瀧野晴人(双子兄)

瀧野晴人(双子兄)視点。
 
 
 自分の感覚がハレトに伝わっている。
 それに気づいた時、まずはじめにおこなったのは自分の指を逆向きに折り曲げることだった。
 妄想なのか、空想なのか、確かめなければいけなかった。
 
 晴れている人という名前なのに俺の心はどうしようもなく、じめじめうじうじとしている。
 
 儚い美人と訳の分からないことを言われるが、ただの根暗だ。
 俺の性根は腐りきっている。この腐敗臭がハレトに気づかれたくないと思ったせいで、道を間違ってしまった。
 男とのセックスはとてもいいストレス解消だ。誰かを殴りつけてスカッとするのと感覚として同じ。それ以上の意味はない。入れても入れられても、そこに意味はない。相手がハレトではない時点で殴り合いの類似行為だ。自傷とはまた違う。プレイという体で相手を物で叩いたり、首を絞めてみたりといった普通なら出来ないことが楽しい。
 
 容姿から弱々しい守られたがりのバリネコに見えるらしいが、どちらかといえばタチ寄りのサディストだ。
 ハレトを狙っていた自分の担任をハメて島流しにしたのは楽しかった。
 俺がハレトを装って汚いケツ穴にハメていたせいで、ハレト本人に被害がいきそうになったのはちょっとした失敗だが、子供だったので仕方ない。
 
 ハレトが髪を脱色してピアスをつけて浮かれ野郎になっても、変わらずカワイイ。
 けれど、俺が色を決めていないとか、俺がピアスをあげたわけじゃないというのがいちいち気になってハレトを直視できなくなった。ストレスはそのまま性欲に変換され、男たちを犯して踏みにじる。子供に犯されているという背徳に絶望的な顔をしたり、恍惚とする変態たちを適当に食い荒らす。
 
 現在の生徒会会計の最上はハレトとキスをしているのを見て、引きはがすために近づいたが、すこし失敗した。
 仕方なく尻を使わせてやったら調子に乗り出した。
 男は男を犯すことで征服した気になるらしい。
 俺の知らないハレトの言動をストーカーとして知っているので、情報源として面白かった。
 
『ねえ、はっちゃん今日はあの子と遊んでたでしょう』
『なんでわかったんだ? もしかして、テレパシー的なやつか!?』
 
 ハレトは本当に純真なので、俺が「そうだね、超能力だよ。お兄ちゃんはすごいんだよ」と言えば尊敬のまなざしを向けてくる。俺が嘘を吐くはずがないと思っているあたり、とてもカワイイ。

 全身から「ハルト好き好き」とオーラを出し続けるハレトがカワイイから、いじめずにはいられない。
 両親がたまたま帰りが遅い時にセフレの家で時間を潰して、ハレトをひとりで留守番させる。
 それだけで、帰ってきた俺を迎えるハレトの顔は最高にカワイイものになる。
 ピザ屋や寿司屋のチラシを手にして「なに食べようか」と聞いてくるハレトに「お腹いっぱいだからいらない」と答えたら、泣き出しそうな顔で肩を落とす。しょんぼりと丸まった背中を見ていると勃起が止まらない。玄関先で犯して、宅配のドライバーにショタセックスを見せつけたくなる。
 
 ムラムラはイライラへと変わり、俺は日常的にセフレと過ごすようになった。
 ハレトをさびしがらせることもできて、ちょうどいいと思っていた。
 
 高校生になりとある計画から俺はタチをすこし封印することにした。
 生徒会長の青森は手近ないい棒だった。会計のように頭がおかしいわけじゃないので、発散相手としてちょうどいい。
 校内セックスはもちろんハレトに見せつけるためだ。さみしがり屋なハレトのことだから、てっきり生徒会に入りたいと言ってくると思った。見た目のことで厳しく言われる学校でもないので、髪を脱色していても問題なく生徒会に入れただろう。そうしたら、青森とのセックスを目の前で見せつけてやるつもりだ。
 
