・二次元至上主義は漏れなく美醜について厳しい(攻め視点)

※タイトルままなので厳しいご意見があったりします。
おたく男子攻め視点。



 僕はよく面食いとか美形好きなんて言われるがそんなことはない。
 いつも身近にいる僕自身が誰もが認めるような容姿をしていない。
 
 そして、僕はそのことに対してコンプレックスなど一切感じていないのだから美醜へのこだわりなんて薄いと思う。
 
 ただ友人とアニメについて話をすると大体うんざりされる。
 アニメを見る僕の視線は厳しいというのだ。
 僕みたいな人間はネットで探せばいくらでもいる。
 決して僕のスタンスは少数派ではない。
 
 僕はいわゆるアニメの作画崩壊、作画崩れ、そういったものが許せない。

 制作している側が頑張っているとか予算がどうのとかそんな都合はどうでもいい。
 とにかく崩れた画が目に移ることに嫌悪感がある。
 作画崩壊が不快なんだ。
 内容がいくら面白くても無理。
 雑なものなどそもそも見ようとも思えない。
 
 友人は適当だ。スマホでネットやゲームを見ながらアニメを流し見る。僕が指摘する作画崩壊や手抜きを一切気にしない。
 僕が苛立つポイントを語ってもふつうは気が付かないとわけのわからないことを口にする。
 厳しいとか気を抜いてみろなんて友人は口にするがそれは酷い侮辱だろう。アニメを侮辱している。
 
 僕はいつでもアニメを見るとき本気だ。
 物音を一切立てずに集中して見ている。
 アニメを見る以外のことは一切しない。
 他の作業をしながらアニメを流しておくなんていう冒涜は理解できない。
 飲み物で適度に喉を潤し、小腹を見たし、トイレに行って、スマホの電源も切っておく。
 体と心を整えてからアニメを見るのだ。
 
 これはアニメを見る際の礼儀だろう。
 
 そう長い時間拘束されるわけではないのだから全身全霊でアニメに向き合うべきだ。
 人間らしくない重力を無視した肉体が動画として動いている奇跡の時間に僕はうっとり酔いしれる。
 実写ではできない動きと迫力。
 あるいは見せられない等身のバランス。
 高品質なアニメは作画が崩れない。
 友人はそれは資金があるからだというが、業界のことなど僕は知らない。
 僕はただ面白くて綺麗なアニメが見たいだけだ。
 こういうことをいうと友人に怒られるが消費者でしかない僕にとって制作側の事情など知ったことではない。
 誰よりも真面目にアニメに対して向き合って熱意を燃やしている自覚があるので非難されるいわれはない。
 オープニングが間に合わなかったからと止め絵で対応したり、空ばかり映し出したり手抜きとしか思えない作りになったりするようなアニメにあたりは少ない。制作のスケジュールがおかしい現場から出来上がる作品が素晴らしいはずがない。
 
 友人がいくら勧めてこようとも僕は作画でケチがついた作品は視聴しない。
 大体内容の良し悪し以前に五話までに作画崩壊が起きた作品はその時点で見るのをやめる。
 困るのが終盤での急な作画崩れ。内容を追っていて作品に感情移入しているので発狂しそうなほどのストレスに苛まれる。人気がある作品ならDVDで修正されたりするので、まだ希望を持てるがマイナー作品だと作画は崩壊したままになる。見ていて死にそうだ。その話を担当した原画担当を呪う気持ちしかない。
 
 アニメは一話一話、原画を担当している人が違う。スケジュールによるかもしれないが大抵、数人でローテーションを組んでいる。

 もともと大勢の人がアニメを作るのに携わっているのは知っている。だから当たり外れが出てしまうんだろう。
 キャラデザの人が原画を担当してくれたときと実力が低かったり、絵柄にくせのある人間が原画を担当した回では絵が違いすぎる。キャプチャを並べてみるとよくわかる。

 アニメのグッズなどでイラストが違いすぎて苛立ったあの気持ち。
 動画ですら作画崩れは憎いのに静止画では耐えられない。
 グッズだと一瞬ではなく目にするしイラストを他のグッズに使いまわしたりする。
 崩れているとしか思えないイラストのグッズが増え続けるなんて視界の暴力だ。
 アニメに対する愛着や思い入れが一気に覚めるか憎しみに変わる。
 
 苦痛でしかなかったが僕も開きなおった。
 作画が気になるアニメは見ない。それに限る。
 時間には限りがあるの有効に使わないければならない。
 今現在生まれているアニメもあるが僕が生まれる前に作られたアニメもあるのだから時間はいくらあっても足りない。
 
