「一周年記念
単語リクエスト企画」
リクエストされた単語はラストに掲載。
先に知りたい方は「
一周年記念部屋、単語リクエスト企画」で確認してください。
※攻め視点を踏まえた上でのリクエスト消化になります。
ヤンデレファン×子役上がりアイドル兼俳優
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愛されてちやほやされるのは気持ちがいい。
成金と言われても贅沢にお金を使って目立つのは快感だ。
けれど、転落などどこにでもある。
上手くいっていた分だけ悪いことが起こる。
そういった法則は誰にだって見覚えがあるだろう。
要領よく進む上り調子な人生は他人の目から見て気味が悪いに違いない。
自分からは動かなくても上にいる人間が足を引っ張られる姿を楽しく眺めるのだ。
人の不幸は蜜の味。
今まで甘い汁を吸っていたのだから罰が当たったのだとほくそ笑む。
仲がいいと思っていた共演者に陰口を叩かれ、スキャンダルをでっち上げられ脅された。
いろいろとうっぷんが溜まったところで煽られ短気を起こして暴力騒ぎ。
世間からは当然のように袋叩き。
自分が隙を見せたせいだとしても人間不信になって仕方がない。
俺は自分のことを知らない。
いつでも演じて装ってきた。
怒りを制御するべきか否か自分で判断できなかった。
流れに身を任せて受け入れたふりをする、そういう人間を演じるべきだった。
きっとそれが賢い選択だ。
物心ついたころから子役として普通では考えられないスケジュールの中で生きてきた。
最初は安く買いたたかれてもCM契約が決まったり人気が出るとギャラは跳ね上がる。
妬みや僻みは人気があるからこそ貰うものだ。人気の指標ともいえる。
誰もが幸せになりたいけれど、無条件に最大幸福は得られない。
文明度が高くなるにつれて人々の要求水準は上がり幸せの定義が広くなる。
ネットという情報ツールがなく、テレビというメディアがない遠い過去のことをいくら聞かされたところで理解できない。
生まれた時からあるものがなかった世界など異世界と同じだ。
けれど、異世界の方がよっぽど楽だろうと思うほどに疲れていた。
藍澤(あいさわ)小晴(こはる)は、俺は、この世界に必要とされたがっていた。
愛されたかったから望まれる子供の理想像を身にまとって生きていた。
すると子供らしい演技をしている子供がムカつくとよくわからない批難を受けた。
現場や視聴者に求められていたと思っていたから俺は子供らしくあったのだが、一部からは批難中傷。
わざわざ同じ事務所の先輩が俺の悪い評判を伝えてきた。
そのときに泣いたり落ち込んだりすれば、まだマシだったのかもしれない。
俺はオフタイムだったので何も反応しなかった。
面倒だった。
事務所の先輩といってもテレビでの露出は俺の方がすでに上で、知名度も俺の方が上だった。
怠惰からくる無反応は生意気だと思われたのか、じわじわと俺への嫌がらせは増えていった。
小学校ではちょっとしたヒーローで好かれていた。
それが中学では一転していじめられっ子。
これは臆病でひ弱な役を長期シリーズのドラマで演じてしまったせいかもしれない。
小学校ではテレビに出ているだけで英雄で誰もが気をきかせてくれた。
だから中学での扱いに俺は耐えられなかった。
生々しいいじめは演技の肥やしとして機能すると分かっていても俺は愛されたがっていた。
好かれて持てはやされたい。
お金より何より、俺の中にあったのはそういう欲求だ。
おいしいご飯を食べれられたら幸せ。
安定した仕事を得たら幸せ。
ひろい家に住めたら幸せ。
俺の幸せは分かりやすくテンプレート化された中にはない。
人はおいしいご飯を毎日食べればその都度の幸せを感じにくくなる。
当たり前は幸せではない。
日常と呼ぶ。
おいしいご飯も安定した仕事もひろい家も日常であり、幸せになるための必要最低限の前提になる。
人は幸せであることに幸せを感じ続けることができない。
今の幸せよりも高いレベルの幸せを得るか、不幸を味わうことで今が幸せになる。
だから俺は愛され続けることができないのだと諦めた。
諦めるような考え方の役を演じたのか、諦めなければ疲れると思って割り切ったのかは分からない。
俺は与えられた役と自分の演じ分けが下手くそになっていた。
テレビに出過ぎたせいか飽きられた俺は子役としての仕事が消え、アイドルグループのメンバーになった。
学業を優先なんてアナウンスしながらスキャンダルの風化を待つ。
アイドル企画は俺にとって追い風だった。
写真集はバカ売れでCM契約は複数決まった。
グループの他のメンバーよりも段違いで俺だけが人気になった。
主題歌を歌いながらの主演ドラマは大当たり。
実写向きの原作漫画がマイナーだったこともあって小晴旋風だとか連日持ち上げられた。
そして、スキャンダルで袋叩き。
芸能界が俺に「お前の席ねえから」とでも引導を渡してくれればいいのにまた世間の叩き熱が冷めたら復帰。
こんなことが繰り返されて俺は心底疲れていて、嫌になっていた。
耳に心地いい言葉は社交辞令に思えてしまって、俺に対する嫉妬心だけが本物。
嫉妬は人気の証だから嫉妬されている間だけは俺は世間的に評価されている。
そう思えていた。
強がりでも平気だということにした。
弱さを見せない人間という役を演じた。
本当の俺は分からない。
「きめーんだよ、豚」
腹筋の割れたあおむけの男を踏みつける。
勃起した陰茎ではなくみぞおち当たりに体重を乗せる。
吐いたり苦しんだりするかと思ったが変態は悦びに瞳を潤ませた。
「こはるん、やさしい!! ヤンキー脱出物語の主人公、比嘉獅(ひがし)神威(かむい)くんの初登場時の台詞だよね!」
感動に震える変態は跳ね起きたと思ったら俺の足にへばりついた。
息が荒くて気持ち悪い。
「こはるん、腰細いよ。ちゃんとご飯食べてる? 雑誌に偏食だってあったけど嘘だよね。こはるんってば小食なだけで何でも食べてる。でも、冷たいのは苦手かな? アイス噛めないよね。ソフトクリームゆっくり食べてる動画マジやばい。スタッフ分かってるってか変態だよ。ショタこはるんのソフトクリームぺろぺろ動画は何万回見たかっ!!」
気持ち悪く熱弁する男は自称、俺のファン。
なんで自称なのかというとファン歴半年だというからだ。
俺のテレビの出演歴を考えると舐めている。
テレビを見ないような生活をしていたから俺のことを知らなかったという。
本当なのか嘘なのか調べようもない。
信じて騙されてやってもいい。
嘘つき野郎だと罵って遠ざけてもいい。
俺はこの変態に首輪をつけられて監禁されているが、それに嫌悪感がない。
駅に貼っていた俺のポスターに一目ぼれをして俺の過去の映像から何からを集めまくって、ライブや握手会にも来たという。
半年間の間によくそろえたと拍手を送りたいほどにスキャンダルの裏どりを含めて変態は藍澤小晴を知っていた。
俺すら知らないような藍澤小晴情報に逃げ出そうという気持ちが折れる。
自分のことが俺はあまりにも分からなくなっていた。
役の演じ分けはできるのに軸になるはずの自分に触れられない。
他人から求められたキャラクター性やドラマの役ではない素の自分が育っていない。
子役として人の顔色をうかがって演じ続けていたせいか、自分自身があやふやだ。
批難中傷され、スキャンダルをでっち上げられ、人から妬まれる存在こそが俺の素なのかと思うと気分が悪い。
「好きっ! すきぃ!! こはるん、かわいいよ、かっこういいよぉ、きれいだよぉ」
俺の腰に抱きついてハアハア息を荒げる変態は何者なんだろう。
ファン歴半年なんていうミーハーなファンにしてはくわしい。
俺を芸能界から追い出すための刺客なら俺よりも演技が上手い。
好きだ、愛してるなんて今までいくらでも言われてきた。
俺とのスキャンダルを利用して知名度を上げようとしたグラドルは何人も見たし、プロデューサーやスポンサー関係者に色目を使われたことだってある。
ドラマで演じるような甘かったり苦かったり一生懸命で一途な恋愛なんかどこにもなかった。
その場限りの刺激がほしい火遊びだ。
ドラマティックな人生がそこここに転がってるなら誰もテレビを見たりしない。
分かっていても俺はどうにも受け入れられない。
「こはるん、おれのお嫁さんになって。ずっとお家にいてっ」
事実上、芸能界引退を求める変態の訴え。
拒絶したら殺されるのか、それともあっさり解放してくれるのか。
「おれ、こはるんのこと本気だから! 趣味の露出オナニーもやめてエロ動画全部削除して、エロ本も全部捨てて、オナホも、ラブドールも、空気嫁も捨てたよ。こはるん以外で精子出すなんて浮気だからね。こはるんの汗が染み込んだハンカチとかTシャツとかでこはるんに触れられない日は我慢してたよ!!」
ハンカチやTシャツは視聴者プレゼントの品だろう。
ここ半年以内に放送された番組で該当するものはあった。
「こはるんの歌を聞きながらオナニーするし、テレビのこはるんにぶっかけたりもするけど、やっぱり生身のこはるんが一番っ!! 良い匂いするし、小顔でかわいいし、スタイル良くて格好いいし。舐めまわしたいっ」
人のへそのあたりに熱い息を吐き出し続ける変態の頭をなでる。
さっきまで無精ひげが汚らしかったがシャワーを浴びるように言うとひげを剃って綺麗にしてきた。
歯を磨いて爽やかな息のすこし清潔感のある変態になったと思ったら「蹴って」と言ってきた。
そして、ヤンキー脱出物語の主人公、比嘉獅神威を引っ張ってくることになる。
本音で言えば俺は殺されてもいいのかもしれない。
疲れていて面倒になっている。
愛されていたい。
愛され続けたい。
それが俺にとっての幸せだからだ。
一緒にオーディションがんばろうと言っていた相手から汚い手で役を手に入れたと批判されたり、俺から聞いた話として嘘の噂を流されたり、面識のない相手から非常識で無礼な人間だと評価されたりと世界は訳が分からない。
