2 双子の弟はハイパービッチ?
人のパソコンの中身なんて見るものじゃない。
親しき仲にも礼儀あり、なんて言葉を忘れて俺は牧さんのパソコンを使わせてもらおうとした。
何とも思わずイヤホンを抜いて電源を入れた。
パソコンまわりのコードが邪魔だと思ったのだ。
起動時からしてそのパソコンはおかしかった。
起動音が喘ぎ声だった。
聞き間違いだと思いたいが少し長く大きな声で男のような低いながらに鼻にかかった甘い「ひゃあんっ」とでも表現できそうな声が聞こえた。
冗談でそういう設定にしているとか誰かに悪戯をされて直さずにそのまま使っているのかもしれない。
頭の中で好意的に考えようとしても目の前のパソコンの壁紙のせいで無理だった。
デスクトップにアイコンが少ないので壁紙はよく見える。
壁紙に使われている写真はいわゆるハメ撮りだった。
男の勃起した股間が無修正でさらされているだけではなく、尻にチンコが入っているのもきちんと見える。
ダブルピース姿で笑っているのはどう考えても双子の弟である大智だった。
衝撃に動けなくなっていた俺に更なる悲劇が襲う。
パソコンに触れずにいたのでスクリーンセーバーが起動した。
どうやらパソコンの中にある画像を表示していくような設定にしているらしい。
パッパッと写真が表示されていく。
そのどれもが大智のセックス中の写真だった。
中には顔や目元を手で隠したりするものがあるが大体は顔がちゃんと映っていた。
連続写真なんかもあって大智が感じたり絶頂している流れが理解できる。
写真なのに精液の匂いがしそうな生々しさがある。
中学三年のころの家庭教師にいやらしくねだっていた大智を思い出す。
セックスが楽しいとスポーツをするような感覚で体を重ねていた大智。
中には隠し撮りのようなものもあった。
複数の男たちとセックスしているようなものもあった。
カメラ目線でチンコを舐めたり、オナニーしたりといろんな痴態を大智は演じていた。
思わずパソコンをシャットダウンすると喘ぎながら「イク、イクっ!!」と甲高い声が聞こえた。
写真を見た後だと大智の喘ぎだと確信した。
もしかしたら動画もパソコンの中にあるのかもしれない。
今まで優しくいい人だと思っていた牧さんにゾッとする。
俺と大智の見た目は双子なので似ている。
大智のほうが筋肉質で性に関しておおらかなのかもしれないが、名字も同じなので他人の空似とは思わないはずだ。
俺のことを知ってから大智を知ったのか、大智のことを知ったから俺に近づいてきたのか。
どういうつもりでパスワードのないパソコンをこんな変態的にしてるのか悩みは尽きない。
俺と牧さんに肉体関係はない。
まだそこまで進んでいなかった。
付き合うことになったのは最近の話だ。
牧さんが何を思っているのかわからない。
以前の家庭教師のように俺と大智の両方を手に入れたいのか、大智の代わりに俺を手に入れたいのか。
これほど知らなければ幸せだったことはない。
コンビニは覚えることが多く大変でも店長が牧さんなのでつらくてやめたいとは思わなかった。
牧さんの役に立ちたい、もっと頑張りたいと、そればかり考えていた。
自分が見たものを忘れてしまいたい。
そう思いながらも俺の脳裏には喘ぎ声すら聞こえてきそうな大智のハメ撮り写真がある。
最低限の荷物を持って同棲している部屋を出る。
牧さんと向き合える自信が俺にはなかった。
大学の友人の家で夕飯を食べさせてもらいながら俺は想像もしない人物と再会を果たす。
俺の家庭教師をしていた人がスーツを着て友人の家にやってきたのだ。