 中学の僕にとってアニメを見ることが人生の最重要課題だった。
 
 だから、僕は現実とのかかわりを極力減らした。
 アニメ以外のことをするのは時間の無駄だからだ。
 情報源になる友人とは話をするがそれ以外は全面的に遮断していた。
 僕は嫌な奴なのかもしれない。
 だが、おたくがリアルに興味がないのは世間一般からして普通のことだとTVでやっているので構わないだろう。
 誰に気持ちが悪いと言われたところで気にならない。
 現実の事柄は僕にとってどうでもいいことだった。
 新作アニメで作画が崩壊しないか、たとえ崩れた場面があってもDVDで修正されるのかどうか、それが何よりも問題だった。
 それ以外のことはどうでもよかった。
 僕は学校に通う時間すら無駄だと感じるようなニート予備軍である。
 
 全寮制の高校に入学することによって僕は登下校にかかる時間を短縮することにした。
 家の近くに高校がなかったのだ。
 全寮制の高校は僕が受かりそうなのは男子校しかなかったが問題はない。
 女子がいても気を遣わないといけなくなって面倒だ。
 男なら雑に扱って構わないだろう。
 
 
 そして、入学した男子校で僕は信じがたいものを見た。
 
 
 キラキラと輝く美貌の生徒会長様。
 瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)という名前自身も綺麗でどこか二次元的な要素を持っている彼は完璧な存在だった。
 
 まず、生徒会長として挨拶をする彼の声に僕の意識は壇上に向けられた。
 どうでもいい時間だと思ったのが急速に色づいた。
 マイクを通して聞こえた癖のない声に僕の心は震えたのだ。
 アニメっぽかったわけではない。ただ見た目を見る前にすでに美形だと確信できる声だった。
 声優とアイドルは違う。
 騒がれている生徒会長以外はどこかアイドルや芸能人のような話し方や見た目だが生徒会長、瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)様は違った
 アナウンサーのような口調から一転して洋画の吹き替えに変えたかと思えば乙女向けに出されているCDのような囁き声で締めくくっていた。
 
 式がすべて終了して教師たちが退室しても上級生たちが動かないのでどうしたのかと思ったら少年漫画を彷彿とさせるようなエールが送られた。
 
『俺が生徒会長でいる間なんて小さいことは言わねえ。俺が学園にいる間はずっとおまえらに楽しい思いを約束してやる! 大人の真似事で青春を棒に振るなよ!! ここで出来た友人は一生の宝物だ。高校三年間、大いに楽しめ!!』
 
 自分の声の使い方をわかっているのだろうと俺は感動した。どの声も素晴らしかったしパフォーマンスとして完璧だった。他の役員の名前はさっぱり覚えられないが「一度聞いたらなかなか忘れないと有名な瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)だ。言いにくくて噛みそうとか忘れそうだと思っているお馬鹿さんは『るりるり会長』って覚えていいからな。ただ瑠璃川の人間が多いところで言うと結構な年配も反応するから注意しろ!! 瑠璃川は大体るりるり言われるからな」と言ってくれていた。そのおかげで瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)という名前からるりるり会長という愛称まできっちり覚えてしまった。
 
 瑠璃川という家の人間が代々、生徒会長を務めることが多かったというのも分かってすごさが伝わる自己紹介だ。
 
 瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)は声も容姿もアニメから出てきたような絵に描いたような美形だった。
 二度見したところで消えることのない輝く美貌。
 
 僕が一番注目したのはその肉体のバランス、プロポーションだ。

 神が作った芸術品。
 すらりと伸びた足、程よく脂肪が乗りながら筋肉を感じさせる上がったおしり、しなやかな腰のラインとシミひとつない背中。細身だというのに腹筋は割れていて綺麗に筋肉がついている。
 暑がりなのか人目がないところでは平気で脱いでいる。
 いやらしさよりも先に美しさとバランスの良さに目を奪われる。
 筋肉馬鹿扱いされるようなパンパンに膨らんだ筋肉ではない。
 体を装飾するのに適したほどよい量の筋肉。
 アスリートの実用的な美しさではなく見せるために体を整えたような綺麗さ。
 
 るりるり会長のブロマイドが飛ぶように売れるのが分かる。
 これは欲しい。
 綺麗なピンク色の乳首を写真越しに舐めたい衝動は誰でも持つに決まっている。
 
 僕は自分がなぜアニメに傾倒したのかその理由を思い出した。
 単純にアニメがきれいだからだ。
 もっと言ってしまうと現実の人間の体は醜い。
 最初は僕だって年相応にバラエティ番組が好きだった。
 お笑いの芸人のコントも面白く見ていた。
 分からないネタや言葉の意味を調べるのは楽しかった。
 
 だけど、どうしても許せない、不快なことがった。
 それが様式美や笑いを取るためだとしても簡単にテレビの前で出される芸人の裸は見苦しい。
 デブキャラで売っていなくても中年太りでお腹が出ている。
 そして、乳首が汚いことが多い。
 形も色も気を使っていないのが丸わかりの手入れのされていないくすんだ乳首。
 肌のざらつきも見ていて僕を苛立たせる。
 男や女である以前に人として僕は嫌悪を抱いてしまう。
 気づけばバラエティ番組を面白いと感じられなくなっていた。
 
 リアルに絶望したのだ。
 テレビに出ている彼らをすごいと思ったことがない。
 
 形の崩れた乳首やまばらな体毛なんかを彼らは見苦しいと思っていなさそうで、その精神が許せない。
 テレビに出ているということは不特定多数の人間の目に触れる裸だ。それが醜いのだから笑うどころじゃない。
 
 その点において二次元であるアニメは偉大だ。
 僕の感じる見苦しさがまるでない。
 
 登場人物は基本的にかわいい、綺麗、格好いい、そういった要素だけを詰めている。
 
 デブだけの話なんかないし、作画崩れを脇に置けば理想的で完璧な顔や体がいつでも見られる。
 主人公の容姿が普通と設定されていたとしても周りと大して変わらなかったり格好良かったりする現象は多い。
 
 現実なんかいいところはないと思っていた僕をあざ笑うかのようにるりるり会長は輝く美貌を持っていた。
 
 るりるり会長は声も姿も何もかもが神々しくて彼のことを思うと胸がいっぱいになる。
 彼の姿を思い出して泣き出すほどに美しすぎる方だった。
 これは泣き出す僕の感受性が豊かだとか頭がおかしくなったわけじゃない。
 会長の姿に涙を流す生徒は多かった。
 
 僕は彼のことを「美しすぎる生徒会長様」と呼ぶことを心に決めた。
 るりるり会長だなんて愛称で呼ぶのは不敬だ。
 崇めるべき対象をかわいくは呼べない。
 
 入学式に出席した自分を褒めた。

 直前まで深夜に放送したアニメをもう一度見直す時間に当てようかと悩んでいたのだ。
 リアルタイムで放送を見ていたので録画したものを見直すのは入学式の後にすることを決めていた。
 その自分の判断の正しさにガッツポーズをしたくなる。
 壇上に立つ美しすぎる生徒会長様を見逃すなんてあってはならない。
 
 空想上の産物が現実に形を持ったとしか思えない美しすぎる生徒会長様に心臓を打ち抜かれた。
 意地を張る意味はない。想像上のものじゃない美しいものが目の前にあるのに手を伸ばさないでいる理由がなかった。
 気持ちを手紙にしたためて百通ほど出したら「そんなに言うなら付き合ってみるか?」と彼から言われた。
 わざわざ会いに来てくれただけでも涙が出そうなほどに嬉しいのにまさかの交際宣言。
 男前な美しすぎる生徒会長様の提案に僕は喜び浮かれた。
 
 付き合うことで知ってしまう彼の人間味が僕の理想を汚すのではないのかと少しだけ怖さがあった。
 だが、そこは美しすぎる生徒会長様、瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)。
 彼は一切、作画崩壊しない方だった。
 神の作った芸術作品は格が違う。
 
 より見つめる時間を長くするために僕は生徒会役員になり勉強を一緒にしたり寝食すら侵食していった。
 自分でも図々しいと思いながらも彼が僕に不快感を覚えていないのならどこまでも突き進んでいいだろうと近づいた。
 意外にも淋しがり屋で甘えたいタイプらしい彼は僕の急接近に嫌な顔一つしない。その新しい一面にも僕はまた彼に引き寄せられて夢中になる。
 
 彼は嬉しそうな微笑みも当然のように綺麗なので以前は愚かだと思っていた人に何かを渡すという気持ちを理解した。貢ぐ人間をあわれで愚かな行為をしていると思っていた。恋愛自体に対して二次元を愛する僕は馬鹿にする傾向があった。アニメの中で描かれる愛を賛美しても現実での恋愛の話を気持ち悪く思っていた。
 
 何も知らなかった。
 恋が人を綺麗にして魅力的な表情を引き出してくれると僕は知らなかった。
 僕はアニメに割いていた時間のすべてを彼に捧げた。
 時間もお金も何もかも惜しくはなかった。
 彼のためにすべてを投げ打つ覚悟がある。
 友人や美しすぎる生徒会長様の親衛隊たちに愛が重すぎて怖いと言われることもあったが愛し合っているから問題ない。
 