 この世には超能力なんてない。不思議な現象など起きない。
 科学で証明できないことは、ありえない。
 
 俺は自分の指を逆向きに折って、それを隠してハレトと会った。
 ハレトはどこにも傷がなく、何も気にならないらしい。
 ガッカリした俺はせめてもの嫌がらせに自分の折れた指を見せながら、どれだけ痛くて苦しいのかを語った。
 すると不思議なことにハレトの様子が変わっていく。指が痛いとうずくまるハレトはカワイイ。怪我がないのに涙を浮かべて痛がる。ハレトにとって俺の傷は自分の傷だ。
 
 怪我をしていない方の足を鏡に映して、足を上げ下げすると怪我をした方の足が動くようになるという。
 つまり、怪我をした足が鏡に映った健康な足だと脳が錯覚を起こすのだ。
 片足が怪我して動かなくなった人のリハビリとして取り入れられている方法だという。
 俺はその逆のことをハレトにやっていたのだ。
 ハレトにとって脱色した髪もピアスも他人が俺と区別をつけるための記号でしかない。
 ハレトの中では未だに鏡の中の自分の姿は双子の兄である俺だ。
 俺を見て自分が怪我をしていると思い込んでしまうハレトはセックスだって同じことだ。
 俺が抱かれている姿を見て、自分が抱かれていると触れられた覚えのない場所をうずかせる。
 
 純粋すぎるせいで俺に助けを求めるのではなく、クラスメイトを頼ったのは憎らしいが、第一段階は無事にクリアだ。
 ハレトは俺を見て、男に抱かれる自分というものをリアルに想像した。そして、俺が気持ちよさそうにしていることで、セックスを拒否するようなことはしない。怯えることもなく男を欲しがる淫乱に育つのは間違いない。
 
 それとなく男同士の恋愛や体の相性の話などをする。
 ハレトは俺から話しかければ苦手な話題でも真面目に聞く。
 俺を愛しているから、俺に近づきたい、俺と同じになりたいと思う気持ちを止められない。
 うっかりを装って、青森とのハメ撮り動画が入ったスマホをロックもかけずに放置する。
 自分のスマホに転送して、夜な夜な予習するように見るハレトの勤勉さに愛おしさしかこみ上げない。
 ハレトの中では動画の中で、俺と自分が入れ替わっているはずだ。
 だから、俺に助けを求めなくても青森に抱かれようとするかと思っていた。
 
 俺にとって予定外だったのはクラス委員長の水山の存在だけだ。
 
 ハレトと俺は一緒の教室にいると面倒だという理由でクラスをいつでも分けられる。
 同じクラスじゃないせいで、水山がどういった人間なのか気づいていなかった。
 強引なハレトに振り回されている優等生だと決めつけていた。眼鏡をかけていたからだ。
 伊達眼鏡のようなものだと知っていたら、会計である最上を使って身辺調査をした。
 最上はストーカー技術だけ年々ちゃんと上達している。
 セックスに関しては下の下。道具を使えばいいと思っているド下手くそだ。
 
 俺を抱いているのはハレトを抱いているのと同じだという適当な説明を信じ込むような馬鹿さ加減があるが、ハレトと違ってかわいくもなんともない。俺が痛がるのを楽しむクズとは、さっさと縁を切りたいところだが、青森に本命が出来たせいでセフレを解消されてしまった。
 
 校内でちょうどいい肉棒を確保して、ハレトに見せつけるのを終わらせるわけにはいかなかった。仕方なく最上に抱かれて時間を潰していると同じ時間にハレトもセックスをしていることに気づいた。
 
 青森とのハメ撮り動画で校内セックスのドキドキ感について語っていたのが良かったのかもしれない。ハレトは俺がいいと勧めたものを拒絶したことがない。カバンに着けたハレトの喘ぎを聞きながら、仕方なくド下手くそを引き付ける。ハレトが非処女だと知れば、最上が暴走するのは目に見えていた。まだ、その時じゃない。
 
