謎の乱交空間、俺のファーストキス損失のあの一件から俺と水鷹の関係はゆるやかに変化していった。
 
 
 友人同士であるのは以前から変わりないし、親友として水鷹のフォローをするのもまたその頃に始まったことじゃない。
 水鷹のわがままな願いを聞くなんていつものことで気にするようなことじゃなかった。
 ただ俺の感情は以前と同じことをしていてもまるっきり違う。
 
 好きであることを自覚すると頼りにされることが嬉しいと感じる気持ちが強くなった。
 そして俺はどんどんと水鷹に頼りにされたがるようになってしまった。
 自覚しても感情が制御できない。
 どうしたところで水鷹寄りの考えや言い分になって水鷹の損得を水鷹よりも考える。
 水鷹至上主義であることを内心で恥ずかしくバカバカしいものだと思うのに俺はとまらない。
 
 高校における親衛隊長という役割はたしかに俺にこそ相応しいものになり、最低最悪であることの大義名分になった。
 
 水鷹のせいで、水鷹のために俺が極悪人になっていくことを嘆き憂う人は多い。
 俺が原因になって水鷹を恨み、水鷹を蔑む人間も出てきた。
 わかっていても俺は水鷹を理由にして動くことを止められない。
 それを愛と思ったわけじゃない。
 けれど、俺と水鷹の確実なつながりだと思った。
 
 あの乱交パーティー以降、水鷹は俺に下ネタを振ってくるようになった。
 今まで無視していたその話題に俺が積極的に乗るようになったせいもある。
 水鷹は単純なので親友である俺と話題を共有するのが嬉しかったのだろう。
 
 最初はたぶん、そんなところ。
 以前との違いは些細なものだったかもしれない。
 
 それでも最初は小さなゆらぎでもやがて大きな波紋になるように俺と水鷹は変わっていく。
 
 水鷹が気にいる女の大体は水鷹よりも俺を選ぶ。
 何がいいのか知らないが俺に抱かれたがるし、人によってはストレートに愛を欲しがる。
 
 水鷹も含めてのセックスならいいと伝えると半分以上が了承した。
 俺と水鷹という集団の目立つツートップに愛される自分というものに酔うらしい。
 
 その後に正式に水鷹と付き合って三日で別れる女もいれば、俺と付き合いたがってキープにおさまる女もいた。
 俺自体が誰かと付き合ったことはないし、付き合おうと思ったこともない。
 わざわざ俺に告白する人間は本命になることを最初から期待しない人間が大半なので面倒なことになることはなかった。キープされて都合のいい存在だと扱われているのを分かった上で満足する心境というのが俺には理解できない。自分を誤魔化しているのかあるいは水鷹に対する俺のような気持ちでいるのか。当人である彼女たちに聞いたことがないので分からない。
 
 俺がいることで今まで以上にセックスの相手に困らなくなった水鷹は上機嫌になり、それを見て俺もまた満足する。俺が満足していれば女たちもまた満たされているらしいのでいい循環だと思った。
 
 水鷹は複数でするのが好きというよりも性的なことにこだわりがない。
 気持ちがよければなんだっていい。
 
 気分が盛り上がれば気軽に俺ともキスをするし性器にだって触れる。
 笑いながら俺にだったらフェラできると水鷹は言う。たぶん、水鷹にとってそれだけ俺の存在が近いのだ。
 親愛の情なら誰にも負けないほど水鷹からもらっている。そこだけは間違いない。それで我慢しておくしかない。
 
 水鷹と疑似的に繋がるような女を交えた三人のセックスは満足感と虚無感と胸の痛みを俺にもたらした。
 不毛だと思うと憂いの影を俺は背負いだすらしい。その俺の姿に女たちは口をそろえて力になりたいと言った。年齢も職業も立場も関係なく彼女たちは何かの取り決めがあるかのように同じ言葉を口にする。異様さは感じるものの便利に使わせてもらった。
 俺は誰かにどう思われるかではなく水鷹にどう思われるのかだけを考えていた。
 
 
 
 高校に入り水鷹はもっと手軽な気持ちのよさを求めた。
 
 結果、依存症なほどに毎日セックスをするようになる。
 生徒会長としてのストレスがそうさせるのか水鷹は肉体的な快楽を欲しがり続けた。
 俺は水鷹を会長にしたせいもあって水鷹の望みをかなえることが義務だと思っていた。
 
 性行為の頻度の高さから女たちに都合をつけさせるのは難しい。
 寮生活なので学園から街に出るまでの往復の時間も毎日となると負担になる。
 
 水鷹は男でも構わないというので俺は学園で見つくろうことにした。
 
 全寮制の男子校で親友の性欲を処理する相手を見つけて揃えるなんて冷静に考えるとどうかしている。
 どうかしていたとしても水鷹に対する執着が薄れるわけもない。
 
 好きな相手に喜んでほしいという単純な感情で俺はなんだって出来た。
 心がブレーキをかけたがるのに俺は止まることを知らない。
 
 水鷹が興味のあるそぶりをした相手が男でも女でも俺が声をかけて場をセッティングする。
 間違っているなんて初めからわかっている。
 けれど、それがもう普通になってしまっていた。
 
 相手の大半は俺とどうにかなることを望んでいて水鷹を見ていない。
 それは水鷹を好きな俺からすれば好都合だった。
 自分が連れてきた相手でも水鷹と一瞬でも恋仲になっているのを見るのはそう面白いものじゃない。
 俺のことを好きな相手はいやいやか妥協して水鷹に触れることをゆるしている。
 あるいは水鷹のことを憎からず思ってはいても比重として俺の方が上という人間が多い。
 どちらも俺から水鷹をとっていかない安全な人間だから、そういう意味では結構好きだ。
 水鷹と俺をつなげるための道具として考えると優秀なので愛おしさすら感じる。
 
 かわいくてエロくてその癖ちょっと恥じらってるような自分よりも身長の低い相手が水鷹の好み。
 だから、慣れて乱れてくると切りどき。
 そのくせ水鷹はいやがられたり痛がられるのがイヤ。
 前戯は面倒ですぐに突っ込みたがる。
 矛盾しているというよりも自分の快楽を優先しているだけだ。客観性がない。
 
 水鷹が好きだというやつでもふたりっきりのセックスよりもフォローしてくれる俺がいたほうがいいというやつは多い。
 どんな夢を見ていたのか水鷹と一夜を共にすると理想は崩壊して幻滅する。
 雰囲気からして遊び人で慣れて上手そうに感じるが水鷹は雑だ。挿入したいだけの男に丁寧さなど求めるもんじゃない。
 
 高校も二年になると俺が何回か関係を持って挿入が楽な相手としかやりたくないと言い出すほどに怠けた。手抜きが過ぎる。
 穴に入れて射精できればいいと思っている、言ってしまうとクズな考えを全面に出す水鷹。
 それでも俺は水鷹を嫌ったりできなかった。
 
 
 人気を落としていく水鷹に安心するような俺は水鷹を好きな人間としても水鷹の友人としても水鷹の親衛隊長としても最低だろう。
 誰よりも俺が俺自身の汚さとずる賢さを知っている。

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