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息ができなくなっていく感覚を知っている人はどれだけいるだろう。
言葉が出てこず唇が無駄に震える。
あの惨めな気持ちを分かってくれる人はどれだけいるんだろう。
たぶん、おれの顔がいとこのように整っていたり女の子なら父と母は幸せだった。
残念ながらおれの見た目は子供ながらに冴えないものだった。
母は父方の祖母におれの見た目の悪さをなじられ続けた。
父もまた結婚相手として母を選んだことを責められ続けた。
それはおれが七歳の年に妹が生まれたことで終わった。
顔立ちとしては妹もまた美少女とは言い難かったが祖母は溺愛した。
親戚の子供たちはみんな男で女の子は妹だけだったからだ。
祖母の手のひら返しに怯えながらも母は立派だった。
少なくとも両親はおれと妹を分け隔てなく育ててくれたし、妹も素直でかわいい。
幸せな家族に違いないのにおれの心は底辺で固定した。
楽しいことを楽しいと思えない。
なんの問題もない家族の中にいるのが苦痛でそのくせ一人でいるのもつらい。
毎日息をするのが億劫でそのくせ毎食きちんと口にしている。
非行に走るほどの動機も覚悟もない。
何に反抗したいのかもわからないままおれは酸素不足の中にいた。
状況を改善しようとおれは中学受験をする学園を自分で選んだ。
全寮制の中学で簡単な試験で内部進学で高校にそのまま進める。
高校も全寮制で卒業生には社会的に成功者が多数。
両親に中学受験の話をしたとき、心のどこかで反対されることを望んでいた。
引き留めてほしかった。
家族といると苦痛なのにそのくせ惜しんでもらいたがっている。
学力的に問題ではなく将来のためになると両親は受験を応援してくれた。
厄介払いではない。
おれの判断を信じて任せてくれたのだ。
わかっているのにどうしようもなく淋しくて息が上手く吸えない。
顔よし、頭よしのいとこがそこに入学すると知っていたらきっとおれはその学校を選ばなかった。
おれと似ても似つかない優秀ないとこは入学してすぐに人気者になった。
男子校なのにどこか女子校のようなノリがある。
グループ化して集団で動くクラスメイト達に違和感を覚えながらもおれはギリギリがんばっていた。
予習復習して平均点なのにいとこと比較されて低く見られるし、いとこの情報をねだられたり、いとことの顔つなぎを頼まれる。
いとこのことは祖母のお気に入りという感覚しかなく中学に上がるまでとくに話した覚えもない。
顔はお互いに知っていても同い年であるだけで何の関係もなかった。
周りはそうは思わないようでいとこの特別はおれだと信じていた。
最初に顔つなぎを頼まれていとこを呼び出して引き合わせたのがいけなかった。
いとこは何故かおれの呼び出しを無視することがない。
他の誰かが手紙を渡しても読まないがおれが渡すとその場で開封して目を通す。
おれといとこの会話は多くないし殊更いとこから好かれているとも思わない。
中学はそのまま友達もできないまでも、いとこ関連の知り合いが増えていった。