俺の願いは普通の世界では叶わない。
幸せであり続けることがないように愛され続けることもない。
俺という軸が見当たらないのは心のどこかでここが俺のいるべき場所じゃない、なんて思って逃げているからかもしれない。
現実や世間という目には見えないものが俺に敵意を向けている気がして仕方がない。
「好きっていつまで?」
「暮れゆく空に君との約束の最終回前のヒロインを問い詰めるシーン!!」
「明日になって目が覚めたら終わっちゃうぐらいの好き?」
「ありがとう、こはるん! おれ、ずっとあのシーン好きで、うるんだ目と夕暮れの背景とか綺麗でかわいくて切なくて何度も見たよ。自動的に脳内でエンディングが流れ出すね!!」
俺の手を引っ張ってソファに座らせたかと思うと「女優に言ってるんじゃなくてテレビの前の俺に言ってるって感じのカメラワーク最高だった。監督か演出家かカメラマンかは知らないけどわかってるよね」と言いながら下半身を露出する。
「おれの命ってチンコだと思うんだ。だから、こはるん、握って。おれのお嫁さんになりたくないなら握りつぶしていいよ。こはるんにだったら、おれの童貞チンコを任せられるから」
身体を鍛えているらしいので腹筋は割れて、顔立ちは精悍だ。
言動が変態でしかないが口を閉じればサッカー選手のイケメン枠に入りそうな見た目。
それなのに俺を今後も継続して監禁したがる。
「好きだなんて今だけだろ。時間が経って冷静になったらお前は後悔するんだ」
「こはるんに軽く握られただけで我慢汁だらだらして射精しそうな勃起チンコに後悔とか永遠にないね!」
変態を嘘つきだと思い込めたら楽だ。
俺に関連した品物だけで埋め尽くした部屋。
飲み物として出された清涼飲料水は俺がCMに出たものだ。
お菓子や家具も俺が宣伝したり制作に携わったもの。
カメラの回っていないところでアドバイスをして商品化された物すら置いてある。
部屋中から俺の匂いがする場所。
「俺を飼う経済力、あんたにあんの?」
「年下ペットくんと年増なアタシ!! あれは女優の演技がクソだった。こはるんは死ぬほどキラキラ俺様イケメンなのに読モ上がりのブスうざい」
「どうなんだよ」
「低音ボイスちょう格好いい。イッちゃうよぉ」
両手で顔をおさえて肩を震わせる変態。
耳が真っ赤になっているので演技や冗談ではなさそうだ。
「自宅でちょっとした仕事をしてる。遺産相続で土地とかもらっててマンションとかアパートの家賃とか何もしなくても毎月収入があるから、こはるんの一人や二人いや、百人ぐらいは養うよ」
俺は百人もいないがマンションの広さからして収入が安定しているのは嘘ではなさそうだ。
手の中で脈打つ陰茎と顔を真っ赤にしている男。
「俺のこと、こはるんって言うな」
そう口にすると変態は何故か射精した。
絶頂の余韻に体を痙攣させていて気持ち悪い。
驚いて陰茎から手を離して汚れた手のひらを男の服でぬぐう。
そんな俺の手を握った男は泣いていた。
泣きながら「小晴、愛してる」と口にした。
思わずドキッとするような真剣な表情で「好き」と絞り出すように訴える。
これがカメラの前なら役者魂に火をつけられるが、どこにもスタッフはいない。
ここに居るのは俺と名前も知らない変態だけだ。
「小晴、はじめて台本にない言葉を口にしたね」
バラエティにだって台本があって、アドリブも演技の内だ。
俺の中の素の言葉は消えていた。
役者であってもアイドルであっても決められた枠を超えた言動はNGだ。
編集でカットされる無駄なコメントはいらない。
「おれのためだけの小晴の言葉をもっと聞きたい」
鬼気迫る泣き顔は怖かったり気味が悪いものなのに見失っていた俺という人間を探そうとしているのが分かってしまう。
俺を欲しがる気持ちが本物なんだと知ると監禁されることが悪いとも思えない。
脚本家が書いた言葉なのか俺自身の心が発した言葉なのか自分が分からなくなっても目の前の変態はちゃんと区別をつけて俺を見つけるつもりらしい。
それなら俺たちは利害が一致しているのかもしれない。
「飽きて投げ出さないっていうなら俺の時間をくれてやる」
「うん、おれだけの小晴」
本当に俺が好きだからか、絶倫野郎なのか、変態の股間はまた存在を主張し始めた。
俺は俺を知らないが、この変態のことはもっと知らない。
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「
監禁、キモオタ、翻弄、首輪、監禁願望、演技」
NG「
スカトロ、DV、貧乏、不細工」という単語リクエストからでした。
攻め視点を踏まえた上でのリクエスト消化になります。
藍澤小晴を男前美形受けというカテゴリーに入れていいのか悩んだりしますが、
元子役受けやアイドル受けはもっと違和感があるので……。
(美形受けだけだとまた雰囲気が違う気がしています)
2017/07/13