 僕が触手のオマケ扱いされるなんてとんだ侮辱だ。
 
 ムカムカしたのでダストを壁に投げつけたり踏みつけたりハサミでチョキチョキしてやった。
 流体形の触手は手足がくっついたり離れたりするのが普通だ。
 手足をパージしても数時間以内にくっつければ戻る。
 人間でも動物でもない、彼らは触手だ。
 うごめく何本もの手足を核と呼ばれるものによって動かしている。
 通常はその核は見えないし熟練の研究者ですらなかなか把握できないらしい。
 生産者が触手のしつけをするのに核に対して教育プログラムを送信しているなんて言われているが本当かは分からない。しつけられ方で値段も変わるので企業の中でもトップシークレットで聞こえてくるのは嘘か本当かわからない噂だけ。
 
 触手がバラバラやぐちゃぐちゃになっても別に大騒ぎすることじゃない。
 僕はそう思っていた。軽い気持ちだった。
 ダストが長生きをするために触手の持つ柔軟性みたいなものをなくしていたなんて知らなかった。
 いつまでも浜辺に打ち上げられたクラゲのように床で潰れているダストをスリッパで踏みつける。
 
 触手は声帯がないから鳴かない。抗議の声を上げない。
 だから人は触手とコミュニケーションをとれない。
 そんなのは嘘なのは知っている。
 話せなくたって身振り手振りで触手はこちらに思いを伝えてくる。
 床にべちゃっとなっているのは降参のポーズだ。もう無理って言ってる。
 
 だけど僕は無視していた。
 
 殴りつけた時のやめてほしいというダストの訴えを見ないふりをした。
 壁にたたきつけて笑ってやった。
 お前の役目は僕のストレスを解消させるためだとハサミでチョキチョキしたのだ。
 その上、ぐだっとなっているダストを踏みつけながら役立たずと罵った。
 
 それが残酷なことだなんて思わなかった。
 僕はそこに命があるとわかっていなかった。
 命がなんであるのかだってわかっていない。
 ただムカついて暴力をふるってスッキリしたのだ。
 僕に嫌がらせをしてくる上級生たちと同じだと気づきもしなかった。
 
 いつまでたってもダストが機嫌を直さないのでパパにダストがダメになったから次は魚を飼いたいと告げた。

 パパはダストが床と一体化しているのを見て初めて僕を怒鳴りつけた。
 今まで一度もパパに怒られたことがなかった僕は恐怖でおもらしをした。
 それでもパパは許してくれない。
 
 お尻を丸出しにする恥ずかしい格好にされて何度も何度もお尻を叩かれた。
 僕が泣いて謝ってもパパは許してくれなかった。
 
 翌日もパパはお仕事から帰ってきて僕のお尻を叩く。
 優しいパパが居なくなってしまったことが悲しくて僕は泣く。
 お尻が痛くて夜になかなか眠れない。
 宿題を忘れて先生に怒られて、泣きはらしている僕の顔をブサイクだとクラスメイトも上級生もからかってきた。
 
 もうお尻を叩かれるのはイヤ。
 パパにも先生にも怒鳴られたくない。
 大人に怒られるのは怖い。
 
 クラスメイトにも上級生にも嗤われたくない。
 無視されるのも指をさされてひそひそと話されるのもイヤ。
 
 ダストがいた時はみんな僕の周りに来て楽しく話していたのに今では遠巻きでひそひそ。
 味方はどこにも居なかった。
 隣の家の美枝子ちゃんも僕を軽蔑した目で見る。
 みんな僕がダストにしたことを知っているのかもしれない。
 僕が悪い子だとみんなが責めてくる。
 
 ぐちゃぐちゃに汚れた服を脱ぎながら惨めな気分になった。
 着替える気にもなれなくて裸のままぼんやりとする。
 部屋の中は荒れていた。ダストが片付けてくれないからだ。
 使用人には部屋に入らないように言っている。
 もうどうすればいいのかわからない。
 ちがう。悪いことをしたらしなくちゃいけないのは一つだけだ。
 
 僕は床にぐちゃっとなっているダストの前できちんと頭を下げて謝った。
 瞳から涙がボロボロこぼれてくる。
 
 パパや通りかかりの大人や上級生たちがみんな僕のお尻に酷いことをする。
 叩かないでと泣いて頼んだらお尻の穴に何かを入れられるようになった。
 みんなが僕が悪い子だからこうやって教育しないといけないんだと言った。
 痛くて苦しくて嫌がっても止めてくれない。
 悪い子の言葉は誰も聞いてはくれないのだ。
 
 床に座り込んだらもう立ち上がれない。
 お尻が痛いから床にうずくまって腰を上げる。
 パパに見つかったらお尻を叩かれるかお尻に何かを入れられてしまう。
 でも、学校でぐちゃぐちゃにされた痛みから帰ってきて僕は床やベッドの上でこのお尻を上げたポーズを取ってしまう。
 もう許してほしいと泣き続けているとダストが触手を伸ばしてきた。
 
