俺からすると茶番にしか見えないが何も知らない転入生には違う。
 見知らぬ人間に取り囲まれる恐怖は並大抵じゃないだろう。
 
 空気を読まないと思っていたが今の状況は把握しているらしい転入生。
 
 クラスや親衛隊の人間にでも目立たないようにと忠告を受けていたのか、以前の学校で似たような目に合ったのかはわからない。
 それでも震えながらも覚悟を秘めた顔をする転入生は男前だった。小奇麗な顔で俺よりも華奢な体格だが絶対に負けないという気概を感じる。
 
 パーソナルスペースを理解せず敵を作ったとしてもこの場面で他人を心配する転入生は水鷹より人間的に優れている。
 少なくとも転入生は俺を庇っているつもりでこの悪ふざけの渦中にいる。
 茶番だなどと思うことなく本気で俺を守ろうとしてくれている。
 水鷹や俺とは全く違う精神構造をしている。だからこそ転入生と俺たちはそりが合わないのかもしれない。
 
 座り込んだ俺の下半身をこの場の全員で覗き込むのはやめてほしい。
 転入生じゃなくて俺がいじめられている。
 
 背中側に回された手は親指と親指を結束バンドでとめられた。
 こうされると身動きがとれない。
 俺の首筋を舐めてくる会計をセンパイとはいえ会長だからか水鷹がホワイトボードでバンバン殴る。
 どんな状況でも親友は親友として俺の味方でいるらしい。バカなのに筋が通っている気がするのが悔しいところだ。
 
 なぜかその水鷹とセンパイの攻防を転入生が「仲間割れはやめろよ!」と仲裁する。
 
 そこは仲間割れしてるバカの隙を見て逃げろ。口の中にハンカチがなければそう言ってやった。転入生もまたバカだからこそ逃げるという発想が浮かばないんだろうか。
 俺を残してはいけないと思ってるならバカではあるが良いバカだがどうしようもないバカでもある。
 そして、たぶん転入生は良いバカだが取り返しのつかないバカでもあるんだろう。
 
 四つん這いになって尻をローションで汚されて水鷹にほぐされているという状況になっても「山波を守る」と言って抵抗しない転入生。
 本当は犯されたいんじゃないのかとゲスの勘ぐりをしたくなるがたぶん転入生には善意しかない。
 俺のために変態の言い分を飲まなければいけないと覚悟を決めている。
 
 そして、転入生の尻を責めている水鷹は当初の目的を忘れている。
 根を上げるまでとことん追い詰めてやろうという趣旨から外れてこのままいただいちゃっていいんじゃないのかというゲスな考えに至っている気がする。水鷹あるあるだ。
 目先の欲求に素直なやつなので据え膳を食わないはずがない。
 慎みという大切な日本文化の継承を拒んだ男だ。
 いつもがっつきがちな水鷹をいさめて俺が抱かれる側の面倒を見ていた。
 中には処女だっていたのだからどう考えても準備が必要だ。
 
 水鷹は自分が気持ちよければいいので相手の状況は二の次だ。
 嫌がられたくはないし気持ちよくはさせたいみたいだが他人に合わせたペース配分などしない。
 自分が気持ちの良いように腰を動かす。
 アフターフォローを俺がするが、さすがに問題だと感じたら水鷹をとめる。
 今までそうして誘導してきた。
 
 愛撫しながらのほうが具合がいいと教えればその場はなんとかやりすごせる。ガンガン行こうぜの勢いを削げるのは大きい。
 自分本位のバカではあるが、だからこそ自分が気持ちよく感じるためならすこしは考えて動くこともできる。
 理解力のないバカではないのが瑠璃川水鷹の救いだろう。
 
 スラックスと下着をおろされ、外気にさらされた俺の性器を転入生に舐めるように水鷹が指示を出した。
 作っていた音声もなくなったのか素の水鷹の声だったが転入生は気付かない。
 バカばかりで作り上げられたバカな空間に俺を巻き込んでほしくないが、ここまでされても気づかない転入生はどうかしていると暇をしているセンパイである会計はツッコミを入れるべきだ。
 
 そしてこの状況で水鷹を嫌っていない俺が誰より一番バカな気がする。
 バカだバカだと内心で罵りながらも俺のために動いているような水鷹にテンションを上げてしまう。
 
 この茶番の後始末を放り投げて反省させたい気持ちがあるのに最終的に俺は手を貸してしまう気がする。
 困って頼られたら仕方がないと肩をすくめて水鷹への被害を最小限に食い止めるだろう。
 家族に見捨てられたら散々愚痴ってバカにした上で面倒をみるに決まっている。
 
 
 下半身丸出しで俺の目の前で他の男を脅してレイプするような最低な人間を助ける手段ばかりを考えている俺もまた最低最悪だ。
 水鷹が友情を盾にして無抵抗を転入生に強いる。
 理不尽な要求に従う転入生のほうが俺のことを思ってくれている。
 俺のために耐えてくれていることに何も感じないほど薄情でもない。
 
 転入生の舌先が萎えた俺の性器に触れる。
 
 息遣いから伝わってくる怯えに落ち着かない。
 嫌がらせの手段として性行為なんて考えたこともなかった。
 もちろん、それを選ぶ人間がいることは知っている。
 デリケートなことだからこそ踏みにじろうとする人間はいるものだ。
 
