◇ 無邪気な神様は今日も残酷遊戯を求めてる【完結】

「一周年記念単語リクエスト企画」
リクエストされた単語はラストに掲載。
先に知りたい方は「一周年記念部屋、単語リクエスト企画」で確認してください。


中年ボディガード受けです。

どんな酷い内容でも大丈夫な人向け。


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 他人の不幸な姿が自分の幸せという考え方はそこまでおかしなものじゃない。
 誰でも自分が一番上であると実感したい。
 人を蹴落として見下した瞬間、確実に相手よりも自分は上にいる。
 だから他人の価値を下げようとする人間が一定数必ず現れるのだ。
 自分の価値を高めることよりも他人の粗探しをして嘲り笑うほうが楽しい。
 楽なことはそれだけで心を満足させることができる。
 
 
 それで言うなら俺の小さな雇い主は他人の不幸にも他人の幸福にも同じだけ敬意を払っている。
 人を陥れるのも人を騙してみるのも人を嘲り笑うのも大好きだが彼の本質はどこからしら人間愛が滲んでいる。
 そこが厭世的ですべてを壊しつくしたいと破滅願望を抱く彼の兄との違いだろう。
 表面的には優等生で美しく気高く正しいものだけで作られている俺の雇い主の兄はその実とても壊れて欠陥しかない。
 
 暴力が嫌いで争いが苦手でおだやかさを求めている癖にどうやら武力の化身とされる俺に憧れているらしい。
 隠し通せないマゾヒスティックな欲望の瞳は被虐の痛みを求めていた。
 もちろん守る人間として主人に仕えているのでその兄に無体なことをするわけもない。
 
 それでも変な不良に惹かれておかしな道に向かうよりはいいかと好意を理解したうえで優しく接していた。
 これが俺の小さな雇い主の機嫌を損ねたのは仕方がないことだ。
 享楽に大枚を叩く雇い主は正体を隠して遊んでいた。
 実年齢のこともあるので俺が雇い主の望んだゲームを開催して彼の元に届けていた。
 追いつめられて行き場がないような人間にチャンスという名の試練を与える神様が彼だった。
 主催者がいまだに中学に入学していない人間だと知ったならハメられた彼らはどう思うんだろう。
 
 友人同士が大金を前にして裏切るかどうかを賭けたり、借金で首が回らなくなった男たちを複数集めて乱交パーティーをさせたり、大金を騙し取られた老人の復讐の手助けをしたり、結婚詐欺師の本命を結婚詐欺にかけたりと慈善事業から悪趣味なものまで思いつく限りのことを雇い主の指示で俺は行った。
 
 飽きたらやめると言っていたし、中学か高校に進学したらやめそうではあるが今はまだ人間が泣き叫んだり絶望したりする姿が珍しくて楽しいらしい。
 
 無邪気に他人の心をえぐっていく雇い主でも幼いので兄に対する独占欲や依存心がある。
 それはそれで人間らしくて子供っぽくて安心する部分だが、どうやら俺はその執着の度合いを勘違いしていたようだ。
 
 雇い主の兄からの好意を受け入れているあるいは自分の兄を弄んでいる、そういう風に俺の行動はとられてしまった。
 結果として残酷な遊戯の演者にスタッフ側の俺が立たされた。
 
 
 夕飯をわざわざ小さな雇い主から渡された段階で嫌な予感はしていた。
 愛らしい顔で「特別手当いっぱいあげる」と彼は笑う。
 雇い主には俳優からテレビの司会やらマルチに活動していたタレントの祖父母と親戚が複数いる。
 そういった後ろ盾があるからやりたい放題なのかというと逆だ。
 そういった数々の人間が数年前から死んでいき雇い主に遺産が渡った。
 未成年なので正確には後見人が管理している。
 普通は両親だが雇い主の場合は俺だ。
 巨万の富を事実上は自由に使える位置にいるのが俺だが家政婦とボディガードのようなことをして過ごしている。
 俺は雇い主の手足であってそれ以上ではない。
 
 食後三十分ほどしてから激しい腹痛に見舞われた。
 トイレにこもって出てきたときには千鳥足。
 屋敷の警護をさせている部下が水をくれたのでそれを飲み意識は消えた。
 どこかで分かっていた。
 危機感もなく生きていられるほど雇い主のそばは甘くない。
 
 
 目が覚めると椅子に座らされていた、全裸で。
 
 
 鎖で吊るされるのは翌日に響くだろうからイヤだと言っていたのを覚えていてくれたらしい。
 甘くないと思っていたが案外優しい。
 縁日でも見なくなったレトロなお面をつけた人間が三人、警棒とスタンガンとローションをそれぞれ構えていた。
 体格からして雇い主の警護をしている部下たちだろう。
 人を家に入れるには雇い主なりのルールがある。
 俺がホームレスをしていたり雇い主に精神的にも肉体的にも追いつめられてボロボロになったやつを鍛えて手駒にするのは許してくれるが家の敷居を簡単には跨がせてくれない。
 
 目の前の三人は雇い主の覚えもそこまで悪くはない人間だ。
 どこからか連れてきた小汚いおっさんたちに寄ってたかってという趣向じゃないだけ思いやりを感じられる。
 
 この三人が実行班に選ばれたなら拷問の類ではない。
 ローションを持っていることからも目的は性的なことに決まっている。
 最低で最悪ではあるもののこうなった理由はわかっているのでうろたえることもない。
 
 
「アンタ、こんな時も無表情なんすね」
 
 
 舌にピアスをしているからか少し独特な発音の仕方になっているのは三人の中の一番の若手、ウルトラなお面をつけて手にローションを持っている。
 若いと言っても雇い主の兄と同学年だ。
 兄がどうやって学園生活を送っているのか知りたいというので同じような年齢で使い物になるやつを探した結果、行き場をなくしていたコイツを見つけた。
 雇い主の兄がつい惹かれてしまうだろう不良ルックに身を包ませたら脳内までいつの間にかヤンキーになっていた。
 ヤンキーとはウイルス性のもので感染しだすらしい。
 
「これでも驚いている」
「どこが」
 
 俺の言葉を即座に否定したのは海賊王を目指している少年のお面をつけてスタンガンを持った一番身長が高い男。
 特徴的な高身長のため声を聞くまでもなく誰だかわかる。
 俺よりも五歳は下の人間だ。
 茶化したように俺のことをおっさんと呼んだりする口の悪さをヤンキーウイルスに感染したウルトラなお面の若手が真似したりする。
 スタンガンのスイッチは入っておらずとりあえず俺が反抗したら怖いので装備したという空気がある。
 元々は喧嘩屋という謎の肩書きを名乗って人を殴りつけていた変態だ。
 世直しをしたいとか言いながら借金で首が回らず自殺しかけていた。
 いまは雇い主の元、世直しとは程遠い場所に居ながら地道に借金を返している。
 
「旦那。表情筋、死にすぎやろ」
 
 呆れたような声を出すのは三人の中で一番新人ではあるが年齢としては俺に近い男だ。
 自分で選んだんだろうアニメのキャラクターのお面をかぶり手には警棒を持っている。
 これも海賊王希望であるお面をつけている男と同じで武装せずに俺と対面できなかったのだろう。
 
「アンタを、アンタをこれから犯す」
 
 ウルトラが言った。
 すでに勃起しているらしい。
 女日照りが続いた若者の悲しさか。
 
「尻でしかイケないメスにしてやるよ、コイツでなっ」
 
 海賊王を目指していると人は精神が闇に飲み込まれるのかはたまたゴムゴムではなくヤミヤミの実を食べているからこそなのか自慢げにペロペロキャンディーをとりだした。
 スタンガンはもう床に置いている。俺の反応のなさに怒ってないから大丈夫だと余裕をかましたらしい。
 そんなことで海賊王になれるんだろうか。
 
「……これ、めいれいっ、めいれいなんでっ。ほんま堪忍なぁ」
 
 ぶるぶる震えてアニメキャラのお面がずりさがり素顔が露出しているがお前はそれでいいのか。
 自分の年齢を含めて切なくなってくる。
 
 
 三人それぞれのぐちゃぐちゃとした言い分を整理すると俺には選択肢があるらしい。
 
 ひとつめはペロペロキャンディーを舐めて一つの棒状に直してそれを尻に入れる。
 ふたつめはペニス型の飴を尻と口に入れる。飴は小さいのから大きいのまで大量にある。
 みっつめは三人と一回ずつセックスしながら飴を舐める。
 
 どれを選んでも飴が絡んでくるのは雇い主が縁日で飴細工を大量購入したからだろう。
 ペニス型なんてものを作らせているとは知らなかった。
 俺が知らなかったということはそのときから計画は始まっていたということだ。
 
 
「飴の味はなんだ?」
 
 
 これは一時間やそこらで終わる企画じゃない。
 一晩か最悪もっと長時間かかる。
 ならば、大切なのはひとつだ。
 俺が耐えられるかどうか。俺が耐えようと思うかどうか。
 
 
「このデカいんはパインアップルやな」
「ゴツゴツして卑猥なラズベリーピーチが一番お勧めだ」
「こっちの細いのはバターキャラメル? やわらかくねえ? 中折れしねえか?」
 
 
 用意している飴を物色しながら話す三人に緊張感はない。
 椅子に固定されていると言っても手足の拘束は細いベルトのみ。
 簡単に外せるので顔を突き合わせて飴を漁っている三人の頭をそれぞれつかんでぶつかりあわせる。
 身長差があるので高身長である海賊王未満には大したダメージはいかなかった。
 ウルトラは倒れ込み、アニメキャラクターはお面が大破した。
 
 部屋から出るとすこし拗ねた顔で電気ネズミのお面を頭の後ろにつけた雇い主がいた。
 食べている細工の飴も鳴き声が聞こえてきそうな黄色のネズミだ。
 
「兄さんといっしょに縁日に行ったでしょう」
「そう指示されたので」
「兄さんの嘘だって知ってたでしょう」
「それを支持されていたので」
「まあ、そうだけどね」
 
 肩をすくめながらも不満だと表情に出す雇い主は年齢相応に幼い。
 
「食べ物を無駄にしようとしたから怒っているんだろう」
「怒ってはいません」
「まあ、いつも通りに不機嫌そうだね」
「不機嫌ではありません」
「あぁ、そうか。飴よりも下剤が嫌だった? それは悪いことしたね。ボーナスつけるからいいでしょう」
 
 俺が何を言おうとも使えない額の金を与え続けてくる人なので黙ってうなずくことにした。
 
「鏡張りの部屋でふたりっきりで飴じゃなくてシリコン製のディルドなら下の口で食べてくれる?」
「上の口でもパイン味ならゆっくり食べますよ」
「うわー、えっちぃ」
 
 子供として不自然じゃない無邪気な笑顔。
 どうやら雇い主は俺を犯すという役目を担った三人の葛藤の姿ですでに満腹らしい。
 
 次から次へと興味を移す小さな雇い主の行動を完全に把握するのは難しいがこの職場で即死はありえないので気にいっている。



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無表情、中年、小学生、独占欲」NG「ハッピーエンド、すれ違い、名前呼び」という単語リクエストからでした。


単語リクエストはきちんと出来てるはずということで細かいことはあえて言いません。

全てを読むにはワッフルワッフルと書き込んでください。

※作品にピンときたら下に書きこんでいただけると大変助かります!
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