 死んでしまったのかと思ったらダストの触手が僕の頬を撫でる。
 涙をぬぐってくれたのだ。
 
 ずっと最初からダストは僕の味方だった。
 パパが誕生日にくれた僕だけの味方だった。
 上級生から守ってくれるし、みんなの人気者にしてくれる素敵な触手だった。
 僕のためだけに動いてくれる、僕のことだけを考えてくれる最高のパートナー。
 
 それなのに僕はダストに優しくなかった。
 僕のせいで長生きするはずのダストはすぐに死んでしまうかもしれない。
 
 泣き続ける僕をダストが床からよろよろと起き上がり慰めようとする。
 どうしてこんな姿になってまで僕を思ってくれるダストを嫌えたんだろう。
 なさけなくて、はずかしくて、僕は泣き続けた。
 
 パパが帰ってきたらしく部屋のドアをノックされた。
 何も答えずにいたらパパが部屋に入ってきて「夕食をとらなかったね、いけない子だ」とネクタイで僕のお尻を叩いた。手の平で僕のお尻を揉みながら「妻の家系は容姿が整っていない子供ほど同性を誘う淫らな人間に育つと言われているんだよ」と口にする。
 
 上級生たちに「平凡」「地味」「似てない父親」と散々言われた。
 パパも同じように思っていたのが悲しい。
 いつも僕のことをかわいいと言ってくれていたのに嘘だったんだ。
 誰が見てもパパを格好いいと言うけれど、同時に僕を見て変な顔をする。
 血が繋がっていないのかと聞かれたことは一度や二度じゃない。
 
 パパに怒られたことがない、嫌われていないのが僕にとってパパの子供である証だった。
 でも、パパはいつも僕を怒るようになってしまった。僕を嫌いになってしまったんだ。
 泣いても僕のお尻をいじるのをやめてくれない。
 
 パパはいつも「こんなつもりじゃなかった。こうしないために触手を与えたのにダメの子だね」と僕のお尻を滅茶苦茶にする。いつもはベッドでの行為だけれど床にうずくまった状態でお尻をイジメられた。
 
 耐えきれなくてダストにおしっこをかけてしまった。
 パパはそのことでも僕を悪い子だと責めた。
 お尻が痛くて苦しいと訴え続けたらお尻に入れられたものがなくなっていく。
 ほっと一息つけたけれど、休憩はすこしの間だけだ。
 パパが満足するまで終わらない。
 もう一度、お尻の中に何かを入れられると構えていたら液体が入ってくるような感触があっただけで痛みはない。
 
 パパは「人の体液や排泄物が市販の触手フードよりもいいというのは本当だったのか」と笑う。
 僕に服を着せてパパが抱きかかえてくれる。
 床にはダストがいない。
 パパに聞くと微笑んで僕のお尻の穴をなぞる。
 ずっと痛いだけだったのに甘い痺れみたいなものが全身を駆け巡る。
 思わず小さく悲鳴を上げてパパにしがみつく。
 
 頬にキスをしてパパが僕を大切で愛していると言ってくれる。
 信じられないでいたけれどパパは僕を抱えて夕飯の席に着いた。
 いつもはお行儀が悪いから膝になんか座らせない。それなのに今日は特別だ。
 僕を膝の上に乗せてパパが食べさせてくれる。小さな子供になったみたい。
 本当はこんな子供扱い嫌だけれど僕は動けなくなっていた。
 
 裸でいたから風邪をひいてしまったのか身体が熱い。
 内股になって太ももをすりすりしていたらパパが「エッチな顔をしている」と変なことを言ってくる。

 それからパパと一緒にお風呂に入って、お風呂の鏡で僕は自分のお尻がどうなっているのか見せられた。
 パパに身体を持ち上げられて足を開いて見たお尻は穴が開きっぱなしだ。
 透明な液体がお尻の中にあるのが見える。病気になってしまったのかと心配しているとパパが僕のお尻の中に居るのはダストだと教えてくれた。
 
 僕がおしっこをかけて少しだけ元気になったダストが僕を守るために行動してくれた結果だとういう。
 このままでいればダストは元気になってまた以前のように戻るとパパは言う。
 お尻が痛くなることがないのはとても嬉しい。
 パパも喜んでくれた。僕の頭を撫でてキスをして一緒に寝てくれた。
 
 ダストじゃなくてナイトだったんだと僕は自分のお尻を守ってくれている触手に感謝した。
 
 
 
 
 
蛇足
 
 
 