 俺は人と揉めるのは面倒なことだからずっと避けていた。
 水鷹の損得勘定で動く時ですら俺のせいじゃなく水鷹のためですという顔で責任は俺に来ないようにしていた。
 泥をかぶって水鷹に尽くしていたらさすがに友情の範疇を超えている気がした。
 好きな相手が世間的に悪く言われようとも俺は俺の気持ちを水鷹に伝える気はなかった。
 あくまでも面倒見のいい親友という立ち位置で水鷹のバカみたいな発想に付き合ったり水鷹の始めた事態の後始末を請け負っていた。
 全部、ギリギリ友情の範囲だと思いこめたからできたことでもある。
 
 誰も俺と水鷹の友情を疑わない。
 友情自体もあるのだから嘘じゃない。
 
 腐れ縁だと笑いながら水鷹をバカだと呆れながら俺はいままで水鷹の言動のすべてを受け入れていた。
 バカだから間違いを犯すと俺は水鷹を庇い続けてきた。
 限度があると感じてはいても水鷹を理由にして俺は自分のために生き続けた。
 
 結果としてすべてが返ってきたとしても自業自得だ。
 これ以上にない因果応報。
 
 わかっていても怠惰な自分を恨みたくもなる。
 こんなことになるのなら先に手を打っていた。
 
 
 
 水鷹が俺の性器を深く咥えこむように転入生に指示を出す。
 素人にだいぶ無茶な要求だ。
 それでも転入生は反抗しない。
 
 現状の異常性に興奮したのか単純に俺のことを好きだからか勃起する転入生を水鷹がいじる。
 クズの所業。三下の悪役のようなことを平然とする水鷹はそのまま転入生の尻に挿入しようとする。
 
 指で慣らしてはいたが慣れていないアナル初心者なら挿入がまだ早いと経験でわかる。
 横を見てセンパイである会計にとめるよう視線で伝えるがキスされそうになった。まったくわかっていない。
 頭突きをすると肩を落として泣きだした。心が弱すぎる。
 抱いてとか抱いてもいいと言っているわりにセンパイは童貞処女なんだろう。口先だけだ。
 
 反対側にいる書記を見ても首をかしげるばかりで使えない。
 水鷹自身にやめるように床を足で叩いてみるが伝わらないどころか拗ねられた。
 面倒になったのかお手製の書類仮面をとって不満げな目で俺をにらむ。
 俺の態度が転入生の味方をしていると思ったんだろう。
 
 いつも俺がすぐに挿入できる状態で水鷹に相手を提供しているせいで事の重大さがわかっていない。
 
 せめて俺と違って拘束されていないのだから抵抗しろと転入生に腰を引くことで伝えようとするが、なぜか俺の性器を追って喉奥まで咥えこむ。顔を上げて俺を見る転入生は「オレのことは気にしないで気持ちよくなって」という表情をしている。かわいい見た目なので俺が水鷹のような好みなら涙目の上目遣いにグッときたかもしれない。
 
 残念ながら感じたのは恐怖だ。
 迫りくる圧迫感。
 さながらその緊張感はギロチンが首に落ちてくる瞬間に似ているかもしれない。
 首を落としたことはないが心臓の音がやけに大きくて体が強張って動かなくなっていく。
 すべてをかなぐり捨てて暴れたらまだどうにかなったのかもしれない。
 
 とくに挿入することを転入生に言うこともなく水鷹は腰を一気に押し込んだ。
 わかりやすく労りが足りない自分本位を見せつける。
 悪意やいやがらせといった気持ちは水鷹にない。いつも通りにしただけだ。
 
 転入生が声にならない声を上げる。
 ローションも足りてなさそうだったので痛みより衝撃とショックが大きかっただろう。
 前のめりになった転入生は思いっきり口を閉じた。
 痛みをやり過ごすために奥歯を噛みしめようとしたのだ。
 予想できた事故だったが危機感を覚えていたのは俺だけ。
 それがこの件における一番重要なことだ。
 
 俺の今までの行動が予定調和として今回のことを引き起こした。
 
 レイプされている被害者なのだからふざけるなと蹴り飛ばしたくなっても転入生を責められない。
 意識があったなら思い切り蹴っていたかもしれないが俺は幸いにも情けなく気絶した。
 痛みすら感じたかどうか怪しい。
 
 噛まれると感じた焦りは誰にも伝わらず予想通りになったが男性器を鍛えたこともない俺には耐えられるものじゃなかった。
 
 これはどうしようもない事故ではあるが、身から出た錆でもある。
 俺は俺の怠惰で自分の首を絞めた。
 
 物事は早めに対処して地盤を固めるのが後々楽をする方法だ。
 セックスに関しても似たことを俺は思っている。
 前戯は大切だ。無理やりにこじあけるのではなく相手の心と体の緊張と警戒をとりのぞくのが長期的に見て得をする。
 
 水鷹の機嫌を取って転入生よりも面白く刺激的な何かを与えればよかった。
 その程度のことで回避できた悲劇だ。
 
 親衛隊をふくめて転入生を刺激しないように伝えておけば今回のことにはならなかっただろう。
 いつまでも水鷹に執着して瞳を曇らせていたのが悪かった。
 好きになんてならなければ良かったと何度となく思ったことをまた俺は頭の中で繰り返す。
 
 男を好きになるということは男としての尊厳の破壊すら受け入れなければならないんだろうか。

※作品にピンときたら下に書きこんでいただけると大変助かります!
気にいった作品だと主張する(1)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -