六 スパダリってスパイシーなダージリン?

 親からのメールの件名に「忍耐力テスト一級合格証明書 立花宗茂」という謎の文字。

 中を見ると転入生がやってきてからの数日のオレの行動への評価が事細かに書かれていた。
 知らないうちにスマホが壊れた。硬くて丈夫なケースに入れていたがスマホもケースも案外弱いらしい。
 人間不信に陥るか副会長を血祭りに上げるか転入生を蹴り飛ばすか考えながら歩いていると喜佐峰がいた。
 思わず泣けてきたが涙はこぼれることはない。
 自分は騙されて踊らされていたのだ。
 言葉が出てこないでいるオレを心配するような喜佐峰。
 嘘の空気を感じない。

 何も言いだせずにいるオレを屋上の庭園に連れてきてくれた。
 日が落ち始めているので少しだけ熱を孕んだ風が気持ちいい。
 湿気が低めだからか今日は暑さをそこまで感じない。

「喜佐峰はどこまで知ってたんだ?」
「……テストの話なら今さっきだ。たぶん、リツカの読んだものと同じものが送られてきた」
「そっか」

 今回のことに喜佐峰は関係ないらしいとわかったことでオレの気分は底辺からさっさと這い上がった。
 どうでもいい話だ。


 庭園でヒマワリの発育具合を見ながらキスしたり、キスしたり、キスしたりした。
 喜佐峰が風紀委員長として呼び出されたので仕方なく送り出す。
 雑草を抜いたりして庭園を整えている緑化委員会の後輩が小さく息を殺していてかわいそうだったので「遅くまで頑張りすぎるなよ」と一言つげて生徒会室に行く。

 どうでもいい話ではあるが副会長に事情を聞かなければならない。



 オレが何かを言う前に生徒会室の扉を開いた直後、紙飛行機が飛んできた。
 中を見ると「ごめん」の文字。
 さらに飛んできた紙飛行機には「犯人は両親」とあった。
 良心の書き間違いだろうか。
 喜佐峰に会う前は顔を見たら確実に殴ると思ったが今はそんな気分でもない。

「とりあえず壊れたスマホとケース弁償な。それでいい」
「はいっ!! って! はぁ!? ムネさまの頑丈すぎて感度の悪い特注なケースに入れてましたよね? 壊れましたか?」
「あぁ、もう使えねーだろ」
「これは……そうだなぁ」

 紙飛行機責めがないので生徒会室に入り副会長の机の上に壊れたスマホを置く。
 目に見えて死んでいる。
 データは常にバックアップを保存しているので問題ない。

「じゃあ、説明してもらおうか」
「喜佐峰委員長が、ヤツがスパダリだからいかんのですよ。俺は悪くないです。ホントです!!」
「はあ? たしかに喜佐峰はスパダリかもしれねえけど、それがなんなんだよ」

 スパダリが何か分からなかったが反射的に話を合わせてしまった。
 だが、言葉の響きからいって略称だ。
 喜佐峰が関係するというんだからスパイシーなダージリンティーのことだろう。

 喜佐峰は器用なので毎日の食事はもちろんのことお茶の淹れ方もお茶ごとにきちんと分けている。
 知り合いがこだわる人たちなのでご飯に合わせていろんなお茶が出てくるし創作デザートでもお茶シリーズがある。
 複数の茶葉を使い分けるなど朝飯前な出来る男だ。
 知らない国の耳慣れないお茶の名前が喜佐峰の口から出てくることはある。

 思い浮かべると喜佐峰はマメで卒がなく完璧にしか見えないがオレの心が見透かされているようなのに本当のエスパーではないように完璧ではない。
 いつだったか予定の茶葉がなかったと肩を落として喜佐峰がダージリンでチャイを作ってくれた。
 ストレートで飲むのがベストらしいダージリンを使ってチャイをリクエストしたので作ってくれた。
 問題なくおいしかったのだが「俺はこだわりはないと思っていたんだが……もったいない気分になるな、これ」と喜佐峰は珍しく悲しそうな顔をしていた。
 つまり喜佐峰にとって失敗のような引っかかりはあのお茶のことだ。
 
 聞き慣れないスパダリはお茶のことだ。
 チャイはスパイスを入れている。
 他にまったく思いつかないし、チャイを飲みたくなってきた。

「高校に入って目立った傷害事件がない……というか、中学もだいぶ少なかったから……なんと言いますかねえ、疑われておりまして」
「はぁ?」
「息の根を止めているかトラウマを植えつけて黙らせてるか」
「オレがトラブルを起こしてないのがおかしいって?」
「山吹色のお菓子を喜佐峰委員長が渡したりして穏便に済ませてたのはそれとなくは説明したんだけどもね……全く問題にならないなんて異常だって、誤魔化すなって言われてさぁー困った、困った」 
「で?」
「うん……説明しますので、長い脚が俺に届く距離まで近づかないで……?」

 どんどん壁を背にして横にずれていく副会長。
 どうやら俺から距離をとりたかったらしい。

「子供が起こした揉め事は親が責任を持って頭下げに行くからって、良いご両親ですね?」
「で?」
「スパダリといちゃいちゃしてて他人を殴ってるひまなんかないですよーとか言って笑ってたら転入生が来た」
「そうだな」

 転入生を殴り飛ばさなかったのは結果的に正解だった。
 ここで問題が起きたら両親に喜佐峰のことを話す機会がなかったかもしれない。

「宗茂さまが大っきらいな支配型タイプのやつとか恐ろしすぎ。タイミング的に怪しかったから話を聞くでしょう? 聞きましたとも。そうしたら、別の学校で揉め事を起こしたけど喜佐峰委員長の元で大人しくしてたら許してもらえるって理事長が言ってたって」
「理事長とオレの両親は友人同士だな」
「存じております。融通がきくのであなたさまはこの学園にいらっしゃいます」
「で?」

 両親に疑われたのはショックじゃない。
 むしろオレのキレやすさをわかっているからこそ反応だ。
 オレが生活していて被害の出なさ加減に異常を感じて副会長や理事長に聞いたんだろう。
 それは寮で暮らしている子供を結構気にしてくれていて有難いのかもしれない。
 だが、オレのキレやすさ判定に転入生を使ったのは非人道的だ。
 場合によって転入生は血だるまになっていた。

「スパダリと……ご実家に挨拶に行かれるのが一番かと?」
「喜佐峰の人柄を知ればオレの周りのトラブルの減り方に両親は納得するって? そうだろうな」

 とりあえず喜佐峰がオレの親にお茶を淹れれば話はまとまりそうだ。
 そのことはいい。

「転入生が在学中にずっと喜佐峰の近くにいることになるってなんでだ?」

 忍耐力テスト一級は返上していいので転入生はどこかに行ってもらいたい。
 学園にいてもいいがオレの視界に入ってほしくない。

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