親衛隊に入る理由? 制裁がしたいからでしょ、当然だね

※淡々とある親衛隊の内情?実情?



 かわいい子はかわいい行動をしないといけない。
 美しい人は美しくあらねばならない。
 
 教師や警察官だって人間なのに犯罪を犯すと殊更に非難される。
 なんでさ。
 無職やニートってつけば犯罪者でも突っ込まれない。
 なんでさ。
 
 役職、肩書きに責任はあるかもしれないけれど、罪は罪でしょう。
 汚職をしない政治家はいないし、人を殺さない医者だっていない。
 みんな気づかなかったり分からないだけ。
 
 僕の見た目は美しくかわいらしい。
 儚く散った母と同じ姿をしていると周囲に教えられた。
 でも、僕の心の在り方は母を儚くさせた原因である父とそっくり。
 
 父はある一人だけを心から愛していた。
 愛されなかった母は病んだがその姿は美しく父を魅了した。
 父は母を愛してはいなかったけれど母の美しさは評価していた。
 だから母は美しいままこの世を去った。
 それが復讐であり母が父に出来ることだったから。
 結果、父は愛よりも美をとった。
 休日はいつでも母が居なくなるまでの日々を録画したホームビデオを眺めている。
 母はとても美しい。
 それに似ている僕も美しくかわいらしい。
 
 母の息子というだけで僕にも同じ美しさを父は求めたけれどすぐに諦めた。
 月日の積み重ねで母の美しさが出来上がったことを知っているからだ。
 だから父は僕に望む。
 僕が決して実ることのない恋をするようにと、望む。
 親として最低の望みを口にする父に僕は母を真似た笑みを見せるが薄暗さが足りないらしい。
 母の鬱屈とした感情を押し殺した美しくも恐ろしい微笑み。
 きっと必要なのは身を焼くほどの嫉妬心。
 気が狂うほどの悋気を微笑みで蓋をする精神力。
 
 母は父が自分を見ないことが憎かったに違いない。
 父の心の中にある人間を羨んだに違いない。
 それでも微笑み、決して相手を貶める言葉を吐かなかった。
 低い相手に負けたというのは許せないことだし、負けを認めるというのは無様だからだ。
 
 母の精神構造が僕には理解できない。
 けれども惹き付けられる。
 それはきっと父と似ているからだろう。
 
 母を馬鹿だと笑う気持ちがある一方で徹底しているその精神性が愚かな美しさになる。
 愚直だと嘲るのは最初だけ。徹底していて一心不乱で命すら燃やした母が美しくないわけがない。
 
 僕も父も母に敬意を払っている。
 父の中できっと愛は終わっていないのかもしれない。
 同時に生前の母の姿の残滓をなぞる父の中に新しく生まれているものがある。
 遅すぎた淡い恋は終着点など存在しない。それがいいのかもしれない。
 
 思い出となりより美化され美しさを増す母の影を父は永遠に求め続ける。
 母の最期を思えば最高の父の有り様。
 ただ子供である僕に不要な義務と責任が押し付けられてしまっているのはいただけない。
 
 僕の行動を父は鋭く監視して苦情を言う。
 しつけではない。
 教師や警察官がたとえ犯罪を犯していなくても人格としてふさわしいか否かの判断を周囲が無意識に下すようなもの。
 僕は僕ではなく、母の息子として見られる。
 教師や警察官の肩書きを得てしまえば個人ではなくその役職の人間だと思われるように人格は消える。
 
 良い人間もいれば悪い人間もいるのが当たり前だけれど、肩書きを得た責任から人格者であるように振る舞うのが義務になる。それが社会の常識らしい。
 
 僕は望んで母の息子という肩書きを手に入れたわけではないけれど母の息子である限り一生は安泰だ。僕の家は代々続く名家であり働かなくても暮らしていけるだけの資産がある。使用人は大勢いて街一つが僕のものだと言っていい。
 
 しきたりとして跡取りにあたる僕の進学先は自動的に決まっていた。
 僕の領域である街ではなく知らない土地。
 父もその父の父もそのまた父の父もみんな通っていたという学園なので僕も行かなければならない。
 
 そこで僕は運命に出会った。
 
『親衛隊に入る理由? 制裁がしたいからでしょ、当然だね』
 
 僕は恵まれていたから周りを羨むことはなかった。
 父が僕に求めた母のような妬心は家の中では起こりえなかったが、学園ではさすがに僕よりも上の人間が少なからずいた。
 その中で一番引き寄せられたのは彼だ。
 手足が伸びている最中の美しい横顔の彼は成長痛に苦しみながらも一人の少年を取り囲んで凛と立っていた。
 周りに指示を出す姿は般若を思わせるのに美しい。
 中等部に入学して一連の彼の姿を見つめていた。
 心に湧き上がったのは母の映像を見た時と同じような感覚。
 圧倒されて目をそむけたくなるような激情。
 
 先輩であった美しい彼にどうして親衛隊として活動するのかたずねれば制裁をしたいからだと返された。
 
 それに心が少し軽くなる。
 母に対してなぜ父を愛して心を病んだのか問いかけたい気持ちがあったのだ。
 彼の答えで理解できた気がする。
 母は心を病ませたかったからこそ父を愛したのだ。
 
 普通の人と目的と手段が入れ替わっている。
 
 母は自分の一番の使いどころを分かっていた。
 だから、儚く散ると知りながらも選んだのだ。
 それがどれだけ残酷だとしても自分自身が一番美しい在り方だからこそ選んだのだ。
 
 僕も親衛隊に入って先輩である美しい彼に付き従った。
 いつの間にか僕は副隊長と呼ばれることになった。
 彼が居なくなった後に隊長になることはなかった。
 隊長には彼と比べられないほど容姿としては平凡な相手が収まった。
 反対の声は多かったが僕も彼も文句はなかった。
 
 なぜなら新しい隊長は彼以上に自分のことしか考えていないお姫様だった。
 幼稚で愚直で愛らしい。自信満々でかわいらしい新しい隊長を見ていると自然と心は穏やかになる。
 卒業した美しい元親衛隊長と再び交流を持つことはないだろうけれど彼のくれた言葉や時間はとても貴重なものだった。
 
 他人をイジメる彼に恋をしていたと気づくのは彼が居なくなってから一年後だったけれど、後悔はしていない。
 手に入らないからこその美しさというものがある。
 いつか彼が落ちぶれてしまってもきっと僕は彼を、あの頃の彼を愛し続けるのだろう。



※タイトルからコメディかと思った方を全力で裏切る……。
卒業した親衛隊長を片思い(?)している主人公に片思いする転入生なり生徒会長なりがいると面白いかもしれませんね。
主人公の気持ちが向かないのを分かってても自分のことを好きになれと押し売りしてくる攻め。

主人公の心の中に居る相手に怒り狂ってもんどりうって悲しんだりとかしているとちょっと優しく接してもらったりして期待して裏切られたと嫉妬心から夏休みに閉じ込めたりとかそういう話がいつかあるといいかもしれません。
(嫉妬に狂ってる姿を主人公に見せて愛を求め出す系なら勝てなくても負けないかもしれないという……ちょっとわかりにくいですかね)
prev/next
アンケート拍手
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -