・苦労性るんるんは今日もちょっぴり不幸せ

※タイトルまま。
会長受け短編SSに置いていますが正確にはまだ受けは会長ではありません。


 幼なじみは昔から身体が強くて心が優しい奴だった。
 厳しく躾けられたからこそ他人に対して心が広い。
 人から頼られることに慣れていて俺の自慢と言っていい。
 
 柔道の大会で賞をとって毎朝、毎晩、稽古をしていた。
 俺はそれを見て応援するだけだったけれど、支えているんだと思っていた。
 練習で疲れて勉強がおろそかになっているので授業のノートを見せた。
 試験の前にはいつもテスト対策のプリントを作ってやらせた。
 頼まれたわけじゃない。
 俺がしたいからしたことだ。
 感謝なんてなくていい。
 友達を応援するっていうのはそういうものだと思っていた。
 頑張っている友達を見ると俺も元気づけられる。
 良い奴だから力になってやりたいと考えるのは当たり前だ。
 
 だから、夏休み明けに怪我をして登校したアイツに何も言えなかった。
 
 父方の実家に行くと言っていた。
 ついてくるかと聞かれたけれど俺は断った。
 いとこの女の子たちに誘われていて十人近くで遊びに行く予定があった。
 本当はアイツを誘ってみんなで楽しむつもりが田舎に行くというから見送るしかない。
 アイツが来ないことを俺を含めてみんなガッカリしながら遊びつくした。
 
 俺たちが遊んでいる間にアイツが怪我をして落ち込んでいたなんて知らなかった。
 
 怪我をしてアイツはいつものアイツじゃなくなった。
 それはそうかもしれない。
 手や足に痺れなどが残ると言われたらしい。
 元の丈夫な体には戻らないという。
 柔道で上を目指すのも難しいのだという。
 
 アイツのいいところは柔道だけじゃない。
 それでも、暗く落ち込むアイツに俺以外もみんな、かける言葉がなくて余所余所しくなった。
 仕方がない。
 いつものアイツなら自分の怪我のことを笑い話にしただろう。
 自分の痛みよりも周囲の雰囲気を優先するそんな優しい奴だからこそみんなアイツの周りに集まった。
 気配り上手なアイツの近くが楽しくて安心するのだ。
 
 けれど、怪我で余裕のなくなったアイツはピリピリと尖った空気を発していて簡単には近づけない。
 近づいてはいけないと思った。
 
 
 夏休み明けに現れた転入生はアイツを見て泣いた。
 
 
 今まで積み上げてきたものを失った悲しみ、これから先への不安。
 そういったアイツの気持ちを自分のもののように感じて、泣いた。
 怪我をしてからずっと泣くこともなく重苦しいものを持ち続けたアイツはそれで救われた。
 転入して一週間程度の付き合いの浅い相手がアイツの大親友になった。
 
 俺はアイツの支えにも力にもならなかった。
 けど、友達だからそばにいた。
 休み時間は俺とアイツと転入生と転入生の同室者の四人でいた。
 友達の友達あるいは顔見知りのクラスメイトそのぐらいの関わりしか転入生とないと思っていた。
 外からは仲がいい四人だと思われていたらしい。
 転入生の同室者とは中学の時に同室だったこともあって他よりも会話する。
 アイツは幼なじみなので一番の友達だ。アイツにとってその他大勢の一人だとしても俺にとっては特別大事な友達だった。
 
 友情というのは同じだけの気持ちをお互いに持っていないと気分が悪いのだと俺は知ることになる。
 
 転入生は俺を友達だという。
 俺はそれをあえて否定しない。
 広い意味なら友達といえば友達かもしれない。
 幼いころに誕生日にもらった慣れ親しんだボールペンだって俺の友達だと言える。
 
 転入生からの友情を重いと感じて初めて俺は自分を振り返った。
 アイツにとって俺の友情は重かったのかもしれない。
 応援なんかいらないし、勉強の面倒だって見る必要はない。
 アイツに必要だったのは転入生のような自分の痛みを分かってくれる人間だ。
 自分がつらいときに手を差し伸べてくれたり一緒になって痛みを分かち合える仲間。
 
 俺は自分の気持ちは自分で決着をつけるべきだと思っていた。
 人はそれほど強くあり続けることは出来ない。
 弱音を吐き出させるのもまた友達としての役割だったのかもしれない。
 
 そう思うと俺はアイツの友達失格だった。
 アイツの友達としての俺だけはこの世界で唯一ただしいものだと思っていたのに、勘違いだったのだ。
 
 
 
「なあ、るんるん……生徒会に入るってマジか」
 
 
 転入して一カ月が経っても黄木(おうき)はこの学園のヒエラルキーを理解しない。
 生徒会について否定的なニュアンスを含んだ会話は人前でするべきじゃない。
 誰が聞いているのか分からないのだから。
 
「るんるんは確かに綺麗だし、親衛隊とかいうの? も、いるみたいだけどさぁ」
 
 頬を膨らませて拗ねたような顔をする同い年の男子にどんな感情を抱けばいいんだろう。
 顔面の筋肉を動かし続ける黄木は変な表情になっていることが多い。
 真面目な顔をしていると美少年と言えなくもないが表情がいつでも残念だ。
 
「ここの生徒会って忙しいんだろ。一緒にご飯も食べれないって」
「そうだね。今は会長しか仕事をしてないから雑用係が足りてない」
「あ〜、副会長たちが辞めたんだっけ。って、辞めたなら副会長じゃねえか」
 
 副会長が辞めたのは黄木が「仕事しないのに役員っておかしくないか」と言ったからだ。
 黄木が辞めろと言ったわけではないが、同じようなものだ。
 そして、副会長たちが辞めて不在となった穴を塞げる人間は限られている。
 俺は学年首席でクラス委員長をしていた。
 生徒会長とも少なくない面識があるので次期役員になるのは決まっていた。
 
 俺が役員として狩りだされれば黄木のとなりは俺の分だけ席が空く。
 副会長たちからすれば願ったり叶ったりだろう。
 
「あのさ、おれ、さぁ」
「……副会長、元副会長に押し倒された? 告白された?」
「なんでわかんの。るんるんってわりかしエスパー」
「好きだって言われてるのにスルーし続けるお前がおかしい」
「いやだって、冗談だって思うだろ。ってか、冗談にしてえだろ」
「それで?」
「わかんだろ。気持ちに答える気なんかないって。何度も断ってるし、好きとか言ってくるなっての」
 
 唇を尖らせるような黄木に俺は首をかしげる。
 
「きちんと答えを出して交際を断ったのか? それなのに言い寄ってくるのか」
「そうだよ」
「冗談だと思って聞かないふりをしたり、真面目に取り合わなかったんじゃないのか」
「……そうかもしれないけど」
「不誠実だな」
「っても!! でも、わかんだろ! おれにそっちの気がないって」
「と、同時に押しきれそうな隙を相手に見せてるんじゃない」
「はあ? なにそれ、男相手にねえよ」
「黄木になくてもあっちにはある。それが問題だろう」
「あ! はじめておれを名前で呼んだなっ」
 
 困り顔や不満顔から一転して笑顔を見せる黄木。
 意味が分からないが俺に名前を呼ばれて嬉しかったらしい。
 こういった無邪気さが元副会長たちの心をつかんでいるのだろう。俺には分からないことだ。
 
「るんるんはツンデレってわけじゃねえんだよな。まだおれのことを分かってないってか、懐いてないっていうか」
「話は終わりか」
「ちょ、ちょっと待てよ。なんで歩く速度を上げたっ」
「あと数メートルで一般生徒立ち入り禁止区域に入るが」
「まだ、待って、まだおれはるんるんと話したい」
「雑談なら部屋に帰って誰かにすればいい。誰かしらいるだろ」
「るんるんと話してえんだってば」
 
 俺は黄木の言葉を無視して歩いていく。
 後ろから「なあ、るんるん」といつもとは違う声で呼びかけられた。
 つい振り向いて後悔する。
 
「おれがるんるんのことを好きだって言ったらどうする」
「頻繁に聞いている言葉だな」
「友情じゃないよ。愛情だよ」
「意趣返しのつもりか」
「ほら、るんるんだってちゃんと返事をしないじゃんって? そうじゃねえさ」
「本気でお前が俺を好きでも、だから何だ。その気持ちに俺が答えるとは思っていないだろ」
「思ってるよ。おれはお前の大切な幼なじみの大親友だぞ? 立ち直った心をバラバラの粉々にしてやってもいいだぞ?」
「黄木はそんなことしない」
「あぁ、るんるんは卑怯だなぁ。そうだよ、おれはしない。おれは、な」
 
 無邪気に笑っていた顔がどこか恐ろしい。
 爛々と光るように見える黄木の瞳。
 不穏な空気は身に覚えのあるものだ。
 
 これから向かう先、生徒会室で仕事をしている会長と同じだ。
 
 会長は新入生代表としてあいさつをした俺に言った。
 自分の後を俺に引き継がせる、と。
 もちろん、断った。
 
 生徒会長など目立つことはなりたくないし、幼なじみの応援やテスト対策をしていたら生徒会の仕事はできない。
 
 俺は俺のライフスタイルを変えようとは思っていなかった。
 だが、アイツは怪我をして今や俺の支えは必要ない。
 むしろ、柔道に打ち込んでいないのに俺が手助けしようとすればプライドを傷つけるかもしれない。
 すでに俺はアイツを長い間ずっと傷つけていた可能性もある。
 
 黄木にすがりつきながら自分には柔道しかないのだとアイツは泣いていた。
 
 柔道などアイツの一部分でしかないと俺は知っていた。アイツのいいところは柔道の成績なんかじゃない。
 それでもきっと俺の言葉はアイツに届かない。
 発する前に俺はあきらめていた。だから、届きようもない。
 
「おれは何もしなくても願えば叶えてくれる妖精さんはいるもんだ」
 
 同じようなことを会長も言っていた。
 妖精さんというのは暗喩だ。
 人を使って自分の思い通りに状況を動かそうとしている。
 
「おれ、るんるんの顔が好きなんだ。どの角度から見ても綺麗でいいよな」
「……見てたいなら勝手に見ていれば」
「うんうん、るんるんならそう言ってくれると思ってた。だから、ずっと一緒にご飯食べてときどき徹夜でゲームして遊ぼうぜ」
「生徒会に入ったらそんな生活できない」
「だから」
「一緒に食事をしたいならお前も生徒会に入ればいい」
 
 口に出してから自分で逃げ道を潰している気がした。
 だが、新しい役員たちが揃うまであの会長と一緒にいるのは気分が悪い。
 
 同じ人種なら転入生である黄木と現在の生徒会長で潰し合ってくれればいい。
 自分を押し通したいもの同士ぶつかりあうことになるだろうから。
 
 俺の出した答えに黄木は見たこともないほど艶っぽく笑った。
 
 
「るんるんってホントかっわいい〜」
 

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るんるんの未来

→生徒会長になって何事もなく卒業(ノーマルエンド)

→幼なじみのアイツのあれこれに巻き込まれる(ちょっぴり不幸エンド)
→意外にも会長と転入生が意気投合して3P(不幸エンド)
→いろいろあって肉欲の言いなりになるビッチ調教を受けてしまう(ちょっぴりじゃない不幸エンド)

でも案外るんるんは幼なじみが元気ならビッチに調教されてもそこまで気にしないメンタルかな。

2017/07/23
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