「友人から二次元じゃないから劣化するだろってメッセージが来たんっすけど」

 美しすぎる生徒会長様である瑠璃川(るりかわ)璃瑠伽(りるか)は僕の言葉を鼻で笑うだけだ。
 
「ばーか。二次元じゃねえんだから好きなだけお前が俺に手を加えられんだろ」

 彼はいつでも僕の考え付かないことを口にする。
 見た目も含めてそれはとても魅力的だ。

「……お前が嫌いな作画崩壊だっけ? アレは制作に回らねえーとどうしようもねえだろうけど、この俺様はお前の前にいるんだからいくらでも手を加えられんぞ? 好きな服を着せるのも好きな髪形をさせるのもやり放題だ、嬉しいだろう」
 
 発言内容よりも得意げな顔で勝ち誇っている生徒会長様がかわいすぎてたまらなかったので「会長様は賢い」と頭を撫でてあげると照れたのか不貞腐れたのか唇を尖らせて「黙れ、学年主席」と口にした。
 
 入学した時は大したことはなかった成績だが一緒に勉強をするために真面目に授業を受けたり、美しすぎる生徒会長様に教えるために気合を入れまくって勉強をした。
 今までアニメにかけていた情熱を僕は美しすぎる生徒会長様ただ一人にそそいでいるのだから、副次的な効果で様々なことが変わっていったのは当然だ。
 
 美しすぎる生徒会長様の様々な表情が見たいためだけに僕は自分の見た目に気を遣ったり立ち振る舞いを変えた。
 このせいか僕に対する周囲の評価は以前とはまるで違う。
 自分に才能があるとか見た目がいいなんて思うことは以前と同じでないけれど、人から告白を受けたり成績の話題で嫉妬したような拗ねたような態度を見せる美しすぎる生徒会長様が見れるのが嬉しい。彼の意外な一面に僕は惚れ直しすぎて毎回身悶えている。
 
 僕ほど彼の表情を知っている人間はいないだろう。
 それが嬉しいというのが間違いなく恋愛の効果なんだと思う。
 
 問題は身悶える彼を見るために抱く側、抱かれる側、どちらがより彼の表情を見ることができるのかというのを考え続けて未だに答えは出ていないことだ。欲望はあるにはあるが僕は彼のどんな表情も見逃したくない。鋼鉄の自制心を携えて同じベッドで眠るだけで触れるのを我慢するにもそろそろ限界だ。
 
「そんなアホなことで悩んでいるのか? 俺様のエロいところが見たいというのならカメラで撮影でもすればいい。ちなみに抱く方でも抱かれる方でもどちらでもいいぞ。……お前が見たがるなら両方やればいい。あぁ、ペニスが控えめな方がアナルにダメージが少なくていいのか? じゃあ、お前が俺に入れるか?」
 
 思ってもいない方向での解決方法の提示に僕は三回ほど死んだ気分だ。
 さりげなく自分の息子がおとしめられたことすらどうでもいい。
 
 心臓が高鳴りすぎて破けてしまった気がする。

 セリフだけならなんてことない、いつもの強気で男前な彼だが少し早口で震えて上ずった声や僕がプレゼントしたイルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら視線を泳がせている姿は二次元で見たことがあるものだ。
 
 いつも乱暴な幼馴染がしおらしく恋人の顔をしようとして焦っている、そんな空気。
 一歩進もうと思っていてもストレートに言えなくて少しだけ迂回しながらも距離を縮めたいという気持ちが隠せずに漏れている。かわいい顔なんかしたことがなくて、まともな誘い文句も持ち合わせていないのだ。
 
 会長様は賢い。
 
 こんな風に不器用にいじらしく誘われたら僕が触れないわけがない。これはイルカじゃなくて僕に抱きついてきていいと言うしかないだろう。真っ赤な顔をしている彼が僕からのキスを待っているのは分かり切っているのだから、手を伸ばさないわけがない。


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管理人は作画監督や原画の方よりも動画が外注かどうかとか同時期に何を制作しているのかとか脚本と監督のほうが気になるタイプです。
(同時期に複数放送しているアニメ作品があるアニメ制作会社だとやっぱり力を入れている作品とそうじゃない作品とがあったりするので……)


その後でアニメ卒業じゃなくて会長にアニメを見せているといいですね。

会長がアニメで一喜一憂している姿を眺めているので、たぶん作画チェックがゆるくなるはずです。
絵の崩れにイラっとしても会長が笑ったり感動したりしている姿に満足するはず。

そのうち更新予定のるりるり会長視点で二次元至上主義だった主人公のお名前が出てきますが先に言っておくと阿賀松(あがまつ)さんです。
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