ある日の昼ワイドショーにて。
 
 
『はい、つぎはネットでも大人気のあの話題です』
『あ、あれですか! あの触手の!!』
『反応がわざとらしい』
『そうです。触手パンツ。いま大変売れています』
『触手をパンツにするって画期的ですよね』
『ちょっと奇抜すぎるんとちゃう?』
『私はちょっと信じられないです……。まだ受け入れられませんね』

 アナウンサーが「爆売れ! 触手下着事情」と書かれたクリップを見せると司会やゲストのコメンテーターがそれを見てそれぞれ声を上げる。そしてVTRが流れ出した。

『街の声を聞いてきました』
 
 紹介された街のコメントは「彼氏に貰いました」「痴漢撃退に心強い」「触手つけてますって言ったら上司のセクハラがなくなりました」「もう少し下着自体のデザインも増えてほしいですね」と好意的な意見ばかり。
 新しいものは年代によって嫌がられるものだが赤ちゃんからお年寄りまで愛される触手パンツ。
 
 理由はなんとおむつから生理用品、女性の下半身への犯罪抑制など多機能であること。
 きちんと躾けられた触手がくっついた下着は着用してもあまり違和感がない。
 おむつで蒸れたり不快感を覚えていた赤ちゃんもお年寄りも安心。
 生理用品をつけているようにも見えないシルエットなので着る服を選ばず若い女性から支持を受けている。
 ぶしつけな手が下半身に伸びてきても触手に攻撃してくれるのも嬉しい。
 普通の防犯グッズと違い持ち主の気持ちを察するのがさすが触手だとVTRはまとめていた。
 
 開発者のインタビューでは「性犯罪の防止のために作りました」と妻を性犯罪の被害で亡くした一人息子を持った社長が語る。
 
『最初から入っていれば挿入できないっていう考えからでしたが、触手の柔軟性のおかげでいろいろと用途が広がりましたね』
 
 そう社長は語った。最初からおむつ機能のために触手と下着を融合したわけではないらしい。
 発想のヒントはかわいい一人息子だと社長は語るが細かい点は取材で教えてはくれなかった。
 
『性犯罪防止ですか〜』
『触手から人間が攻撃を受ける場合、人間が犯罪者であるというのが前提ですからね』
『そうなんですか? どこで判断すんの』
『触手は人間を攻撃しませんが自分の持ち主に危害を加えようとする相手には容赦しません。なので、触手に指をかまれたなんて事態になったら、指をかまれた人が女性に嫌がらせをしたということになりますね』
『冗談とかは? 触手にどうやって判断させるんですか。冤罪生まれません?』
『それですが、人間は不快感などを覚えると発する匂いがあるんですがそれを触手は感じて判断しています』
『へぇ、それ飲みの席で冗談でやった場合も――』
『女性が不快感を覚えたと触手が感じればやっている方が冗談だとしても触手から攻撃されますね』
『うわっ、怖いっすねえ』
『酔ってても人が嫌がることをしちゃダメでしょ』
『たしかに』
 
 わいわいとアナウンサーや司会、コメンテーターや触手の専門家などが話していた。
 
 
 
 
深夜のバラエティ番組にて。
 
『最近話題の触手パンツ!!』
『これエッチですよねえ』
『男女ともに大人気です』
『最近はかわいいデザインも増えてきたんですよぉ』
『男性用も売れてるんです!!』
 
 おむつとしてではなくエッチな道具としての触手パンツについての特集だった。
 ものによってはモザイクを入れての放送。
 触手パンツは拡張に使ったりオナニー用だったりエッチのサポートアイテムとして大人気。
 媚薬や鎮静剤としての成分を持つ触手もいるので処女も痛みを感じなくて済むマストアイテムだとかなんとか。


※パパの妻が強姦される→息子が生まれる→妻また強姦される→妻、自殺(息子がパパと血が繋がっていないのは公然の秘密。ただし見た目の違いで子供社会でからかいの対象になる)というのが背景。パパは触手産業の人でお金持ち。触手パンツで大儲けウハウハ。


ちなみにこちらは読みたい話のアンケート(2016年1月11開始)の現在(2016.01.14)の上位と下位を合わせようと思った結果のお話です。

「嫌われ→愛されひとひねり」「短編が増えるとうれしい」「平凡地味顔ゲスクズ」「男嫌いの淫乱ビッチ」が現在、上位。
(下位は確認したとき「生意気ショタ淫乱系」でした)

淫乱部分はこの後に触手ダストとラブラブ(エッチ)生活特集とかがあるからです。
男嫌いになったものの触手とのエロにハマりこんで上級生の前とかで公開プレイですね。
(男は嫌いでも視姦プレイはお好き……)

触手は触手が出始める→触手ブーム到来→触手社会問題→定着→新種の触手連発→触手社会問題→第二次触手ブームなんて感じで触手産業も色々と時代があります。(ちょっとこれは適当ですが触手がペット(持ち物)として人間社会に溶け込むまでのどの時期の話かで描写にズレがあったりします)
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