双子の兄の恋人(?)がオレのストーカーをするが気にしていない
瀧野晴人(双子弟)視点。
親切心はいつでも空回りする。言わなければ良かったと後悔ばかりが駆け巡る。大声で後悔を叫びたいのに一人ぼっちでは声も出ない。誰も聞いていないなら、声を出すだけ無駄に思える。いつからかオレはおしゃべりな無口になってしまった。
『えっと、あのな、オレはハルトと違って、好きな奴に好き勝手される方が、いやいい』
自分の言葉を思い出してスマホを投げる。
水山に好き勝手されたいけれど、そんなことを言ったら馬鹿にされそうだ。
作ったチャーハンを一口食べて肩を落とす。
得意料理だと思っていた。でも、いつからか作らなくなっていた。
両親が居なくてもご飯は炊いてあるから、カレーとチャーハンは頻繁に作っていた。
だからきっと、ハルトは飽きてしまったんだ。
ある日、いらないと言って外で食べてくるようになった。
知り合いに奢ってもらっていると言っていた。
一人分のチャーハンが作れずにいつも夕飯のチャーハンは余ってしまう。
気づいた時にはチャーハンを作るのをやめていた。
水山がおにぎりでチャーハンなんてものを食べているから、絶対にオレが作った物が美味しいと言った。口にしてからしばらく作っていなかったので、おにぎりのほうが美味しい気がして嫌になる。料理を自分はしないからと水山はオレのことを褒めて、機会があったら作ってと言った。
たぶん、水山はその時の会話なんて覚えていない。
覚えてなかったとしてもオレはチャーハンを作りたかった。
理由はよくわからない。
でも、さっきの言葉通り水山が「好きな奴」だから、なんだろう。
ハルトとオレは趣味が全く違っている。
そう考えるとハルトの逆を考えるとオレの気持ちの答え合わせが出来てしまう。
「……ただいま。お、良い匂いする」
床に転がって身悶えているオレに気づかず、水山がチャーハンに食いついた。
尻がうずうずしてくる。今日はエッチなことはせずに映画を見る予定なのに今すぐに水山のチンコが欲しい。
あまりにも水山がオレのチンコ係なので、恋人として何をするべきであるのかよくわからない。
水山はオレに骨抜きなので、深く考える必要もない。
「ハレト? 待たせたこと、怒ってる?」
「おこってない……メガネが歪んでる」
怒ってないわりに自分でも不機嫌そうな声が出た自覚がある。それに関して水山はツッコミを入れない。優等生は言葉を額面通りに受け取るのだ。裏側なんて考えない。勉強だけしかしないから、オレの複雑な心境など読みとらない。仕方がないので、フレームが歪んでしまったメガネを外して「一人でいるの、嫌だ」と教えてやる。
普通に考えて他人の家に一人でいるなんて手持無沙汰だ。水山はそういう配慮が足りない。オレ以外に友達らしい友達も居ないので、考えつかないのかもしれない。学校と塾と家しか行かないような顔をしている。
「なんでメガネ壊してんだよ」
「……ハルトに殴られた」
「はあ!?」
「って言ったらどうする」
冗談が分かりにくいのが優等生の特徴だろうか。いつも冗談を言っていない人間の冗談は本当に聞こえるから困る。
「なんでハルトに殴られんだよ。……もしかして、弟をくださいとか言ったから!?」
オレの言葉に目を見開く水山。失敗した。きっと間違った。オレは嬉しくなるとすぐに失言をしてしまう。さっきの電話も水山がハルトに来て欲しくなさそうだった。それが嬉しかったから、いろいろとべらべらと喋ってしまった。オレとハルトの趣味は違うとアピールしたのも水山が勘違いしないようにというフォローのつもりだ。
思い返すといらない言葉が数多い気がしてしまう。
誰だってそうかもしれないが、おかしいとか変とか非常識だと言われるのがオレはトラウマレベルで不快になる。
友達だと思ってる相手にものすごい勢いで突き飛ばされる気持ちになって、つらくなる。
「よくわかったな」
今すぐ死にたいぐらいに自分の発言を後悔していたオレに水山は感心した顔をする。
泣きそうな表情になっている気がするが、メガネのない水山にはきっと見えていない。
目をこすって平気な顔で「やっぱり?」と笑うとお腹が空いた。
「ハレトは渡さないって言われたけど、俺がもらっていいだろ」
「許してやる!」
ハルトがオレを好きなことが嬉しいのか、水山の言葉が嬉しいのかよくわからないが、オレの作ったチャーハンはやっぱり美味しい。
水山の口にあったのか、いつもより笑っていた気がする。
「映画を見る前にメガネを買いに行こう。数時間で作れるだろ」
「眼鏡買ってから、アイスも買おう」
「あ、そういえば買ってなかったのか。ハルトと会ったからか? 水山って、うっかりしてるよな」