 俺は小出しに捏造した俺たちの体質を最上に教える。
 最上は簡単に信じ込む。
 ハレトが日に日にエロくなっていったからだろう。
 それは、最上の仕事じゃないが、間接的に役には立っている。
 
 腹が立って仕方がないことを日々をやり過ごして俺は最終的な仕上げをおこなった。
 
 事前ハレトに意識がない時に何かされたら俺のところに感覚がすべて来ると伝えていた。
 休日に水山の家に勉強をしに行くと言ってハレトは出掛けた。
 タイミングとしてはちょうどいい。
 水山への愛着が適度に高まったころだからこそ、効果的な方法だ。
 
 俺は頃合いを見計らって、責められてもいないのに喘ぎ始める。
 今日は拘束して最上のオモチャになる日だった。
 ハレトの体を開発しているという夢を見せてやりながら、踏み台にするために働いてもらう。
 俺の急な反応に最上はすぐにハレトに何かがあったのだと察して俺のケータイを使って電話をする。
 自分が電話をしても出ないと分かっているあたり、ただの馬鹿じゃない。
 
 そして、俺とハレトのありえない関係を水山は勝手に推測から事実だと感じていく。
 頭がいい奴ほどそれっぽい答えを用意した上で隠していると飛び込んでくる。
 自分が賢くわかっていますという顔をしてるだろう水山を想像すると唾を吐きかけたくなる。
 
「ねえ、はっちゃん。俺がしてることが全部自分にフィードバックしてるって、気づいてた?」
『ハルトのバカっ。フィードバックなんて言葉をオレが知ってるわけねえだろっ』
 
 ダメ押しのようにわざわざ作り上げた答えを口にしてやるとカワイイことを言ってきた。
 笑えるほどに予定通りだ。
 きっとハレトは不満を覚えて駄々をこねる子供みたいな顔をしている。
 自分がやっていることを横から手を出されて妨害するのがハレトは嫌いだ。
 ひとつの部活に所属しないのは、自分の練習方法や戦略について口出しされたくないからだ。
 どこにも籍をおくことは、どこにも所属していないようなものだ。
 適当にそのときどきで部活に参加していますという顔をするが、ハレトはハマり込みタイプだ。
 ひとつのことにだけ集中した方が成果が出やすい。ただ、誰にも文句をつけられたくない。自分のペースが守れないのが大っ嫌い。
 
 ハレトはセックスを気持ちいいものだと思って、水山にそこそこ執着している。
 だからこそ、邪魔されたくないと俺を責める。俺に対して怒ってみせるハレトはレアなので、録音していたかった。
 縛られた状態でなければ俺のスマホなので確実に録音していた。
 
 ここまできたら、もう計画は成功したと思っていい。
 お話はエンドマーク。
 
 ハレトは水山とのセックスを楽しむために、こう思うだろう。
 双子の兄の恋人に抱かれている状況から逃げたい、と。
 そんなハレトに俺は、こう提案するつもりだ。
 双子の兄の恋人になって抱かれればいい、と。
 
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これで満足がいかない方は後日談もどうぞ。


「三周年記念短編リクエスト企画」

どろどろな兄弟関係、サバサバした弟とじめじめした兄、ゆらゆら、うじうじ、ちゃぷちゃぷ、友人、同級生、どちらかだけ幸せ、ちょっと不幸せ」というリクエストからでした。

タイトルの「間接的に双子の兄の恋人に抱かれてる状況から逃げだしたい」というのがハレト(の考え)と見せかけてハルトの願望(野望)という話でした。

個人的にすごく斜め上のズレっぷりがあると思いますが、
ハレト(ハルト)の性格としても斜め上のズレっぷりっぽさがあるので、良いのではないかと感じております。

2018/07/30

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