優等生は融通が利かない。ハルトと顔を合わせてオレと電話をしたせいでアイスのことを忘れたんだろう。オレの電話の後すぐに帰ってきたので、慌てていたのかもしれない。アイスのことを忘れるぐらいにオレに会いたがるなんて、どうしようもない奴だ。
ニヤニヤしていると手を握られた。
驚いているオレを尻目に歩き出す水山。
常識というものが欠けている。
「男同士で」
「なんで? 普通だろ」
嘘だと言いたかったが、女子高生たちが手を繋いだり、腕を組んだりして歩いていた。仲がよさそうな友達同士。同性でも堂々としていれば問題にならないのかもしれない。オレがあわてたり、照れたりすると逆に気まずい。
「さっさと買いに行こうぜ」
「変なこと言われたら水山のせいにするからな」
「いいよ。だってオレがハレトと手を繋ぎたいって思ったんだから」
恥ずかしがると変な空気になると思っているのに顔が熱くなる。
仕方がないので水山のチンコを揉んで落ち着くことにする。
「おまえの精神安定方法って独特だよな」
「ハルトはよくやってきたぞ。緊張したら揉ませろって」
「どんなときに緊張するって?」
「オレが全校生徒の代表でスピーチするとか?」
「それって、おまえの緊張をほぐそうとしてたんじゃねえの」
頭の良い奴の言うことは違う。水山の指摘は目からうろこが落ちることが多いが、これは特にうろこがボロボロ落ちてきた。ハルトはちょっと意地悪で冷たい時があると寂しくなったりするが、やっぱり根っこの部分でオレのことを大切にしている。オレが気づけないだけでハルトはオレを大好きに違いない。
「兄弟仲いいよな」
「だよな!!」
真面目な副会長であるハルトと髪を脱色して制服を着崩すやんちゃなオレは似てない双子だ。
似ていないイコール仲が悪いと言われることもあって、イライラすることもあった。
オレたちの仲が悪いわけがない。水山はよくわかっている。バカは見た目で即座に判断するが、優秀な人間は考察した上で答えを出す。水山は頭がいいので、見た目で一方的な決めつけをしない。
「どんな眼鏡がいいと思う?」
「黒ぶちのか、ふちなしか」
「え。なにそれ。クソださくねえ!?」
オレの返事に反応したのはもちろん水山じゃない。
水山はオレの勧め通りにふちなしのシンプルなメガネを鏡の前で試している。
急に横から話しかけてきたのは最上だ。
顔を近づけてくるので頭突きをする。
水山と付き合うことになったこともあるが、ハルトと付き合っている相手とキスフレはやっていられない。
「ひどっ。ハレ、なんで!?」
「オレは水山と買い物デート中なんだよ。邪魔すんなクズ」
「怒りすぎだろ。ちょーかわいい」
最上は嫌いじゃないが、好きでもない。
同じクラスであいさつを交わすのはいいが、休日に遊ぶほどじゃない。
水山が居なかったらゲーセンに一緒に行ってもいいが、今は水山と買い物をしている最中だ。
チャラチャラしていてオラオラ系のオーラを出す最上に水山が委縮したり怯えたらかわいそうだから、消えてもらいたい。
「昔っから、自分の予定が乱されるのを嫌がるよなあ」
「誰でも嫌だろ」
「それってハルから予定をドタキャンされまくったトラウマとかだと思うんだ」
「だったら、なんだってんだ」
友達との約束よりもハルトとの予定をとっても、肝心のハルトが来なくて家の中で待ちぼうけをすることは多かった。
後日、約束していた友達とハルトが遊んでいたりして、オレは自分の記憶がよくわからなくなって、約束事が苦手になった。
「俺はハレをいじめまくってるから、ハルのことが結構きらいなんだよ」
オレの味方であろうとしてくれるのはともかく、ハルトに怒りを向ける最上はよくわからない。
キスをしてこようとするので、頭突きで応戦する。
怒るでもなく耳の裏を撫でてくる最上はオレにDVDを渡してきた。
「ハレは優しいから、どうにかしたいって思うだろ」
「なにが?」
「自分の身体とハルの身体」
「ん? フィードバックがどうとかいうやつ?」
「そうそう。ハルがこのDVD見せるのが俺とハレのセックスだって言ってた」
よくわからないがセックスをする予定がないので床に落として踏みつけた。
最上はあまりのことに声が出ないのか所在なさそうに両手を宙に浮いたまま情けない顔をする。
「店に迷惑をかけないように掃除しとけよ」
DVDの残骸と最上を放置して買うメガネの候補を絞り込んだ水山のところに向かう。
店員がオシャレ眼鏡を売り込もうとしていてイラっとしたが、水山は自分に似合うメガネがどういうものか分かっているのでオレのお勧めから選ぼうとする。心が弾んで手が勝手に水山の股間を揉んでいた。結構な重量感があるのにオレの中に納まりきる。そう考えるとオレの尻はとても優秀なのかもしれない。
2018/08/06